ミステリウム / エリック・マコーマック (著), 増田 まもる (翻訳)
ある炭鉱町に、水の研究をする水文学者を名乗る男が現れる。以来、その町では墓地や図書館が荒らされ、住人たちは正体不明の奇怪な病に侵され次々と死んでいく。伝染病なのか、それとも飲料水に毒でも投げ込まれたのか? マコーマックらしさ全開の不気味な奇想小説。巻末に柴田元幸氏のエッセー「座りの悪さのよさ」を再録。
スコットランド生まれのカナダ人作家エリック・マコーマック(1938-2023)は怪奇であると同時にシュールで不条理な作風の作家だ。いわゆる「奇妙の味」の小説を書く作家だと言っていい。どの作品もおぞましく、非現実的で、最後まで真っ当な説明がなされないといった部分において、あたかも悪夢をそのまま物語にしたような薄気味悪さに満ち溢れているのだ。
そのマコーマックの『ミステリウム』は長編小説となる。英国と思われる国の寒々しい炭鉱町で不可思議な破壊行為が行われ、続いて町民たちが謎の奇病に罹り次々と死んでゆく。主人公となる新米記者は町で巻き起こる災害の謎を解くため派遣されるが、取材を続けるほどにこの町の抱える迷宮めいた過去に囚われてゆくのだ。
マコーマック小説にしては超現実的要素は皆無で、しかも事件の謎を追うミステリ小説形式の構成なのだが、主人公によって掘り起こされる証言の数々がどれも異様であり、腐臭めいた厭らしさに満ちていて、そのグロテスクさが実にマコーマックらしい。
また、町人たちを襲った疫病の症状とは、言語中枢に異常をきたし、異様な喋り方をしながら最後に消耗して死んでゆく、といったものなのだが、病理としての原因は全く説明されない。それら住民の狂った会話を聞かされ、ただただ不快で薄気味悪い気分にさせられるだけなのである。
また、マコーマック小説の常として、物語内物語という入れ子構造を成しているが、綴られるそれら小さなエピソードが本編に関わるのかどうかも判然とせず、常に居心地の悪さを感じさせる部分もマコーマック流だ。そして最後まで読み終えて、これは長い長い悪夢だったのではないかとやはり思わせるのだ。
《参考:これまで読んだマコーマック小説の記事》
・隠し部屋を査察して / エリック・マコーマック - メモリの藻屑、記憶領域のゴミ
・この怪奇で、不思議に満ちた人生/エリック・マコーマックの『雲』を読んだ - メモリの藻屑、記憶領域のゴミ
・不気味な物語。/『パラダイス・モーテル』エリック・マコーマック - メモリの藻屑、記憶領域のゴミ
