『文豪怪奇コレクション』全5巻を読んだ/その① 幻想と怪奇の夏目漱石

文豪怪奇コレクション 幻想と怪奇の夏目漱石夏目漱石(著)、東雅夫 (編集)

文豪怪奇コレクション 幻想と怪奇の夏目漱石 (双葉文庫)

いまなお国民的人気を誇る文豪・夏目漱石は、大のおばけずきで、幻想と怪奇に彩られた名作佳品を手がけている。西欧幻想文学の影響が色濃い「倫敦塔」「幻影の盾」から心霊小説の名作「琴のそら音」を経て、名高い傑作「夢十夜」、さらには今回初めて文庫化される怪奇俳句や怪奇新大詩まで、漱石が遺した怪奇幻想文学作品のすべてを1冊に凝縮! 怖くて妖しい文豪名作アンソロジー

以前読んだ『もっと厭な物語』で日本文芸作家の怪奇幻想譚もよいものだなあと思い、東雅夫・編集による「文芸怪奇コレクション(全5巻)」を手にしてみた。まずは「夏目漱石編」となるが、実はオレは夏目漱石をちゃんと読んだことがなく、これが初めて漱石をまとめて読む体験となった。始めての漱石が「怪奇コレクション」でいいのかとも思うが、まあオレなんだからしょうがないのである。

文豪として知られる漱石だが、意外と怪談・怪奇譚好きで、本人もそんな作品を多数書いていたのらしい。有名なのはまず夢十夜だろう。どこかモワモワモヤモヤとした得体の知れない、不気味で辻褄の合わない「夢」の物語が10話続く。その続編で本アンソロジー収録作となる「永日小品(抄)」も含め、鬱蒼たる不安を駆り立たせる。この不安感は神経衰弱に悩んでいた漱石自身の不安感であるのだろう。

同様に「琴のそら音」「趣味の遺伝」も意識の流れを描いたのかどこかフワフワと不安定な物語運びで、白日夢的な眩暈を感じさせる。また本アンソロジーには吾輩は猫である(抄)」としてあの名作の一部抜粋が掲載されるが、「吾輩は~」のどこに怪奇要素が?と思ったら読んでみるとちゃんと不気味な話で、編者の目の付け所のよさを感じた。他にも漱石の怪奇詩「鬼哭寺の一夜」「水底の感」、怪奇俳句漱石幻妖句集」など珍しい作品も収録されている。

その中でも驚かされたのは「幻影の盾」「薤露行」といったアーサー王伝説を題に採った暗く美しい文章の幻想譚だ。ロンドン在住時の幻想を描く「倫敦塔」シェイクスピア戯曲を扱ったマクベスの幽霊に就いて」も含め、これが漱石とは思えないようなガチな怪奇ゴシック文学が展開していて、漱石の印象がちと変わった。とはいえ全体的に擬古文体で(ルビはふってあるが)難読漢字も相当に多く、正直読むのにかなり苦労したことは白状しておく。