カササギ殺人事件(上・下) / アンソニー・ホロヴィッツ (著), 山田 蘭 (翻訳)
1955年7月、サマセット州にあるパイ屋敷の家政婦の葬儀が、しめやかに執りおこなわれた。鍵のかかった屋敷の階段の下で倒れていた彼女は、掃除機のコードに足を引っかけて転落したのか、あるいは……。その死は、小さな村の人間関係に少しずつひびを入れていく。燃やされた肖像画、屋敷への空巣、謎の訪問者、そして第二の無惨な死。病を得て、余命幾許もない名探偵アティカス・ピュントの推理は――。
M・W・クレイヴンのミステリ小説を読破し、次に選んだのがアンソニー・ホロヴィッツの『カササギ殺人事件』だ。邦訳の出た2019年には「このミス」など主要なミステリランキングを総なめにした話題作である。
正直なところ、作品紹介ではあまり惹かれなかった。本格ミステリに疎い私には「アガサ・クリスティへの完璧なオマージュ」と言われてもピンとこない。また、「田舎町の家政婦が階段から転落死」というあらすじも、どうにも地味過ぎないか?と思えたのだ。
しかし、あまり期待せずに読み始めると、物語の舞台は現代で、主人公は文芸誌の編集者。「家政婦の死」は、彼女が担当するミステリ作家の小説『カササギ殺人事件』内の出来事だということが冒頭で判明する。物語の概要紹介を経て、小説『カササギ殺人事件』が始まる。つまり、本作は入れ子構造、すなわちメタ構造なのだ。
静かな田舎町が舞台の小説内小説『カササギ殺人事件』は、最初は地味に感じたが、読み進めるうちに緻密な描写に魅了される。やがて第2の事件が発生し、平和に見えた田舎町の裏に隠されたドロドロとした人間関係が露わになる展開に引き込まれた。十分面白い。
そして上巻を読み終わり、犯人解明の下巻を読み始めた瞬間……思わず「えっ!?」と声が出た。
うわあああ、この展開はなんだ。完全に作者の術中にはめられてしまった。この小説がなぜメタ構造を持つのか、その理由がここで判明する仕組みだ。多くは語らないが、「フィクションとしての『カササギ殺人事件』の世界」と「それを読む編集者の“現実”世界」が奇妙にリンクし始める。これこそ「メタミステリ」だ。読者は「フィクション」と「現実」、二つの事件の展開を同時に追うことになる。
「フィクション」の探偵、アティカス・ピュントは、王道の本格ミステリ探偵として鋭い推理を披露する。一方、「現実」の主人公、編集者のスーザン・ライランドは、ただの本好きという全くの凡人だ。その凡人主人公が、素人探偵として右往左往しながら事件の核心に迫る過程がまた面白い。アンソニー・ホロヴィッツの『カササギ殺人事件』は、この画期的な「メタミステリ」構造こそが、多くの熱狂と高い評価を得た所以なのだろう。

