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『文豪怪奇コレクション』全5巻を読んだ/その⑤ 綺羅と艶冶の泉鏡花〈戯曲篇〉& 『文豪怪奇コレクション』のまとめ

文豪怪奇コレクション 綺羅と艶冶の泉鏡花〈戯曲篇〉/泉鏡花(著)、東雅夫 (編集) 異界の美男美女が乱舞する鏡花戯曲の三大名作──「天守物語」「夜叉ケ池」「海神別荘」に加えて、 友人の独文学者・登張竹風と共訳した初期の珍しい佳品「沈鐘」(ハウプトマ…

『文豪怪奇コレクション』全5巻を読んだ/その④ 耽美と憧憬の泉鏡花〈小説篇〉

文豪怪奇コレクション 耽美と憧憬の泉鏡花〈小説篇〉/泉鏡花(著)、東雅夫 (編集) 明治・大正・昭和の三代にわたり、日本の怪奇幻想文学史に不滅の偉業を打ち立てた、不世出の幻想文学者・泉鏡花。 本書は、鏡花の名作佳品の中から、なぜかこれまで文庫化…

『文豪怪奇コレクション』全5巻を読んだ/その③ 恐怖と哀愁の内田百閒

文豪怪奇コレクション 恐怖と哀愁の内田百閒/内田百閒(著)、東雅夫 (編集) 夏目漱石、江戸川乱歩に続く、〈文豪怪奇コレクション〉の第三弾。漱石に学び、芥川龍之介と親交を結び、三島由紀夫らにより絶讃された、天性の文人。日本語の粋を極めたその文学…

『文豪怪奇コレクション』全5巻を読んだ/その② 猟奇と妖美の江戸川乱歩

文豪怪奇コレクション 猟奇と妖美の江戸川乱歩/江戸川乱歩(著)、東雅夫 (編集) 日本人に最も親しまれてきた作家の一人である江戸川乱歩は、ミステリーや少年向け読物のみならず、怪談文芸の名手でもあった。蜃気楼幻想と人形からくり芝居が妖しく交錯する…

『文豪怪奇コレクション』全5巻を読んだ/その① 幻想と怪奇の夏目漱石

文豪怪奇コレクション 幻想と怪奇の夏目漱石/夏目漱石(著)、東雅夫 (編集) いまなお国民的人気を誇る文豪・夏目漱石は、大のおばけずきで、幻想と怪奇に彩られた名作佳品を手がけている。西欧幻想文学の影響が色濃い「倫敦塔」「幻影の盾」から心霊小説の…

ダークファンタジー小説『ラヴクラフト・カントリー』を読んだ

ラヴクラフト・カントリー /マット・ラフ (著), 茂木 健 (翻訳) 朝鮮戦争から帰還した黒人兵士アティカス・ターナーは、SFやホラーを愛読する変わり者だ。折り合いの悪い父親から、母の祖先について新発見があったという連絡を受けて実家に戻ったところ、父…

ヴォネガットの『キヴォーキアン先生、あなたに神のお恵みを』と『これで駄目なら 若い君たちへ—―卒業式講演集』を読んだ

中学生だった時に読んだ『タイタンの妖女』に頭をぶん殴られたような衝撃を受けて以来、オレは大のカート・ヴォネガット狂となり、一人の信奉者としてその著作を読み続けていた。後年の作品はヴォネガット独特の説教臭い言辞が繰り返されるようになり、著作…

最近読んだ本:『レッド・ダート・マリファナ』『獣の悦び』

レッド・ダート・マリファナ / テリー・サザーン (著),松永 良平 (翻訳) レッド・ダート・マリファナ (文学の冒険シリーズ) 作者:テリー サザーン 国書刊行会 Amazon 「おまえはヒップすぎるぜ、ベイビイ。そうだろ。ただのヒッピーなのさ」パリのジャズシ…

最近読んだ本:『消えた心臓・マグヌス伯爵』『雪男たちの国』

消えた心臓・マグヌス伯爵 /M・R・ジェイムズ (著), 南條 竹則 (翻訳) 消えた心臓/マグヌス伯爵 (光文社古典新訳文庫) 作者:M・R・ジェイムズ 光文社 Amazon 異教信仰の研究者が自らの計画のために歳の離れた従兄弟の少年を引き取る「消えた心臓」。スウェ…

ボニー・ガルマスの『化学の授業をはじめます。』を読んだ

化学の授業をはじめます。/ ボニー・ガルマス (著), 鈴木 美朋 (翻訳) 舞台は1960年代アメリカ。 才能ある化学の研究者エリザベスは、いまだ保守的な男社会の科学界で奮闘するが、無能な上司・同僚からのいやがらせ、セクハラの果てに、研究所から放り出さ…

望月ミネタロウ作品その他最近読んだコミックあれこれ

没有漫画 没有人生(ノーコミック ノーライフ)(2) / 望月ミネタロウ 没有漫画 没有人生(2) (ビッグコミックススペシャル) 作者:望月ミネタロウ 小学館 Amazon 望月ミネタロウの”空想エッセイ漫画”『没有漫画 没有人生』第2巻。内容は作者と思しき漫画家…

宇能鴻一郎傑作短編集『アルマジロの手』を読んだ

アルマジロの手―宇能鴻一郎傑作短編集―/宇能鴻一郎 彼は「手が……手が……アルマジロの手が」というばかりだったのです――。不気味な緊張感を孕む怪奇な作品「アルマジロの手」、美しい姫君に恋をした狸の哀切「心中狸」、むさぼり喰らう快楽にとり憑かれた男の…

2023年まとめ:今年面白かった本とコミック

【目次】 今年面白かった本 今年面白かった本まとめ 今年面白かったコミック 今年面白かったコミックまとめ 今年面白かった本 今年読んだ本は約70冊、だいたい5日に1冊のペースで読んでいたことになるでしょうか。なんだか前よりペースが上がっていて、年を…

不可思議な霊性と霊感についての物語/『ホフマン短編集』

ホフマン短編集 / E・T・A・ホフマン(作)、池内紀(訳) 平穏な日常の秩序をふみはずして、我知らず夢想の世界へふみこんでゆく主人公たち。幻想作家ホフマンは、現実と非現実をめまぐるしく交錯させながら、人間精神の暗部を映しだす不気味な鏡を読者につ…

”生き残った女たち”のその後を描くメタホラー小説『ファイナルガール・サポート・グループ』

ファイナルガール・サポート・グループ / グレイディ・ヘンドリクス (著), 入間眞 (訳) ”ファイナルガール”とはスラッシャー映画で最後まで生き残った女性主人公のことである。しかし、そうやって生き延びた女たちはその後どのような人生を送ることになるの…

サイコサスペンスホラー小説『二―ドレス通りの果ての家』を読んだ

二―ドレス通りの果ての家 /カトリオナ・ウォード(著)、中谷友紀子(訳) 暗い森の家に住む男。過去に囚われた女。レコーダーに吹き込まれた声の主。様々な語りが反響する物語は、秘密が明かされる度にその相貌を変え、恐るべき真相へ至る。巨匠S・キングらが…

アイデンティティとアンビバレンツについての物語/メアリー・シェリー『フランケンシュタイン』

フランケンシュタイン / メアリー・シェリー (著)、小林 章夫 (翻訳) 天才科学者フランケンシュタインは生命の秘密を探り当て、ついに人造人間を生み出すことに成功する。しかし誕生した生物は、その醜悪な姿のためフランケンシュタインに見捨てられる。や…

劉慈欣が描く蟻と恐竜が文明を築いていた幻想の白亜紀『白亜紀往事』

白亜紀往事 / 劉 慈欣 (著)、大森 望 (翻訳)、古市 雅子 (翻訳) 恐竜と蟻が、現代人類社会と変わらぬ高度な文明を築き、地球を支配していたもう一つの白亜紀。恐竜は柔軟な思考力、蟻は精確な技術力で補完し合い共存していた。だが、二つの文明は深刻な対立…

巨大竜の亡骸を巡る幻想譚最終章/『美しき血 (竜のグリオールシリーズ)』

美しき血 (竜のグリオールシリーズ) / ルーシャス・シェパード (著)、内田 昌之 (訳), 日田 慶治 (イラスト) 動かぬ巨竜グリオール。テオシンテ市に横たわる彼の体には、川が流れ村があり、体内では四季が巡る。死せず体は動かずともその巨体には、いまだ謎…

モダンホラー小説『吸血鬼ハンターたちの読書会』は女たちの戦いを描いた物語だった

吸血鬼ハンターたちの読書会 / グレイディ・ヘンドリクス(著)、原島文世(訳) アメリカ南部の高級住宅街に住むパトリシア。彼女の忙しい毎日の息抜きは、主婦仲間との連続殺人ノンフィクションの読書会だ。だがある晩、近所の嫌味な老婦人が血まみれでアライ…

「ドンデン返し20回超え!?」というアクション・スリラー小説『ハンティング・タイム』を読んだ

ハンティング・タイム / ジェフリー・ディーヴァー(著)、池田真紀子(訳) 優秀なエンジニア、アリソンが娘とともに姿を消した。DVで投獄されていた元夫ジョンが突如出所、彼は自分を告発したアリソンを憎んでいるという。元刑事であるジョンは、そのスキル…

CO2削減のためにどのようなアプローチが可能なのか徹底的に描き切ったSFシミュレーション小説『未来省』

未来省 / キム・スタンリー・ロビンソン(著)、瀬尾具実子 (訳) 2025年、インドを未曾有の大熱波が襲い、2000万人の犠牲者を出す。 喫緊の課題である気候変動に取り組むため国連に組織された、通称「未来省」のトップに就任したメアリー・マーフィー。 つぎ…

決して消え去らないかけがえのない時間 / 絵本『たぬき』

たぬき / いせ ひでこ 〈お日さん、あったかいねえ〉 〈かあちゃんみたいだねえ〉 2011年の春、絵描きの家の庭にあらわれた たぬきの一家。 産む、育てる、いのちの絆の物語は、やがて別れと旅立ちへ。 小さなからだ全身で「生きる」たぬきたちと、絵描きと…

怪奇幻想SF短編集『最後の三角形 ジェフリー・フォード短篇傑作選』を読んだ

最後の三角形 ジェフリー・フォード短篇傑作選 / ジェフリー・フォード(著)、谷垣暁美 (編集, 翻訳) 魔法は破られるようにできているの。 でも、約束はそうじゃない。 世界幻想文学大賞に7回、 シャーリイ・ジャクスン賞に4回、 MWA賞、ネビュラ賞など数多の…

一族という名の血の呪縛を描く怪奇小説『メキシカン・ゴシック』

メキシカン・ゴシック /シルヴィア・モレノ=ガルシア (著)、青木純子 (訳) 1950年メキシコ。若き女性ノエミは、郊外の屋敷に嫁いだいとこのカタリーナから手紙を受け取る。それには亡霊に苛まれ、助けを求める異様な内容が書かれており……。英国幻想文学大賞…

京極夏彦17年ぶりの百鬼夜行シリーズ最新作『鵺の碑』を読んだ!

鵺の碑 / 京極夏彦 殺人の記憶を持つ娘に惑わされる作家。 消えた三つの他殺体を追う刑事。 妖光に翻弄される学僧。 失踪者を追い求める探偵。 死者の声を聞くために訪れた女。 そして見え隠れする公安の影。 発掘された古文書の鑑定に駆り出された古書肆は…

「アルゼンチンのホラー・プリンセス」ことマリアーナ・エンリケスのホラー短編集『寝煙草の危険』を読んだ

寝煙草の危険 / マリアーナ・エンリケス (著)、宮﨑真紀 (訳) 寝煙草の火で老婆が焼け死ぬ臭いで目覚める夜更け、 庭から現れどこまでも付き纏う腐った赤ん坊の幽霊、 愛するロック・スターの屍肉を貪る少女たち、 死んだはずの虚ろな子供が大量に溢れ返る街…

ゴシック小説を語るならまずこれを読め!/『ゴシック文学神髄』

ゴシック文学神髄/東雅夫(編集) ミステリー小説や怪奇小説や幻想小説の源流となった……それらがまだ未分化だった当時のゴシック文学の代表作の中から、戦前の日夏耿之介訳によるポオの『大鴉』と『アッシャア屋形崩るるの記(アッシャー家の崩壊)』の冒頭部…

ミシェル・ウエルベックの最新長編『滅ぼす』を読んだ

滅ぼす(上)(下) / ミシェル・ウエルベック(著)、野崎歓(訳)、齋藤可津子(訳)、木内尭(訳) 謎の国際テロが多発するなか、2027年フランス大統領選が行われ、経済大臣ブリュノと秘書官ポールはテレビタレントを擁立する。社会の分断と家族の再生。絶望的な世界…

しがないバイト生活してたら「キツイけどいい仕事あるからしてみない?」と誘われて行ってみると異世界で怪獣の世話をする仕事だった!?/SF長編小説『怪獣保護協会』

怪獣保護協会 / ジョン・スコルジー (著), 内田 昌之 (訳) 映画のゴジラは、並行宇宙の地球〈怪獣惑星〉からこちらの地球にやってきた巨大怪獣がモデルだった! ジェイミーはひょんなことから〈怪獣保護協会〉の一員となり、もうひとつの地球でこの怪獣たち…