BOOK

北欧ミステリ『軋み』を読んだ

軋み / エヴァ・ビョルク・アイイスドッティル (著), 吉田薫 (翻訳) エルマが長年勤めたレイキャヴィーク警察を辞め、故郷のアークラネスの地元警察に勤め始てから間もなく、アークラネス灯台の麓の海岸で女性の不審死体が発見される。死体はクヴァールフィ…

スティーヴン・キングの中篇集『コロラド・キッド 他二篇』を読んだ

コロラド・キッド 他二篇 / スティーヴン・キング (著), 高山真由美 (翻訳), 白石朗 (翻訳) 日本独自中篇集『コロラド・キッド 他二篇』 「2024年はキング作家デビュー50周年!」ということでスティーヴン・キング作品の出版ラッシュが続いているが、今回は…

北欧ミステリ『犯罪心理捜査官セバスチャン』を読んだ

犯罪心理捜査官セバスチャン (上・下) / M・ヨート (著), H・ローセンフェルト (著), ヘレンハルメ 美穂 (翻訳) 殺された少年は以前に通っていた学校でいじめられ、裕福な子どもが通うパルムレーフスカ高校に転校していた。母親、ガールフレンド、友人、校…

スウェーデンのシリアルキラー・サスペンス『砂男』がうんざりするほどお粗末だった

砂男(上・下)/ラーシュ・ケプレル (著), 瑞木さやこ (翻訳), 鍋倉僚介 (翻訳) ある激しい雪の夜、一人の男がストックホルム郊外の鉄道線路沿いで保護された。それは、ベストセラー作家レイダルの13年前に行方不明になった息子ミカエルだった。彼は、自分…

北欧ミステリ『黄昏に眠る秋』を読んだ

黄昏に眠る秋/ヨハン・テオリン (著), 三角 和代 (翻訳) 霧に包まれたエーランド島で、幼い少年が行方不明になった。それから二十数年後の秋、少年が事件当時に履いていた靴が、祖父の元船長イェルロフのもとに突然送られてくる。イェルロフは、自責の念を…

北欧ミステリ『許されざる者』を読んだ

許されざる者 / レイフ・GW・ペーション (著), 久山 葉子 (翻訳) 国家犯罪捜査局の元凄腕長官ヨハンソン。脳梗塞で倒れ、命は助かったものの麻痺が残る。そんな彼に主治医が相談をもちかけた。牧師だった父が、懺悔で25年前の未解決事件の犯人について聞…

北欧ミステリ『晴れた日の森に死す』を読んだ

晴れた日の森に死す/カーリン・フォッスム (著), 成川 裕子 (翻訳) ノルウェーの森の奥で老女が殺害される。被害者の左目には鍬が突き刺さっていた。第一発見者の少年が、精神病院に入所している青年エリケを現場で目撃していた。捜査陣を率いるセイエル警…

京極夏彦の『病葉草紙』を読んだ

病葉草紙 / 京極夏彦 人の心は分かりませんが、 それは虫ですね――。 ときは江戸の中頃、薬種問屋の隠居の子として生まれた藤介は、父が建てた長屋を差配しながら茫洋と暮らしていた。八丁堀にほど近い長屋は治安も悪くなく、店子たちの身持ちも悪くない。た…

京極夏彦の歌舞伎舞台原作小説『狐花 葉不見冥府路行』を読んだ

狐花 葉不見冥府路行 / 京極夏彦 時は江戸。作事奉行・上月監物の屋敷の奥女中・お葉は、度々現れる男に畏れ慄き、死病に憑かれたように伏せっていた。彼岸花を深紅に染め付けた着物を纏い、身も凍るほど美しい顔のその男・萩之介は、"この世に居るはずのな…

北欧ミステリ『刑事マルティン・ベック ロセアンナ』を読んだ

刑事マルティン・ベック ロセアンナ/マイ・シューヴァル (著), ペール・ヴァールー (著), 柳沢 由実子 (訳) 全裸女性の絞殺死体が、閘門で見つかった。身元不明の遺体に事件は膠着するかに見えた折、アメリカの地方警察から一通の電報が。被害者と関係をも…

北欧ミステリ『殺人者の顔』を読んだ

殺人者の顔 /ヘニング・マンケル (著), 柳沢 由実子 (翻訳) 【CWAゴールドダガー受賞シリーズ/スウェーデン推理小説アカデミー最優秀賞受賞】 雪の予感がする早朝、動機不明の二重殺人が発生した。男は惨殺され、女も「外国の」と言い残して事切れる。片隅…

北欧ミステリ『湿地』を読んだ

湿地/アーナルデュル・インドリダソン (著), 柳沢 由実子 (翻訳) 雨交じりの風が吹く10月のレイキャヴィク。湿地にある建物の地階で、老人の死体が発見された。侵入の形跡はなく、被害者に招き入れられた何者かが突発的に殺害し、逃走したものと思われた。…

『呼び出された男―スウェーデン・ミステリ傑作集― 』を読んだ

呼び出された男―スウェーデン・ミステリ傑作集― / ヨン=ヘンリ・ホルムベリ 編、ヘレンハルメ美穂・他 訳 北欧ミステリの中心地たるスウェーデンから、『ミレニアム』を生み出したスティーグ・ラーソン、〈エーランド島四部作〉のヨハン・テオリン、〈マル…

北欧ミステリの人気シリーズ第1弾『特捜部Q―檻の中の女―』を読んだ

特捜部Q―檻の中の女― / ユッシ・エーズラ・オールスン (著), 吉田奈保子 (翻訳) 捜査への情熱をすっかり失っていたコペンハーゲン警察のはみ出し刑事カール・マークは新設部署の統率を命じられた。とはいっても、オフィスは窓もない地下室、部下はシリア系…

「巷説百物語」シリーズ完結作『了巷説百物語』は【京極夏彦マルチバース】だった!

了巷説百物語 / 京極夏彦 〈憑き物落とし〉中禪寺洲齋。〈化け物遣い〉御行の又市。〈洞観屋〉稲荷藤兵衛。彼らが対峙し絡み合う、過去最大の大仕掛けの結末は――?下総国に暮らす狐狩りの名人・稲荷藤兵衛には、裏の渡世がある。凡ての嘘を見破り旧悪醜聞を…

カズオ・イシグロの『日の名残り』を読んだ

日の名残り / カズオ・イシグロ (著), 土屋 政雄 (翻訳) 品格ある執事の道を追求し続けてきたスティーブンスは、短い旅に出た。美しい田園風景の道すがら様々な思い出がよぎる。長年仕えたダーリントン卿への敬慕、執事の鑑だった亡父、女中頭への淡い想い…

カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』がとても退屈だった

わたしを離さないで / カズオ・イシグロ(著)、土屋政雄 (翻訳) 優秀な介護人キャシー・Hは「提供者」と呼ばれる人々の世話をしている。生まれ育った施設へールシャムの親友トミーやルースも「提供者」だった。キャシーは施設での奇妙な日々に思いをめぐら…

カポーティの中短編集『ティファニーで朝食を』を読んだ

ティファニーで朝食を / トルーマン・カポーティ(著)、村上春樹(翻訳) 第二次大戦下のニューヨークで、居並ぶセレブの求愛をさらりとかわし、社交界を自在に泳ぐ新人女優ホリー・ゴライトリー。気まぐれで可憐、そして天真爛漫な階下の住人に近づきたい、駆…

スタニスワフ・レムの架空評論集『完全なる真空』を読んだ

完全な真空 / スタニスワフ・レム (著), 沼野充義・工藤幸雄・長谷見一雄 (訳) 「実在しない書物の書評を書くということは、レム氏の発明ではありません」。ゲーム理論を援用して宇宙の創造と成長を論じるノーベル賞受賞者の講演「新しい宇宙創造説」のほか…

ボルヘスの後期作品集『ブロディーの報告書』を読んだ

ブロディーの報告書 / J.L.ボルヘス (著), 鼓 直 (訳) 「鬼面ひとを脅かすようなバロック的なスタイルは捨て……やっと自分の声を見いだしえた」ボルヘス後期の代表作.未開部族ヤフー族の世界をラテン語で記した宣教師の手記の翻訳という構えの表題作のほ…

スティーヴン・キング最新作『死者は嘘をつかない』を読んだ

死者は嘘をつかない /スティーヴン キング (著), 土屋 晃 (翻訳) ジェイミーは物心ついた頃から死者の霊を見ることができた。死者の世界にはいくつかの決まりがある。死者は死を迎えた場所の近くに、死んだときの姿で現れる。長くても数日で、次第に薄れ消…

『穏やかな死者たち シャーリイ・ジャクスン・トリビュート』を読んだ。

穏やかな死者たち シャーリイ・ジャクスン・トリビュート / ケリー・リンク、ジョイス・キャロル・オーツ(他)、エレン・ダトロウ(編)、渡辺庸子、市田泉 他(訳) 『丘の屋敷』『ずっとお城で暮らしてる』『処刑人』「くじ」など数々の名作を遺した鬼才…

幽霊屋敷ホラーの古典的名作、シャーリイ・ジャクスンの『丘の屋敷』を読んだ

丘の屋敷 /シャーリイ・ジャクスン (著), 渡辺 庸子 (翻訳) 幽霊屋敷と噂される〈丘の屋敷〉。心霊学者モンタギュー博士は三人の協力者を呼び集め、調査を開始した。迷宮のように入り組み、彼らの眼前に怪異を繰り広げる〈屋敷〉。そして、一冊の手稿がその…

ウエルベックさん、ご災難!?/ミシェル・ウエルベック著『わが人生の数か月 2022年10月-2023年3月』

わが人生の数か月 2022年10月-2023年3月 /ミシェル・ウエルベック (著), 木内 尭 (翻訳) 「私が本当に地獄に落ちたのは、一月三十一日、パリに戻ってからだった」。イスラム嫌悪の諍いの裏で、ポルノ映像出演という最悪の事態に見舞われた著者が赤裸々に描…

『手招く美女 怪奇小説集』を読んだ

手招く美女 怪奇小説集 / オリヴァー・オニオンズ(著)、南條竹則、高沢治、館野浩美(訳) 長篇小説を執筆中の作家ポール・オレロンは古い貸家に引越すが、忽ち創作は行き詰まり、作家は周囲に何者かの気配を感じ始める。邪悪なものの憑依と精神崩壊の過程を…

『オリヴィエ・ベカイユの死・呪われた家~ゾラ傑作短編集~』を読んだ。

オリヴィエ・ベカイユの死・呪われた家~ゾラ傑作短編集~ /エミール・ゾラ (著), 國分 俊宏 (翻訳) 完全に意識はあるが肉体が動かず、周囲に死んだと思われた男の視点から綴られる「オリヴィエ・ベカイユの死」。新進気鋭の画家とその不器量な妻との奇妙な…

SFは最高の教養の一つなのか!?/『英国エリート名門校が教える最高の教養』

英国エリート名門校が教える最高の教養 / ジョー・ノーマン (著), 上杉 隼人 (翻訳) 英国の名門パブリックスクール(中高一貫校)が伝授する「本物の教養」が学べる一冊! 〈世界の大学ランキング8年連続1位〉のオックスフォード大学やケンブリッジ大学へ、卒…

スティーヴン・キングの長編小説『ビリー・サマーズ』はクライム・ノヴェルの堂々たる傑作だった

ビリー・サマーズ(上・下) / スティーヴン・キング(著)、白石朗(翻訳) 狙いは決して外さない凄腕の殺し屋、ビリー・サマーズ。そんなビリーが、引退を決意して「最後の仕事」を受けた。収監されているターゲットを狙撃するには、やつが裁判所へ移送さ…

「文学史上もっとも恐ろしい小説」と呼ばれるヘンリー・ジェイムズの『ねじの回転』を読んだ

ねじの回転/ヘンリー・ジェイムズ (著), 土屋 政雄 (翻訳) 両親を亡くし、英国エセックスの伯父の屋敷に身を寄せる美しい兄妹。奇妙な条件のもと、その家庭教師として雇われた「わたし」は、邪悪な亡霊を目撃する。子供たちを守るべく勇気を振り絞ってその…

永遠の若さを得た男を巡る怪奇と幻想の物語/オスカー・ワイルド『ドリアン・グレイの肖像』

ドリアン・グレイの肖像 / オスカー・ワイルド (著)、仁木 めぐみ (翻訳) 「若さ! 若さ! 若さをのぞいたらこの世に何が残るというのだ!」美貌の青年ドリアンと彼に魅了される画家バジル。そしてドリアンを自分の色に染めようとする快楽主義者のヘンリー…