BOOK

中国産幽霊屋敷ミステリー小説『幽霊ホテルからの手紙』

幽霊ホテルからの手紙 / 蔡駿(著)、舩山むつみ(訳) ある雨の夜、若い警察官・葉シャオ(イエシャオ)の家を、幼馴染の作家の周旋(ジョウシュエン)が訪ねてくる。 周旋は思いつめた様子で、木の小箱を取り出す。ある夜、バスで隣り合わせた血だらけの美し…

『姫君を喰う話』と『味な旅 舌の旅』/宇能鴻一郎の著作を2冊読んだ

宇能鴻一郎の著作を2冊読んだ 宇能鴻一郎といえばいわゆる「官能小説家」という認識をしていたし、官能小説に興味が無いオレにとってはこの先読むことの無い作家だろうと思っていた。正直に言えば、今からすれば大変失礼だけれども、「単なるエロ小説家」程…

『シン・仮面ライダー デザインワークス』がとても充実していた

シン・仮面ライダー デザインワークス/企画:庵野秀明 監修:石森プロ、東映 本書は、『シン・仮面ライダー』に登場する、仮面ライダーやオーグ等のキャラクター、サイクロン号をはじめ、小道具、衣装、美術セット、タイトルロゴ等主要アイテムのデザイン画…

スタ二スワフ・レム初期作品集『火星からの来訪者』を読んだ

火星からの来訪者:知られざるレム初期作品集 (スタニスワフ・レム・コレクション) /スタニスワフ・レム (著)、沼野充義 (訳)、芝田文乃 (訳)、木原槙子 (訳) 第二次世界大戦でドイツが降伏した頃、アメリカのノースダコタ州とサウスダコタ州の境に隕石らし…

『ギリシャSF傑作選 ノヴァ・ヘラス』を読んだ。

ギリシャSF傑作選 ノヴァ・ヘラス / フランチェスコ・ヴァルソ(著)、フランチェスカ・T・バルビニ(編)、中村融他 (訳) 隆起するギリシャSFの世界へようこそ。 あなたは生活のために水没した都市に潜り働くひとびとを見る(「ローズウィード」)。風光明媚な…

ジェフ・マコーマックによるボウイ写真集『David Bowie: Rock 'N' Roll With Me』

David Bowie: Rock 'N' Roll With Me / Geoff MacCormack 『David Bowie: Rock 'N' Roll With Me』はデヴィッド・ボウイと終生に渡って親交を続けたジェフ・マコーマックによる写真回顧録だ。それはボウイとマコーマックとの友情の記録と言っていい。二人の…

最近読んだ怪奇幻想不条理小説/『もっと厭な物語』

もっと厭な物語 /文藝春秋 (編集) 最悪の結末、不安な幕切れ、絶望の最終行。文豪・夏目漱石の不吉きわまりない掌編で幕を開ける「後味の悪い小説」アンソロジー。人間の恐布を追究する実験がもたらした凄惨な事件を描くC・バーカー「恐怖の探究」、寝室に…

『チェコSF短編小説集 2 』はビックリするほど奇想に満ちた作品の並ぶアンソロジーだったぞ

チェコSF短編小説集 2 / ヤロスラフ・オルシャ・jr. (編集)、ズデニェク・ランパス (編集)、平野 清美 (訳) ペレストロイカの自由な風のもと、ファンの熱い想いから創設された「カレル・チャペック賞」。アシモフもディックも知らぬまま書かれた、その応募…

村上春樹原作映画『ドライブ・マイ・カー』を観て原作短編集『女のいない男たち』とチェーホフの『ワーニャ伯父さん』を読んだ

ドライブ・マイ・カー (監督:濱口竜介 2021年日本映画) 村上春樹短編小説原作の映画『ドライブ・マイ・カー』を観た。これが思いのほかよくできていて、なおかつ心に刺さるものを感じたので少々駄文を書き散らかしてみたい。また、映画作品を観終わった後…

暗黒の18世紀スウェーデン3部作完結編『1795』

1795 / ニクラス・ナット・オ・ダーグ (著)、ヘレンハルメ美穂(訳) フランス革命の影響は未だ色濃く残り、暴力と奸計が常態化していた1795年のストックホルム。事件を捜索することで立ち直りつつあった戦場帰りの引っ立て屋カルデルと心を病んでいた学生エ…

汚濁と悪逆に満ちた18世紀スウェーデンを駆け抜ける正義/『1794』

1794/ニクラス・ナット・オ・ダーグ (著)、ヘレンハルメ美穂 (訳) フランス革命の影響を受け、陰謀と暴力、貧困と死に満ちた1794年のストックホルム。その前年、カリブ海に浮かぶ植民地サン・バルテルミー島での過酷な日々を終えて故国に帰還した若者エリッ…

長編SF小説『巡航船〈ヴェネチアの剣〉奪還!』を読んだ

巡航船〈ヴェネチアの剣〉奪還! / スザンヌ・パーマー (著)、月岡小穂(訳) 捜し屋ファーガソンは、盗まれた巡航船〈ヴェネチアの剣〉を取り戻す仕事を引き受け、辺境星系のコロニー群、セルネカン連邦にやってくる。だが到着直後、地衣類農場主が殺される…

ブッカケでゾンビ!?エログロ悪趣味ゾンビ小説『ブッカケ・ゾンビ』を読んだ!?

ブッカケ・ゾンビ/ジョー・ネッター (著)、風間賢二 (訳) 美しい妻と娘に囲まれ、満ち足りた生活を送る男には、やめられない悪癖があった。 エロ動画だ。 今日もまた家族の目を盗んでアクセスしたポルノ掲示板に大ニュース。 憧れのセクシー女優が主演する…

生の復権とマチズモへのアイロニー/チャック・パラニュークの『ファイト・クラブ』を読んだ

ファイト・クラブ/ チャック・パラニューク(著)、池田真紀子(訳) おれを力いっぱい殴ってくれ、とタイラーは言った。事の始まりはぼくの慢性不眠症だ。ちっぽけな仕事と欲しくもない家具の収集に人生を奪われかけていたからだ。ぼくらはファイト・クラブで…

顔を失った女の凄惨な旅路/チャック・パラニュークの『インヴィジブル・モンスターズ』を読んだ

インヴィジブル・モンスターズ / チャック・パラニューク(著)、池田真紀子(訳) 事故で顔を失ったわたしは、裏切った婚約者に復讐するため旅に出る。交錯する過去と現在、境界をなくす男と女、聞こえない叫びと悲鳴、見えない殺戮と破壊…。超過激ノヴェル。 …

『アホウドリの迷信 現代英語圏異色短篇コレクション』を読んだ

アホウドリの迷信 現代英語圏異色短篇コレクション/岸本佐知子(訳)、柴田元幸(訳) 翻訳家・岸本佐知子と柴田元幸が贈る、海外短篇小説アンソロジー。 日本にまだあまり紹介されていない英語圏の8作家による10篇を精選。 対談「競訳余話」も収録。 翻訳家・…

ポン・ジュノ監督による新作映画の原作となるSF長編『ミッキー7』を読んだがなんだかなあって作品だったな

ミッキー7 / エドワード アシュトン(著)、大谷 真弓 (訳) 宇宙開発で危険な仕事をこなすために生み出 された【使い捨て人間/エクスペンダブル】ミッキー。すでに六度の 死を経験した彼の身に思いがけないことが!?『パラサイト 半地下の家族』監督ポン・ジ…

黒人女性作家オクテイヴィア・E・バトラーによる恐るべき切れ味のSF短編集『血を分けた子ども』

血を分けた子ども / オクテイヴィア・E・バトラー (著)、藤井光 (訳) ヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞の三冠に輝いた究極の「男性妊娠小説」である「血を分けた子ども」。 言語を失い、文明が荒廃し人々が憎しみ合う世界の愛を描き、ヒューゴー賞を受…

『ファイト・クラブ』原作者チャック・パラニュークの新作『インヴェンション・オブ・サウンド』を読んだ

インヴェンション・オブ・サウンド / チャック・パラニューク(著)、池田真紀子(訳) 「全世界の人々が同時に発する悲鳴」の録音を目指すハリウッドの音響技師ミッツィ、児童ポルノサイトで行方不明の娘を探し続けるフォスター。2人の狂妄が陰謀の国アメリカ…

最先端技術の進歩はどこに行き着くのか?/SFアンソロジー『フォワード 未来を視る6つの物語』

フォワード 未来を視る6つのSF/ ブレイク・クラウチ編 科学技術の行き着く未来を六人の作家が描く。クラウチは人間性をゲーム開発者の視点から議論し、ジェミシンはヒューゴー賞受賞作で地球潜入ミッションの顛末を語り、ロスは滅亡直前の世界に残る者の思…

春暮康一のファーストコンタクトSF中編集『法治の獣』を読んだ

法治の獣/春暮康一 惑星〈裁剣(ソード)〉には、あたかも罪と罰の概念を理解しているかのようにふるまう雄鹿に似た動物シエジーが生息する。近傍のスペースコロニー〈ソードⅡ〉は、人びとがシエジーの持つ自然法を手本とした法体系で暮らす社会実験場だっ…

京極夏彦の「書楼弔堂」シリーズ第3弾『書楼弔堂 待宵』を読んだ

書楼弔堂 待宵 / 京極夏彦 舞台は明治30年代後半。鄙びた甘酒屋を営む弥蔵のところに馴染み客の利吉がやって来て、坂下の鰻屋に徳富蘇峰が居て本屋を探しているという。 なんでも、甘酒屋のある坂を上った先に、古今東西のあらゆる本が揃うと評判の書舗があ…

インド系アメリカ人作家の描く仏教/ヒンドゥー教的なSFストーリー『マシンフッド宣言』

マシンフッド宣言 (上)(下)/S・B・ディヴィヤ(著)、金子浩 (訳) 21世紀末、AIソフトウェアに仕事を奪われた人間は心身の強化薬剤を摂取し、労働は高度専門職か安い請け負い仕事に二極化した。大富豪のピル資金提供者を警護する元海兵隊特殊部隊員のウェル…

劉慈欣『三体0【ゼロ】球状閃電』は『三体』とは全然関係ないけどなかなか面白かった

三体0【ゼロ】球状閃電 / 劉慈欣 (著)、大森望(訳)、光吉さくら(訳)、ワンチャイ(訳) 14歳の誕生日の夜に“それ”に両親を奪われた少年、陳。謎の球電に魅せられ、研究を進めるうちに、彼は思いも寄らぬプロジェクトに巻き込まれていく。史上最強のエンタメ…

2022年まとめ:今年面白かった本

Photo by Nong V on Unsplash 2022年のまとめとして今回は「今年面白かった本」を挙げて行こうかと思います。オレは本を読むのが遅いんですが、紙の本とKindle本をうまくスイッチさせながら週1冊ぐらいのペースで読んでいました。だから数えてないけど50冊く…

ミシェル・ウエルベックの『ウエルベック発言集』を読んだ

ウエルベック発言集/ミシェル・ウエルベック(著)、西山雄二(訳)、八木悠允(訳)、関大聡(訳)、安達孝信(訳) 詩人や文学者をはじめ、左翼知識人にフェミニスト、映画、音楽、建築、宗教……まがまがしくも目くるめく混乱した世界に「介入」するウエルベックの論…

ドイツ女性作家の描く不気味な物語 『その昔、N市では カシュニッツ短編傑作選』

その昔、N市では カシュニッツ短編傑作選 / マリー・ルイーゼ・カシュニッツ (著)、酒寄 進一 (訳) 奇妙な出来事が人々を翻弄する――。 その、巧みな一撃。 日常に忍び込む幻想。 戦慄の人間心理。 戦後ドイツを代表する女性作家の名作を集成した、 全15作の…

スパニッシュ・ホラー文芸作家の描く終わりなき不安『兎の島』

兎の島/エルビラ・ナバロ(著)、宮﨑真紀(訳) 川の中洲で共食いを繰り返す異常繁殖した白兎たち、 耳から生えてきた肢に身体を乗っ取られた作家、 レストランで供される怪しい肉料理と太古の絶滅動物の目撃譚、 死んだ母親から届いたフェイスブックの友達申…

後宮を追われた皇后とその侍女との物語『塩と運命の皇后』

塩と運命の皇后/ニー・ヴォ (著)、金子ゆき子 (訳) 50年ぶりに湖の封印が解かれるとき、追放された悲劇の皇后の伝説が幕を開ける――。歴史収集の旅をする聖職者チーは、ある時立ち寄った湖のほとりで、ひとりの老女に出会う。亡き皇后の侍女だという彼女に導…

「ゾンビ化する理由とは何か?」に肉薄したゾンビパニック小説『ゾンビ3.0』

ゾンビ3.0 / 石川智健 香月百合は新宿区戸山の予防感染研究所に休日出勤する。席に着いてWHOのサイトに接続すると、気になる報告があった。アフガニスタンやシリアなどの紛争地域で人が突然気絶し、1分前後経つと狂暴になって人を襲い始めるという。しばら…