BOOK

北欧ミステリ『湿地』を読んだ

湿地/アーナルデュル・インドリダソン (著), 柳沢 由実子 (翻訳) 雨交じりの風が吹く10月のレイキャヴィク。湿地にある建物の地階で、老人の死体が発見された。侵入の形跡はなく、被害者に招き入れられた何者かが突発的に殺害し、逃走したものと思われた。…

『呼び出された男―スウェーデン・ミステリ傑作集― 』を読んだ

呼び出された男―スウェーデン・ミステリ傑作集― / ヨン=ヘンリ・ホルムベリ 編、ヘレンハルメ美穂・他 訳 北欧ミステリの中心地たるスウェーデンから、『ミレニアム』を生み出したスティーグ・ラーソン、〈エーランド島四部作〉のヨハン・テオリン、〈マル…

北欧ミステリの人気シリーズ第1弾『特捜部Q―檻の中の女―』を読んだ

特捜部Q―檻の中の女― / ユッシ・エーズラ・オールスン (著), 吉田奈保子 (翻訳) 捜査への情熱をすっかり失っていたコペンハーゲン警察のはみ出し刑事カール・マークは新設部署の統率を命じられた。とはいっても、オフィスは窓もない地下室、部下はシリア系…

「巷説百物語」シリーズ完結作『了巷説百物語』は【京極夏彦マルチバース】だった!

了巷説百物語 / 京極夏彦 〈憑き物落とし〉中禪寺洲齋。〈化け物遣い〉御行の又市。〈洞観屋〉稲荷藤兵衛。彼らが対峙し絡み合う、過去最大の大仕掛けの結末は――?下総国に暮らす狐狩りの名人・稲荷藤兵衛には、裏の渡世がある。凡ての嘘を見破り旧悪醜聞を…

カズオ・イシグロの『日の名残り』を読んだ

日の名残り / カズオ・イシグロ (著), 土屋 政雄 (翻訳) 品格ある執事の道を追求し続けてきたスティーブンスは、短い旅に出た。美しい田園風景の道すがら様々な思い出がよぎる。長年仕えたダーリントン卿への敬慕、執事の鑑だった亡父、女中頭への淡い想い…

カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』がとても退屈だった

わたしを離さないで / カズオ・イシグロ(著)、土屋政雄 (翻訳) 優秀な介護人キャシー・Hは「提供者」と呼ばれる人々の世話をしている。生まれ育った施設へールシャムの親友トミーやルースも「提供者」だった。キャシーは施設での奇妙な日々に思いをめぐら…

カポーティの中短編集『ティファニーで朝食を』を読んだ

ティファニーで朝食を / トルーマン・カポーティ(著)、村上春樹(翻訳) 第二次大戦下のニューヨークで、居並ぶセレブの求愛をさらりとかわし、社交界を自在に泳ぐ新人女優ホリー・ゴライトリー。気まぐれで可憐、そして天真爛漫な階下の住人に近づきたい、駆…

スタニスワフ・レムの架空評論集『完全なる真空』を読んだ

完全な真空 / スタニスワフ・レム (著), 沼野充義・工藤幸雄・長谷見一雄 (訳) 「実在しない書物の書評を書くということは、レム氏の発明ではありません」。ゲーム理論を援用して宇宙の創造と成長を論じるノーベル賞受賞者の講演「新しい宇宙創造説」のほか…

ボルヘスの後期作品集『ブロディーの報告書』を読んだ

ブロディーの報告書 / J.L.ボルヘス (著), 鼓 直 (訳) 「鬼面ひとを脅かすようなバロック的なスタイルは捨て……やっと自分の声を見いだしえた」ボルヘス後期の代表作.未開部族ヤフー族の世界をラテン語で記した宣教師の手記の翻訳という構えの表題作のほ…

スティーヴン・キング最新作『死者は嘘をつかない』を読んだ

死者は嘘をつかない /スティーヴン キング (著), 土屋 晃 (翻訳) ジェイミーは物心ついた頃から死者の霊を見ることができた。死者の世界にはいくつかの決まりがある。死者は死を迎えた場所の近くに、死んだときの姿で現れる。長くても数日で、次第に薄れ消…

『穏やかな死者たち シャーリイ・ジャクスン・トリビュート』を読んだ。

穏やかな死者たち シャーリイ・ジャクスン・トリビュート / ケリー・リンク、ジョイス・キャロル・オーツ(他)、エレン・ダトロウ(編)、渡辺庸子、市田泉 他(訳) 『丘の屋敷』『ずっとお城で暮らしてる』『処刑人』「くじ」など数々の名作を遺した鬼才…

幽霊屋敷ホラーの古典的名作、シャーリイ・ジャクスンの『丘の屋敷』を読んだ

丘の屋敷 /シャーリイ・ジャクスン (著), 渡辺 庸子 (翻訳) 幽霊屋敷と噂される〈丘の屋敷〉。心霊学者モンタギュー博士は三人の協力者を呼び集め、調査を開始した。迷宮のように入り組み、彼らの眼前に怪異を繰り広げる〈屋敷〉。そして、一冊の手稿がその…

ウエルベックさん、ご災難!?/ミシェル・ウエルベック著『わが人生の数か月 2022年10月-2023年3月』

わが人生の数か月 2022年10月-2023年3月 /ミシェル・ウエルベック (著), 木内 尭 (翻訳) 「私が本当に地獄に落ちたのは、一月三十一日、パリに戻ってからだった」。イスラム嫌悪の諍いの裏で、ポルノ映像出演という最悪の事態に見舞われた著者が赤裸々に描…

『手招く美女 怪奇小説集』を読んだ

手招く美女 怪奇小説集 / オリヴァー・オニオンズ(著)、南條竹則、高沢治、館野浩美(訳) 長篇小説を執筆中の作家ポール・オレロンは古い貸家に引越すが、忽ち創作は行き詰まり、作家は周囲に何者かの気配を感じ始める。邪悪なものの憑依と精神崩壊の過程を…

『オリヴィエ・ベカイユの死・呪われた家~ゾラ傑作短編集~』を読んだ。

オリヴィエ・ベカイユの死・呪われた家~ゾラ傑作短編集~ /エミール・ゾラ (著), 國分 俊宏 (翻訳) 完全に意識はあるが肉体が動かず、周囲に死んだと思われた男の視点から綴られる「オリヴィエ・ベカイユの死」。新進気鋭の画家とその不器量な妻との奇妙な…

SFは最高の教養の一つなのか!?/『英国エリート名門校が教える最高の教養』

英国エリート名門校が教える最高の教養 / ジョー・ノーマン (著), 上杉 隼人 (翻訳) 英国の名門パブリックスクール(中高一貫校)が伝授する「本物の教養」が学べる一冊! 〈世界の大学ランキング8年連続1位〉のオックスフォード大学やケンブリッジ大学へ、卒…

スティーヴン・キングの長編小説『ビリー・サマーズ』はクライム・ノヴェルの堂々たる傑作だった

ビリー・サマーズ(上・下) / スティーヴン・キング(著)、白石朗(翻訳) 狙いは決して外さない凄腕の殺し屋、ビリー・サマーズ。そんなビリーが、引退を決意して「最後の仕事」を受けた。収監されているターゲットを狙撃するには、やつが裁判所へ移送さ…

「文学史上もっとも恐ろしい小説」と呼ばれるヘンリー・ジェイムズの『ねじの回転』を読んだ

ねじの回転/ヘンリー・ジェイムズ (著), 土屋 政雄 (翻訳) 両親を亡くし、英国エセックスの伯父の屋敷に身を寄せる美しい兄妹。奇妙な条件のもと、その家庭教師として雇われた「わたし」は、邪悪な亡霊を目撃する。子供たちを守るべく勇気を振り絞ってその…

永遠の若さを得た男を巡る怪奇と幻想の物語/オスカー・ワイルド『ドリアン・グレイの肖像』

ドリアン・グレイの肖像 / オスカー・ワイルド (著)、仁木 めぐみ (翻訳) 「若さ! 若さ! 若さをのぞいたらこの世に何が残るというのだ!」美貌の青年ドリアンと彼に魅了される画家バジル。そしてドリアンを自分の色に染めようとする快楽主義者のヘンリー…

意識と無意識の領域に切り込んだ怪奇小説『ジーキル博士とハイド氏』

ジーキル博士とハイド氏 /スティーヴンスン (著), 村上 博基 (翻訳) 街中で少女を踏みつけ、平然としている凶悪な男ハイド。彼は高潔な紳士として名高いジーキル博士の家に出入りするようになった。二人にどんな関係が? 弁護士アタスンは好奇心から調査を…

柴田元幸 編訳『ブリティッシュ&アイリッシュ・マスターピース』を読んだ

ブリティッシュ&アイリッシュ・マスターピース(柴田元幸翻訳叢書) /柴田元幸 (翻訳) 【柴田元幸翻訳叢書シリーズ 待望の第5弾! 】 11名の作家による、英文学の名作中の名作を選りすぐった贅沢極まりないアンソロジー。 好評既刊『アメリカン・マスターピー…

柴田元幸 編訳『アメリカン・マスターピース 準古典篇』を読んだ

アメリカン・マスターピース 準古典篇 (柴田元幸翻訳叢書) / 柴田元幸 (翻訳) 柴田元幸翻訳叢書シリーズ最新作。 10年前に発行された「古典篇」に続く「準古典篇」です。 アメリカ合衆国で書かれた短編小説、その”名作中の名作”を選ぶ。 ヘミングウェイ、フ…

柴田元幸 編訳『アメリカン・マスターピース 古典篇』を読んだ

アメリカン・マスターピース 古典篇 (柴田元幸翻訳叢書) / 柴田元幸 (翻訳) 柴田元幸が長年愛読してきたアメリカ古典小説から選りすぐった、究極の「ザ・ベスト・オブ・ザ・ベスト」がついに登場! ホーソーン「ウェイクフィールド」、メルヴィル「書写人バ…

『文豪怪奇コレクション』全5巻を読んだ/その⑤ 綺羅と艶冶の泉鏡花〈戯曲篇〉& 『文豪怪奇コレクション』のまとめ

文豪怪奇コレクション 綺羅と艶冶の泉鏡花〈戯曲篇〉/泉鏡花(著)、東雅夫 (編集) 異界の美男美女が乱舞する鏡花戯曲の三大名作──「天守物語」「夜叉ケ池」「海神別荘」に加えて、 友人の独文学者・登張竹風と共訳した初期の珍しい佳品「沈鐘」(ハウプトマ…

『文豪怪奇コレクション』全5巻を読んだ/その④ 耽美と憧憬の泉鏡花〈小説篇〉

文豪怪奇コレクション 耽美と憧憬の泉鏡花〈小説篇〉/泉鏡花(著)、東雅夫 (編集) 明治・大正・昭和の三代にわたり、日本の怪奇幻想文学史に不滅の偉業を打ち立てた、不世出の幻想文学者・泉鏡花。 本書は、鏡花の名作佳品の中から、なぜかこれまで文庫化…

『文豪怪奇コレクション』全5巻を読んだ/その③ 恐怖と哀愁の内田百閒

文豪怪奇コレクション 恐怖と哀愁の内田百閒/内田百閒(著)、東雅夫 (編集) 夏目漱石、江戸川乱歩に続く、〈文豪怪奇コレクション〉の第三弾。漱石に学び、芥川龍之介と親交を結び、三島由紀夫らにより絶讃された、天性の文人。日本語の粋を極めたその文学…

『文豪怪奇コレクション』全5巻を読んだ/その② 猟奇と妖美の江戸川乱歩

文豪怪奇コレクション 猟奇と妖美の江戸川乱歩/江戸川乱歩(著)、東雅夫 (編集) 日本人に最も親しまれてきた作家の一人である江戸川乱歩は、ミステリーや少年向け読物のみならず、怪談文芸の名手でもあった。蜃気楼幻想と人形からくり芝居が妖しく交錯する…

『文豪怪奇コレクション』全5巻を読んだ/その① 幻想と怪奇の夏目漱石

文豪怪奇コレクション 幻想と怪奇の夏目漱石/夏目漱石(著)、東雅夫 (編集) いまなお国民的人気を誇る文豪・夏目漱石は、大のおばけずきで、幻想と怪奇に彩られた名作佳品を手がけている。西欧幻想文学の影響が色濃い「倫敦塔」「幻影の盾」から心霊小説の…

ダークファンタジー小説『ラヴクラフト・カントリー』を読んだ

ラヴクラフト・カントリー /マット・ラフ (著), 茂木 健 (翻訳) 朝鮮戦争から帰還した黒人兵士アティカス・ターナーは、SFやホラーを愛読する変わり者だ。折り合いの悪い父親から、母の祖先について新発見があったという連絡を受けて実家に戻ったところ、父…

ヴォネガットの『キヴォーキアン先生、あなたに神のお恵みを』と『これで駄目なら 若い君たちへ—―卒業式講演集』を読んだ

中学生だった時に読んだ『タイタンの妖女』に頭をぶん殴られたような衝撃を受けて以来、オレは大のカート・ヴォネガット狂となり、一人の信奉者としてその著作を読み続けていた。後年の作品はヴォネガット独特の説教臭い言辞が繰り返されるようになり、著作…