緋色の研究 / アーサー・コナン・ドイル (著), 深町眞理子 (翻訳)
アフガニスタンへの従軍から病み衰えて帰国した元軍医のワトスン博士。ロンドンで下宿を探していたところ、偶然に同居人を探している男を紹介され、共同生活を送ることになった。下宿先はベイカー街221番地B、相手の名はシャーロック・ホームズ――。ホームズとワトスン、永遠の名コンビの誕生であった。ふたりが初めて手がけたのは、空き家でのアメリカ人旅行者の奇妙な殺人事件。いくつもの手がかりから、ホームズの精緻な推理によって浮かびあがった驚きの真相の背景には、長く哀しい物語があった……。ホームズ初登場の記念碑的長編!
アーサー・コナン・ドイルによって1887年に発表された長編小説『緋色の研究』は、かのシャーロック・ホームズ・シリーズの記念すべき最初の作品である。
とはいえ、誰もが知り多くのファンに愛されるシャーロック・ホームズ・シリーズではあるが、実はオレはきちんと読み通したのはこれが初めてなのである。ガイ・リッチー監督、ロバート・ダウニーJr.主演の映画シリーズや、ベネディクト・カンバーバッチ主演によるTVドラマ『SHERLOCK(シャーロック)』は大いに好きな作品なのだが、ことホームズ小説となるとまるで読んでいない。
思えば小学生の頃、クラスメイトの誰も彼もが子供向けに翻案されたホームズ小説を読んでいたものだが、そんなクラスの流行に乗ろうと手にしてみても、まるで面白さが分からず、最初の数ページで投げ出していた。その後の読書傾向においても、SF小説は嬉々として読んでいたが、ことミステリとなると全く食指が動かなかった。そもそも殺人者なる者のトリックを探り出すとかいう物語骨子がひどく退屈で馬鹿馬鹿しく思えた。これは最近オレの相方さんも同じことを言っていて、読書家の彼女もミステリは全く読んでいなかった。とはいえ10代の頃からハードボイルド小説は面白く読めたし、最近では北欧ミステリを多く楽しんだりしていたから、今では十分ミステリは受け付けられるようになったようだ。
さてこの『緋色の研究』、既に120年前に書かれたミステリということもあってか、いわゆる「謎解き」といった部分では特に新味を感じなかったが、それでもホームズの奇人振りと相棒となるワトソンの甲斐甲斐しさ、そしてこの二人が出会うなれそめは、今でも十分ニマニマしながら楽しむことができた。これは確かに人気シリーズになるというものだろう。そして前半の殺人事件発生とその顛末を過ぎて、後半からの「解題」となる部分には大いに驚かされた。前半における19世紀ロンドンの情景から一変、後半はなんと北アメリカ内陸部の砂漠から物語られるのである。この距離感の超越には度肝を抜いた。
ネタバレになるが、この「北アメリカ」パートで描かれるのは、荒野を彷徨っていたある父娘がモルモン教徒開拓団に拾われ、その後に暗い因縁が巻き起こってしまうというものである。ここでのメロドラマ展開と緊張に満ちた逃走劇は、これだけでも一つの物語として十分に読ませるものがあった。面白いのは19世紀イギリス人であったドイルが、新興国アメリカの当時の新興宗教(モルモン教は1830年設立)に胡散臭いものとして偏見を抱いていたことだろう。現在は禁じられているが当時のモルモン教は一夫多妻制を認めており、そういった部分に知識人ドイルは野蛮さを感じたのだろう。こういった部分から現在は『緋色の研究』をそのまま映像化することは難しいのだという。





