ガイ・リッチー版剣と魔法のアーサー王伝説〜映画『キング・アーサー』

キング・アーサー (監督:ガイ・リッチー 2017年 アメリカ・イギリス・オーストラリア映画)


君は「アーサー王伝説」を知っているか。オレはそのう、ええっと多分イギリスのお話で聖剣エクスカリバーで円卓の騎士でランスロットがどうとかで聖杯探究で魔法使いマーリンで、……という単語ぐらいしか出て来ない知識度である。知ったかぶったことをこのブログに書こうと思って今Wikipediaを開いたのだが、あんまり長々と書いてるから読むのを止めた。まあ、要するによくは知らないから許してくれ、ということである。
そのアーサー王伝説ガイ・リッチーが映画化するのだという。映画の惹句は「スラムのガキから王になれ!」となっている。予告編を観るとなんだか現代劇っぽいルックスのアーサーさんが暴れまわっている。なんじゃこりゃ、と思ったのである。なんだか軽い。伝説は伝説でも「バリバリ伝説」のほうに限りなく近い。しかもなにやら異様に話題になっていない。しかし、なにしろ監督が『シャーロック・ホームズ』『コードネーム U.N.C.L.E.』のリッチーさんだ。まあそれなりの出来にはなっているんじゃないか、少なくともこの間の『グレート・ウォール』程度には面白く出来ているんじゃないのか、と思いオレは劇場へと向かったのである。
お話はいきなり王様の軍隊と蛮族っぽい連中との白兵戦である。切り立った岩山に建つ城郭とそこに通じる長い長い橋が戦闘の舞台だ。おまけに初っ端から巨大な象みたいな魔法生物がのっしのっしと進みながら王国軍を蹴散らし、それを操る悪い魔法使いが目を金色に輝かせているのである。王国軍は壊滅寸前だ。そこに!聖剣を掲げた王様が突撃してゆくのだ!おおーファンタジーだー。まさしく剣と魔法だー。なんか『ロード・オブ・ザ・リング』みたいだー。とそこそこに盛り上がるオレである。なかなか悪く無いじゃないか。
で、まああとはアーサー王伝説っぽく進んでゆく。前述のとおりアーサー王伝説良く知らないけど。王と妃は王の弟の奸計により惨殺され、一人王の嫡子である赤ん坊だけが生き残るが、彼は娼館に拾われ己の身元も知らずにヤンチャに育ってゆくのである。だが!「岩に刺さった抜けない剣」を抜いちゃったことにより、自らが王の真の跡目であることを知るのだ。このアーサーを演じるのが『パシフィック・リム』のチャーリー・ハナム。実に精悍で王の跡継ぎっぽく見える。一方新しい悪い王様はジュード・ロウがなかなか憎々しく演じていた。
このアーサーと彼を助ける仲間、さらにアーサーを亡き者とするべく襲い掛かる王国軍の戦いを描いたのがこの『キング・アーサー』というわけなのである。全体的に実にガイ・リッチーっぽい映像と話の流れを持つ映画で、ある意味映画『シャーロック・ホームズ』を中世イギリスを舞台にし主人公を変え、スチームパンク的だった『シャーロック』を今度はファンタジー風味に仕上げたのがこの『キング・アーサー』だと思ってもらえればよろし。妙に現代的な雰囲気があったり、早回しやスローモーションや痙攣的にカットを繋いで時間感覚を操作したりといった部分も一緒。生活感溢れるごみごみした市街地なんかも同様。ちょっとスカした会話も通じるところがあるだろう。
ガイ・リッチーは『シャーロック・ホームズ』の時のように誰もが知る人気キャラを彼独特のセンスで弄りまわし換骨奪胎して一本映画をでっち上げたかったのだろうと思う。ただポップで軽妙洒脱だった『シャーロック・ホームズ』と比べるとこちらは歴史モノということもあってもっと重々しいし、それほどお馬鹿なことはやっていない。「父を殺した悪い奴に復讐だああ」というお話は少々ストレート過ぎて遊べる要素が少なかったんだろう。アーサーのトラウマを描くシーンはちょっとくどかったし。それでも「聖剣無双」なアーサーの戦いっぷりは実に迫力たっぷりで、「伝説の騎士」というよりも超能力を駆使したスーパーヒーローっぽくさえある。なにより、きっちりと「剣と魔法のファンタジー」を描きあげた部分は十分嬉しいから、ガイ・リッチー映画の好きな人、ファンタジー物語ファンの人はきっと楽しめると思うよ!