BOOK

黒人女性作家オクテイヴィア・E・バトラーによる恐るべき切れ味のSF短編集『血を分けた子ども』

血を分けた子ども / オクテイヴィア・E・バトラー (著)、藤井光 (訳) ヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞の三冠に輝いた究極の「男性妊娠小説」である「血を分けた子ども」。 言語を失い、文明が荒廃し人々が憎しみ合う世界の愛を描き、ヒューゴー賞を受…

『ファイト・クラブ』原作者チャック・パラニュークの新作『インヴェンション・オブ・サウンド』を読んだ

インヴェンション・オブ・サウンド / チャック・パラニューク(著)、池田真紀子(訳) 「全世界の人々が同時に発する悲鳴」の録音を目指すハリウッドの音響技師ミッツィ、児童ポルノサイトで行方不明の娘を探し続けるフォスター。2人の狂妄が陰謀の国アメリカ…

最先端技術の進歩はどこに行き着くのか?/SFアンソロジー『フォワード 未来を視る6つの物語』

フォワード 未来を視る6つのSF/ ブレイク・クラウチ編 科学技術の行き着く未来を六人の作家が描く。クラウチは人間性をゲーム開発者の視点から議論し、ジェミシンはヒューゴー賞受賞作で地球潜入ミッションの顛末を語り、ロスは滅亡直前の世界に残る者の思…

春暮康一のファーストコンタクトSF中編集『法治の獣』を読んだ

法治の獣/春暮康一 惑星〈裁剣(ソード)〉には、あたかも罪と罰の概念を理解しているかのようにふるまう雄鹿に似た動物シエジーが生息する。近傍のスペースコロニー〈ソードⅡ〉は、人びとがシエジーの持つ自然法を手本とした法体系で暮らす社会実験場だっ…

京極夏彦の「書楼弔堂」シリーズ第3弾『書楼弔堂 待宵』を読んだ

書楼弔堂 待宵 / 京極夏彦 舞台は明治30年代後半。鄙びた甘酒屋を営む弥蔵のところに馴染み客の利吉がやって来て、坂下の鰻屋に徳富蘇峰が居て本屋を探しているという。 なんでも、甘酒屋のある坂を上った先に、古今東西のあらゆる本が揃うと評判の書舗があ…

インド系アメリカ人作家の描く仏教/ヒンドゥー教的なSFストーリー『マシンフッド宣言』

マシンフッド宣言 (上)(下)/S・B・ディヴィヤ(著)、金子浩 (訳) 21世紀末、AIソフトウェアに仕事を奪われた人間は心身の強化薬剤を摂取し、労働は高度専門職か安い請け負い仕事に二極化した。大富豪のピル資金提供者を警護する元海兵隊特殊部隊員のウェル…

劉慈欣『三体0【ゼロ】球状閃電』は『三体』とは全然関係ないけどなかなか面白かった

三体0【ゼロ】球状閃電 / 劉慈欣 (著)、大森望(訳)、光吉さくら(訳)、ワンチャイ(訳) 14歳の誕生日の夜に“それ”に両親を奪われた少年、陳。謎の球電に魅せられ、研究を進めるうちに、彼は思いも寄らぬプロジェクトに巻き込まれていく。史上最強のエンタメ…

2022年まとめ:今年面白かった本

Photo by Nong V on Unsplash 2022年のまとめとして今回は「今年面白かった本」を挙げて行こうかと思います。オレは本を読むのが遅いんですが、紙の本とKindle本をうまくスイッチさせながら週1冊ぐらいのペースで読んでいました。だから数えてないけど50冊く…

ミシェル・ウエルベックの『ウエルベック発言集』を読んだ

ウエルベック発言集/ミシェル・ウエルベック(著)、西山雄二(訳)、八木悠允(訳)、関大聡(訳)、安達孝信(訳) 詩人や文学者をはじめ、左翼知識人にフェミニスト、映画、音楽、建築、宗教……まがまがしくも目くるめく混乱した世界に「介入」するウエルベックの論…

ドイツ女性作家の描く不気味な物語 『その昔、N市では カシュニッツ短編傑作選』

その昔、N市では カシュニッツ短編傑作選 / マリー・ルイーゼ・カシュニッツ (著)、酒寄 進一 (訳) 奇妙な出来事が人々を翻弄する――。 その、巧みな一撃。 日常に忍び込む幻想。 戦慄の人間心理。 戦後ドイツを代表する女性作家の名作を集成した、 全15作の…

スパニッシュ・ホラー文芸作家の描く終わりなき不安『兎の島』

兎の島/エルビラ・ナバロ(著)、宮﨑真紀(訳) 川の中洲で共食いを繰り返す異常繁殖した白兎たち、 耳から生えてきた肢に身体を乗っ取られた作家、 レストランで供される怪しい肉料理と太古の絶滅動物の目撃譚、 死んだ母親から届いたフェイスブックの友達申…

後宮を追われた皇后とその侍女との物語『塩と運命の皇后』

塩と運命の皇后/ニー・ヴォ (著)、金子ゆき子 (訳) 50年ぶりに湖の封印が解かれるとき、追放された悲劇の皇后の伝説が幕を開ける――。歴史収集の旅をする聖職者チーは、ある時立ち寄った湖のほとりで、ひとりの老女に出会う。亡き皇后の侍女だという彼女に導…

「ゾンビ化する理由とは何か?」に肉薄したゾンビパニック小説『ゾンビ3.0』

ゾンビ3.0 / 石川智健 香月百合は新宿区戸山の予防感染研究所に休日出勤する。席に着いてWHOのサイトに接続すると、気になる報告があった。アフガニスタンやシリアなどの紛争地域で人が突然気絶し、1分前後経つと狂暴になって人を襲い始めるという。しばら…

SFマガジン12月号:カート・ヴォネガット生誕100周年記念特集号を読んだ

カート・ヴォネガット生誕100周年記念特集 監修:大森望 世界中で愛される作家、カート・ヴォネガット。1922年11月11日にインディアナ州インディアナポリスで生まれ、2007年に没したヴォネガットは『猫のゆりかご』『タイタンの妖女』『スローターハウス5』…

ロバート・W・チェンバースとアルジャーノン・ブラックウッドの怪奇小説を読んだ

黄衣の王 / ロバート・W・チェンバース (著)、BOOKS桜鈴堂 (翻訳) 黄衣の王 作者:ロバート・W・チェンバース Amazon ロバート・W・チェンバースの代表作にしてクトゥルー神話の原点、待望の新訳版!!自殺が合法化された世界で、狂気の野望に取り憑かれた…

囚われの料理人は女海賊の舌を魅了できるか!?/海賊冒険×お料理小説『シナモンとガンパウダー』

シナモンとガンパウダー/イーライ・ブラウン(著)、三角和代(訳) 「命が惜しければ最高の料理を作れ!」1819年、イギリスの海辺の別荘で、海賊団に雇い主の貴族を殺害されたうえ、海賊船に拉致されてしまった料理人ウェッジウッド。女船長マボットから脅され…

アメリカの「ネット怪談」を起源に持つホラー・アンソロジー『【閲覧注意】ネットの怖い話 クリーピーパスタ』

【閲覧注意】ネットの怖い話 クリーピーパスタ/ミスター・クリーピーパスタ (編集)、倉田真木(訳)、岡田ウェンディ(訳) ネットの恐怖都市伝説のコピペから生まれたホラージャンル“クリーピーパスタ”。綿密に計画をたて女性の家に忍び込んだ殺人ストーカーが…

あのホームズがクトゥルフ神と対決!?『シャーロック・ホームズとシャドウェルの影』

シャーロック・ホームズとシャドウェルの影/ジェイムズ・ラヴグローヴ (著)、日暮 雅通 (訳) ある日突然H・P・ラヴクラフトが血縁であることを知らされた作家ラヴグローヴ。彼はラヴクラフトが保管していたジョン・ワトスン博士による秘められた原稿を託さ…

韓国作家チャン・ガンミョンによる鮮烈なSF短編集『極めて私的な超能力』

極めて私的な超能力/チャン・ガンミョン (著)、吉良 佳奈江 (訳) 「自分には予知能力がある、あなたは私とは二度と会えない」手首に傷痕をもつ元カノは、いつか僕にそう言った―とある男女のふとした日常に不思議が射し込む表題作、第二次大戦後にユダヤ人自…

「マーダーボット・ダイアリー」シリーズ最新作『逃亡テレメトリー』を読んだ

逃亡テレメトリー マーダーボット・ダイアリー/マーサ・ウェルズ (著)、中原 尚哉 (訳) かつて大量殺人を犯したとされたが、その記憶を消されていた人型警備ユニットの“弊機”。紆余曲折のすえプリザベーション連合に落ち着いた弊機は、ステーション内で何者…

劉慈欣のSF短編集『老神介護』を読んだ

老神介護/劉慈欣(著)、大森望(訳)、古市雅子(訳) SF超大作『三体』シリーズでSF界を席巻した劉慈欣の最新短編集。昨日紹介した『流浪地球』に続き今日は『老神介護』を紹介。 『老神介護』に収録の作品は全5作、同時発売の『流浪地球』が宇宙進出や異星人と…

劉慈欣のSF短編集『流浪地球』を読んだ

流浪地球/劉慈欣(著)、大森 望 (訳)、古市 雅子 (訳) 『三体』シリーズでSF史を塗り替えてしまった劉慈欣の短編集が2冊刊行された。タイトルは『流浪地球』と『老神介護』。両方とも速攻で購入、速攻で読み終わり、そして「ぐっはあああ、めっちゃ面白かっ…

英米古典怪奇談集Ⅱ『彼方の呼ぶ声』を読んだ

彼方の呼ぶ声:英米古典怪奇談集Ⅱ/ BOOKS桜鈴堂 (編集, 翻訳) 『夜のささやき、闇のざわめき』に続く、傑作怪奇談集第2弾!! 英米の古典怪奇談の中から知られざる良作を厳選し、紹介する本シリーズ。 今回の収録作品9篇は、すべて本邦初訳。荒涼たるブルター…

英米古典怪奇談集Ⅰ『夜のささやき、闇のざわめき』を読んだ

夜のささやき、闇のざわめき:英米古典怪奇談集Ⅰ/ BOOKS桜鈴堂 (編集, 翻訳) あなたを闇の世界へ誘う、珠玉のゴーストストーリー14編!!ビアス、ジェイムズ、レ・ファニュ、ブラックウッド他、怪奇小説の名手たちに、本邦初訳となる知られざる作家たちをくわ…

創元SFアンソロジー『巨大宇宙SF傑作選 黄金の人工太陽』を読んだ

巨大宇宙SF傑作選 黄金の人工太陽/J・J・アダムズ (編集), 中原 尚哉他 (翻訳) SFとファンタジーの基本はセンス・オブ・ワンダーだ。そして並はずれたセンス・オブ・ワンダーを味わえるのは、超人的なヒーローが宇宙の命運をかけて銀河のかなたで恐ろしい…

サラ・ピンスカーのSF短編集『いずれすべては海の中に』が優れモノ揃いだった

いずれすべては海の中に/サラ・ピンスカー (著)、市田泉 (訳) 最新の義手が道路と繫がった男の話(「一筋に伸びる二車線のハイウェイ」)、世代間宇宙船の中で受け継がれる記憶と歴史と音楽(「風はさまよう」)、クジラを運転して旅をするという奇妙な仕事の終…

フランス文学探訪:まとめとして

4月から続けてきたブログ企画「フランス文学探訪」は前回ブログで更新したA・デュマ『モンテ=クリスト伯』で一応の最終回とした。「一応」と書いたのは別にこれでフランス文学を読まないという事ではないからだ。そして「一応の最終回」にしたのはフランス…

フランス文学探訪:その20/A・デュマ『モンテ=クリスト伯』

モンテ=クリスト伯 (講談社文庫版・全5巻) /アレクサンドル・デュマ・ペール(著)、新庄嘉章(訳) モンテ=クリスト伯(1) (講談社文庫) 作者:A・デュマ 講談社 Amazon モレル父子商会の帆船の若い船長候補エドモン・ダンテスは、同僚のダングラールと恋…

フランス文学探訪:その19/パスカル『パンセ』

パンセ / パスカル (著)、前田陽一 (訳)、由木康 (訳) パンセ (中公文庫プレミアム) 作者:パスカル 中央公論新社 Amazon 近代科学史に不滅の業績をあげた不世出の天才パスカルが、厳正で繊細な批判精神によって人間性にひそむ矛盾を鋭くえぐり、人間の真の…

フランス文学探訪:その18/デカルト『方法序説』

方法序説 / デカルト (著)、谷川 多佳子(訳) 方法序説 (岩波文庫) 作者:デカルト,谷川 多佳子 岩波書店 Amazon すべての人が真理を見いだすための方法を求めて,思索を重ねたデカルト(1596-1650).「われ思う,ゆえにわれあり」は,その彼がいっさいの外…