BOOK

ジュリアン・バーンズの料理エッセイ『文士厨房に入る』を読んだ

文士厨房に入る /ジュリアン・バーンズ (著), 堤 けいこ (翻訳) 数々の料理書を読み漁り、両手に余る調理器具をキッチンに揃え、手料理をふるまい味わうことを無上のよろこびとしながら、レシピにとまどい、出来栄えにどこか不安を覚えてやまない、落ち着か…

ジュリアン・バーンズの『終わりの感覚』を読んだ

終わりの感覚 /ジュリアン・バーンズ (著), 土屋 政雄 (翻訳) 歴史とは、不完全な記憶と文書の不備から生まれる確信である――。二十代で自殺した親友の日記が、老年を迎えた男の手に突然託される。それは、別れた恋人の母親の遺言だった。男は二十代の記憶を…

鸚鵡をめぐる冒険/ジュリアン・バーンズの『フロベールの鸚鵡』を読んだ

フロベールの鸚鵡 /ジュリアン・バーンズ(著), 斎藤 昌三(翻訳) 文豪フロベールの生涯をめぐる二羽の鸚鵡の謎。「僕」のフロベール探究の旅は、「僕」自身の過去に、妻の自殺に思いを馳せながら次第にその色合いを変えていく。一作ごとに新しい趣向で世界じ…

橋本治の『九十八歳になった私』を読んだ

九十八歳になった私 / 橋本治 一体今日は、いつなんだろう? もうすぐ九十八だ。多分。ゆとり世代(もう五十だけど)の編集者に「戦後百一年」なんて原稿頼まれたり、ボランティアのバーさんが紅白饅頭持ってきたり。東京大震災を生き延びた独居老人の「私…

野坂昭如による猟奇地獄絵図短篇『骨餓身峠死人葛』を読んだ

骨餓身峠死人葛(ほねがみとうげほとけかずら) / 野坂 昭如 九州の入海をながめる丘陵の,最も峻険な峠「骨餓身」.昭和初期,その奥にある葛炭坑を舞台に繰り広げられる近親相姦の地獄絵,妖しく光る異常な美の世界.磨き上げられた濃密な文体で綴られる…

フローベールの『三つの物語』を読んだ

三つの物語 / フローベール (著), 谷口 亜沙子 (翻訳) 無学な召使いの人生を、寄り添うように描いた「素朴なひと」、城主の息子で、血に飢えた狩りの名手ジュリアンの数奇な運命を綴った「聖ジュリアン伝」、サロメの伝説を下敷きに、ユダヤの王宮で繰り広…

『トロイア戦争全史』は最高にヒャッハーッ!!な歴史絵巻だったッ!?

トロイア戦争全史 / 松田治 トロイア戦争の全貌を伝える144話の物語。壮大なギリシャ神話の一大要素、トロイア戦争を主題とするギリシャ、ラテンの古典作品は数多い。しかし、いずれもが戦争の一部を記すのみで、その全容を語るものはない。本書は、これら…

”ハーメルンの笛吹き男伝説”は真実なのか?/『ハーメルンの笛吹き男――伝説とその世界』

ハーメルンの笛吹き男――伝説とその世界 / 阿部謹也 《ハーメルンの笛吹き男》伝説はどうして生まれたのか。十三世紀ドイツの小さな町で起こった、ある事件の背後の隠された謎を、当時のハーメルンの人々の生活を手がかりに解明していく。これまでの歴史学が…

スティーヴンスンの古典冒険小説『宝島』を読んだ

宝島 / スティーヴンスン (著), 村上 博基 (翻訳) 港の宿屋「ベンボウ提督亭」を手助けしていたジム少年は、泊まり客の老水夫から宝の地図を手に入れる。大地主のトリローニ、医者のリヴジーたちとともに、宝の眠る島への航海へジムは出発する。だが、船の…

古典小説『ガリバー旅行記』は300年前に描かれた痛烈なる文明批判の書だった

ガリバー旅行記 / ジョナサン・スウィフト (著), 山田 蘭 (翻訳) 架空の四つの国を訪れることになるガリバーを待っていたものは?17世紀の英国に材料を採りながら、人間と社会にむけて痛烈な風刺の矢をはなった諷刺文学の最高傑作。ファンタジーの古典。全…

28年に渡る孤島サバイバルを描いた古典小説『ロビンソン・クルーソー』を読んだ

ロビンソン・クルーソー / ダニエル・デフォー (著), 唐戸 信嘉 (翻訳) 船に乗るたびに災難に見舞われるロビンソン。無人島漂着でさすがに悪運尽きたかに思えたが、住居建設、家畜の飼育、麦の栽培、パン焼きなど、試行錯誤しながらも限られた資源を活用し…

シャーロック・ホームズ・シリーズ記念すべき第1弾『緋色の研究』を読んだ

緋色の研究 / アーサー・コナン・ドイル (著), 深町眞理子 (翻訳) アフガニスタンへの従軍から病み衰えて帰国した元軍医のワトスン博士。ロンドンで下宿を探していたところ、偶然に同居人を探している男を紹介され、共同生活を送ることになった。下宿先はベ…

ジョージ・オーウェルの寓話小説『動物農場』を読んだ

動物農場 / ジョージ・オーウェル (著), 佐山栄太郎 (翻訳) 英国の農場で虐げられた動物たちが革命を起こして人間たちを追い払う。その首謀者となったのは豚たちだ。希望に満ちた新しい社会の建設が一歩一歩はじまる……そして。奇才オーウェルの未来ファンタ…

『ロックの歴史』『ジャズの歴史物語』『脳と音楽』を読んだ

ロックの歴史 / 中山康樹 ロックの歴史 (講談社現代新書) 作者:中山康樹 講談社 Amazon イギリスとアメリカが互いの音楽を「洋楽」として受容し、進化、統合させて現在のロックが生まれるまでを明快に説く。ミュージシャンの歴史的位置づけもわかるロックフ…

ガルシア=マルケスの『族長の秋』は独裁者の”百年の孤独”を描く物語だった

族長の秋 / ガブリエル・ガルシア=マルケス (著), 鼓 直 (翻訳) 無人の聖域に土足で踏みこんだ「われわれ」の目に映ったのは、ハゲタカに喰い荒らされた大統領の死体だった。国に何百年も君臨したが、誰も彼の顔すら見たことがなかった。生娘のようになめら…

ジブリ映画27作品の背景美術844点を収録したアートブック『スタジオジブリの美術』

スタジオジブリの美術 / 武重 洋二 (監修), スタジオジブリ (編集) 『風の谷のナウシカ』(1984)から最新作『君たちはどう生きるか』(2023)まで、劇場公開27作品の背景美術を844点収録。巻末には美術監督武重洋二インタビューも掲載。名作のあのシーン、…

『宇治拾遺物語 古典新訳コレクション』『システム・クラッシュ マーダーボット・ダイアリー』など最近読んだ本あれこれ

宇治拾遺物語 古典新訳コレクション / 町田康 (翻訳) 宇治拾遺物語 古典新訳コレクション (河出文庫) 河出書房新社 Amazon <こぶとりじいさん>こと「奇怪な鬼に瘤を除去される」、<舌切り雀>こと「雀が恩義を感じる」など、現在に通じる心の動きと響き…

劉慈欣のSF短編集『時間移民 劉慈欣短篇集Ⅱ』を読んだ

時間移民 劉慈欣短篇集Ⅱ / 劉 慈欣 (著), 大森 望 (翻訳), 光吉 さくら (翻訳), ワン チャイ (翻訳) 環境悪化と人口増加のため、政府はやむなく“時間移民”を決断。全世界に建設された200棟の冷凍倉庫に眠る合計8000万人の移民を率いて、大使は未来へと旅立…

2024年:今年面白かった本とかコミックとか音楽とか

今年面白かった本:北欧ミステリ篇 今年面白かった本:そのほか 今年面白かったコミック 今年面白かった音楽 年末恒例「今年のまとめシリーズ」、今回は「今年面白かった本とかコミックとか音楽」と題して今年ブログで取り上げた本・コミック・音楽の中で特…

『風の谷のナウシカ (宮﨑駿イメージボード全集 1) 』と『天空の城ラピュタ (宮﨑駿イメージボード全集 2)』

風の谷のナウシカ (宮﨑駿イメージボード全集 1) / 宮﨑 駿 (著), スタジオジブリ (編集) 「宮さん(宮﨑駿)にとって大事なのはやはり「ナウシカ」なんです。これが歴史です」(本書巻末掲載、鈴木敏夫インタビューより)。雑誌『アニメージュ』の漫画連載とし…

輝ける青春からの失墜 /ドナ・タートの長編小説『黙約』を読んだ

黙約(上・下) / ドナ・タート(著)、吉浦 澄子(翻訳) 緑の蔦に覆われた大学の古い建物、深い霧に包まれる森。東部ヴァーモント州の大学に編入した主人公リチャードは、衒学的なモロー教授のもとで古代ギリシアの世界に耽溺する学生五人と知り合う。そしてあ…

京極夏彦の書楼弔堂シリーズ最終作『書楼弔堂 霜夜』を読んだ

書楼弔堂 霜夜 / 京極夏彦 古今東西の書物が集う墓場にて。明治の終わり、消えゆくものたちの声が織りなす不滅の物語。夏目漱石、徳富蘇峰、金田一京助、牧野富太郎、そして過去シリーズの主人公も行きかうファン歓喜の最終巻。 残念ですがご所望のご本をお…

インカ帝国がヨーロッパを席巻するもう一つの世界を描いた恐るべき歴史改変小説『文明交錯』

文明交錯 / ローラン・ビネ (著), 橘 明美 (翻訳) インカ帝国がスペインにあっけなく征服されてしまったのは、彼らが鉄、銃、馬、そして病原菌に対する免疫をもっていなかったから……と言われている。しかし、もしも、インカの人々がそれらをもっていたとし…

大傑作。北欧ミステリ長編『ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女』が最高に面白かった。

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女/スティーグ・ラーソン (著), ヘレンハルメ美穂 (訳), 岩澤 雅利 (訳) 月刊誌『ミレニアム』の発行責任者ミカエルは、大物実業家の違法行為を暴く記事を発表した。だが名誉毀損で有罪になり、彼は『ミレニアム』から離れ…

小川隆夫によるマイルス評伝『マイルス・デイヴィスの真実』を読んだ

マイルス・デイヴィスの真実 / 小川隆夫 「それなら誰にも書けない本を書けよ。なにしろ俺のことは、ずいぶん間違って伝えられているからな。」――マイルス・デイヴィス マスコミ嫌いで有名だったマイルスに最も近づいた日本人ジャズ・ジャーナリストによる…

スパイ小説と犯罪小説の合体した傑作北欧ミステリ『最後の巡礼者』

最後の巡礼者(上・下)/ ガード・スヴェン (著), 田口俊樹 (翻訳) ノルウェーのミステリ作家・ガード・スヴェンの『最後の巡礼者』は、現在のノルウェーで起こった殺人事件と、ナチス占領下のノルウェーで進行するレジスタンス作戦の二つの時間軸を交互に…

背筋が寒くなるような北欧産社会派ミステリ『地下道の少女』

地下道の少女 / アンデシュ・ルースルンド (著), ベリエ・ヘルストレム (著), ヘレンハルメ美穂 (翻訳) 強い寒波に震える真冬のストックホルム。バスに乗せられた外国人の子ども43人が、警察本部の近くで置き去りにされる事件が発生した。さらに病院の地下…

北欧産犯罪小説『熊と踊れ』を読んだ

熊と踊れ (上・下) /アンデシュ・ルースルンド (著), ステファン・トゥンベリ (著), ヘレンハルメ 美穂 (翻訳), 羽根 由 (翻訳) 凶暴な父によって崩壊した家庭で育ったレオ、フェリックス、ヴィンセントの三人兄弟。独立した彼らは、軍の倉庫からひそかに大…

北欧ミステリ『オスロ警察殺人捜査課特別班 アイム・トラベリング・アローン』が結構面白かった

オスロ警察殺人捜査課特別班 アイム・トラベリング・アローン/サムエル・ビョルク (著), 中谷 友紀子 (翻訳) オスロの山中で見つかった六歳の少女の首吊り遺体。 少女の首には「ひとり旅をしています(アイム・トラベリング・アローン)」のタグがかけられて…

北欧ミステリ『スノーマン』を読んだ

スノーマン(上・下) / ジョー・ネスボ (著), 戸田 裕之 (翻訳) オスロに初雪が降った日、一人の女性が姿を消し、彼女のスカーフを首に巻いた雪だるまが残されていた。捜査を担当するハリー・ホーレ警部は未解決の女性失踪事件が多すぎることに気づく。その…