最近読んだ怪奇幻想不条理小説/『もっと厭な物語』

もっと厭な物語 /文藝春秋 (編集)

もっと厭な物語 (文春文庫)

最悪の結末、不安な幕切れ、絶望の最終行。文豪・夏目漱石の不吉きわまりない掌編で幕を開ける「後味の悪い小説」アンソロジー。人間の恐布を追究する実験がもたらした凄惨な事件を描くC・バーカー「恐怖の探究」、寝室に幽閉される女性が陥る狂気を抉り出すC・P・ギルマンの名作「黄色い壁紙」他全十編。

この『もっと厭な物語』は2013年に文芸春秋文庫として刊行された『厭な物語』の第2集として2014年に刊行された”厭な物語”アンソロジーである。タイトル通り読後感の最低に厭らしい胸糞な短編ばかりを集めた趣味の悪い(笑)アンソロジーなのだ。1集目『厭な物語』も随分以前に読んでいたのだが、第2集が出ていたとは知らずつい最近読むことになった。

胸糞な短編中心のアンソロジーとはいえ、日本文学まで加えられた古今東西の作品が集められており、実はなかなかに格調高くもある。なんと1話目は夏目漱石の「『夢十夜』から第3夜」だったりとか、小川未明の名作「赤い蝋燭と人魚」が収録されていたりとか、そんな中にホラー小説の閻魔大王クライブ・バーカーの「恐怖の研究」が挟まっていたりとか、結構技ありなアンソロジーなのだ。

最も「胸糞」だったのは草野唯雄の「皮を剥ぐ」だ。いやもうタイトルから厭さ全開だがおまけに動物モノで、本当に途中で読むのが厭になってしまった。夏目漱石小川未明作品も厭だったが氷川瓏の「乳母車」も厭だったなー。総じて日本作家の厭さが頭抜けていた。やはり性格の暗さ、湿気にじめついた不快感なら日本人に軍配が上がるという事なのか?

一方海外作家作品ではクライブ・バーカーの「恐怖の研究」がダントツで胸糞悪い内容だった。そもそもバーカー小説ってもともとが胸糞悪い。他の海外作家作品は決して悪くはないんだけれども、「胸糞小説」というよりは普通に「奇妙な味」系の作品として読んだな。

そんな中ヘンリー・カットナーと『シャンブロウ』で有名なC・L・ムーアのSF作家夫婦による合作ペンネーム、ルイス・バジェットの描く「著者謹呈」は、「厭な物語」では全然ないのだがなかなか面白かった。魔術師を殺した男が手に入れたのは「危機を乗り越える方法を10回だけ教えてくれる魔導書」、その男と復讐に燃える魔術師の使い魔との熾烈な戦いが今始まる!男はどう魔導書を駆使して危機を乗り越えるのか?という物語で、これは「胸糞作品」では全くないのだが、ダークファンタジーの秀作として楽しめた。