映画『プレデター:バッドランド』:「プレデター新時代」の到来を告げる最高に刺激的なSFモンスターアクション

プレデター:バッドランド (監督:ダン・トラクテンバーグ 2025年アメリカ映画)

プレデターは、私にとって最も魅力的なモンスター・キャラクターの一人だ。シリーズで最もお気に入りなのは、アーノルド・シュワルツェネッガー主演の1作目よりも、近未来のロサンゼルスを舞台にした『プレデター2』かもしれない。2022年にDisney+で配信され話題となった『プレデター:ザ・プレイ』も良い作品だった。その監督、ダン・トラクテンバーグが、劇場公開作品として再びメガホンをとったのが、この『プレデター:バッドランド』だ。本作はまさに「プレデター新時代」の到来を告げる、最高に刺激的なSFモンスターアクションである。

物語の主人公は、一族から「最弱」の烙印を押され、危険な未開惑星ゲンナに追放された若きプレデター戦士デクだ。彼は、この惑星で最も恐ろしいモンスターを狩ることで汚名を雪ごうとするが、そこで上半身しかないアンドロイド、ティアと遭遇する。デクはティアと協力しながら討伐に挑むが、悪名高い超巨大宇宙企業ウェイランド・ユタニ社の魔の手が、すでにこの惑星に迫っていることに気づいていなかった。

『バッドランド』はある意味で驚くべき作品だ。この映画には、なんと「人間」が一人も登場しない。登場するのは、プレデター、ウェイランド・ユタニ社のアンドロイドたち、そして惑星ゲンナに生息するモンスターのみである。この異例のキャスティングこそが、本作を「狂った」映画たらしめている。狂った掟に支配され怒りに駆られるプレデター、殺戮がすべてを支配する狂気の惑星、冷徹極まりない巨大企業。この異様極まりない世界において、アンドロイド少女を演じるエル・ファニングが、一輪の花のようなキュートさを添える。この対比の演出が、本作の大きな魅力の一つだ。

また、『バッドランド』はシリーズ中最もユニークな視点を持った作品でもある。これまで悪役エイリアンとして描かれてきたプレデターを主人公に据え、そのデクの行動に限りなく感情移入できるよう、物語が構築されているのだ。主人公デクは、一族の掟に苦渋を嘗め、親子の関係に苦悩し、やがてアンドロイドのティアと信頼関係を築いていく。さらには、ある生物との共闘すらも描かれる。この「共感できるプレデター」という試みが、物語の強度を飛躍的に高めている。

冒頭、「プレデターがモンスター惑星でモンスターを狩る物語」というシンプルな構図から始まるが、物語は次第に急転し、目が離せない展開となる。詳細な言及は避けるが、最後には観客の視点が180度変わってしまうほどの驚きが待っているのだ。冒頭からの何気ない描写が、その後の痛快なゲリラ戦の巧みな伏線となっている点には思わず唸らされた。このように、シナリオが実にクレバーに練り込まれており、単にプレデターが暴れ回るだけの展開に終始していない。そうして迎えるクライマックスの壮絶なスペクタクルは、まさに拍手喝采ものだ。これは、間違いなくシリーズ最高傑作だろう。


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凄腕暗殺者が暴れまわるド派手なアクション小説『エージェント17』

エージェント17 / ジョン ブロウンロウ (著), 武藤 陽生 (翻訳)

エージェント17 (ハヤカワ文庫NV)

世界で最も恐れられているエージェント“17”。“15”までの暗殺者は、そのだれもが次の番号のエージェントたちによって殺されてきたが、“16”だけは殺されることなく姿を消していた。“16”の跡を継いだ“17”の次の任務は、とある作家の暗殺。どうやら、その作家の正体は“16”らしい。激しい戦いの末、“17”が“16”から聞かされた世界を揺るがす巨大な陰謀とは。CWA賞スティール・ダガー賞受賞作。

主人公は最強の暗殺者として恐れられているエージェント17。彼はある日、引退して現在行方知れずとなっているエージェント16の抹殺を命じられる。しかしエージェント16はエージェント17以上のスキルを持つ伝説の暗殺者であり、その任務は困難を極めた。そしてエージェント17は、次第にこの指令の背後に恐るべき陰謀が存在していることに気付き始める。

暗殺者の物語というと凄腕スナイパーやスニーキングを得意とするニンジャの如き存在の活躍を想像してしまうが、本作『エージェント17』で描かれるのは雨あられと飛び交う銃弾と景気よくぶちあがる爆炎、熾烈なカーチェイスで次々と破壊されてゆく車両といった、ハリウッドの大作アクション映画を彷彿させるド派手なシーンの連続だ。狙撃や隠密行動といった暗殺者らしい描写もあることはあるが、中盤からはエクストリームなアクションシーンのつるべ打ちとなってゆくのだ。

そういった意味で、暗殺者の物語なのにやたら大っぴらに殺しまくる映画『ジョン・ウィック』シリーズを思わせるものがあるが、戦闘ヘリがミニガンを撃ちまくりRPGが全てを瓦礫の山とする本作は『ジョン・ウィック』すら超えていると言っていい。作品内でも映画作品への言及が多く、そもそもが映画的であることを念頭に置いて描かれたに違いない。緊張感や緊迫感よりもけたたましい戦闘シーンの興奮を楽しむ物語なのだ。

映画的であると同時にコミック的な物語でもある。「世界最恐のエージェント」や「暗殺者たちの闇ギルド」といった設定はコミック的な荒唐無稽さだ。主人公を始めとする登場人物たちのライトでタフな話っぷりはコミックのキャラそのものだ。彼らが感傷的に語る残酷な過去の物語も紋切り型ではあるが、その分強烈なケレン味に溢れており、これもコミック的な親しみやすさを覚えさせる。リアリティは希薄だが、次から次へと話が転がってゆく軽快なドライブ感に満ちた快作だと言っていいだろう。

 

深夜の森の中で狙撃手に襲われる恐怖を描くスリラー小説『夜明けまでに誰かが』

夜明けまでに誰かが / ホリー・ジャクソン (著), 服部 京子 (翻訳)

夜明けまでに誰かが (創元推理文庫)

高校生のレッドは、キャンピングカーで友人3人、お目付け役の大学生2人と春休みの旅行に出かけていた。だが人里離れた場所で車がパンク。携帯の電波は届かない。そして何者かに狙撃され、残りのタイヤと燃料タンクを撃ち抜かれてしまう。午前零時、サイドミラーにかけられたトランシーバーで、狙撃者から連絡が。その人物は6人のうちのひとりが秘密をかかえている、命が惜しければそれを明かせと要求してきた。制限時間は夜明けまで。閉ざされた空間で展開される極限の探り合いと謎解き。『自由研究には向かない殺人』の著者の新たな傑作!

大学生2人、高校生3人を乗せたキャンピングカーが、深夜の山道で立ち往生する。何者かにタイヤを狙撃されたのだ。犯人からの要求はただ一つ。「殺されたくなければ、お前たちの中の誰かが抱える秘密を白状しろ」──。突如として極限状態に陥った車内の5人は、疑心暗鬼に陥り互いを疑い始める。これは、閉鎖空間で展開されるスリラーサスペンスだ。

まず気になったのは、その不自然な状況設定だ。極限状態を作り出したい意図はわかるものの、作り上げられた状況があまりにも現実離れしている。そもそも、犯人が「秘密」を白状させるためだけに、これほど複雑で不確定要素の多い手段を用いるのは理解しがたい。計画全体が偶然に頼りすぎているように感じられ、リアリティを損なっているのだ。

また、登場人物の多くがティーンエイジャーということもあり、彼らの言動や危機に対する反応が終始幼稚に映る。感情吐露の在り方も紋切り型で、主人公の抱えるトラウマや、突如性格の豹変する友人の描写などがあまりに単純に思えた。作品がヤングアダルト向けだと後から知ったが、その前にこの点に辟易し、物語に没入しきれなかったのは残念だ。

しかし、評価すべき点も多い。状況設定には違和感があるものの、サスペンスの盛り上げ方は非常に巧みだ。「事件の真相」や、それに伴って急転する人間関係、そして驚愕の事実など、ストーリーの中核をなす部分は見事に描かれている。ベストセラー作家としての力量を随所に感じることができた。ラストはやや都合がよく、甘いと感じるが、読者層を考慮すれば妥当な着地と言えるだろう。全体として設定の粗さが目につくものの、真相解明までの緻密な展開は読み応えがあった。

 

『槐と優』『黄昏ノ器神』など最近読んだコミックあれこれ

槐と優 / 諸星大二郎 (著)

諸星大二郎の新作は天才少年・槐くんと不思議少女・優ちゃんが怪奇現象を解決する!?というホラーコメディ『槐と優』。雑誌「怪と幽」に連載しているのでこんなタイトルなのらしい。諸星はこういったホラーコメディ作品をあれこれと描いているもかかわらず、どれも切り口が違っていて毎回新鮮な気持ちで読むことが出来る。今回の内容も変幻自在なハチャメチャさで、「ヴォイニッチ手稿」を主要テーマとしながら物語はどんどんと破天荒な方向に地滑りを起こし、新生物だの惑星直列だの予知夢だのを持ち出しながらも結局は荒唐無稽なドタバタへと逸れてゆき、最終的にあらゆるものがドロリンとした怪しい諸星ワールドへと収束する、といった塩梅である。この好き放題の自由闊達さがまた諸星作品の魅力だ。作者もお年のせいかグラフィックがこれまで以上に不安定で怪しくて、それすらもテイストになってしまう諸星コミック凄い。

黄昏ノ器神 (1・2)/ 山本 晋 (著)

山本晋の『黄昏ノ器神』は架空の中世日本を舞台に、罪人たちの末裔が住む「春原地下牢獄」から這い上がろうともがき回る賤民たちの死闘を描くダークファンタジー作品である。「器神」と呼ばれる憑依神を使役しながら繰り広げられる魔術的な戦いがメインとなり、虚無的な登場人物と残虐極まりない戦闘、夥しい血と死とが物語を暗く盛り上げてゆく。山本晋のコミックを読むのはこれが初めてなのだが、魅力的な世界観と美しく流麗なグラフィックに心惹かれた。沙村広明の『無限の住人』に近いテイストを持っているが、 「器神対決」という『無限の住人』よりもコマーシャルな展開がこの作品の大きな魅力となるだろう。

KRAKEN MARE(1)/ IZU (著), Hagane (著), 原正人 (翻訳)

西暦3933年の未来、ブラックホールから算出されるエネルギー源「ブラックエーテル」を巡って「腐肉漁り(スカベンジャー)」と「教会(エクレシア)」が熾烈な勢力争いを繰り広げるというSFコミック。フランス出身のバンドデシネ原作者IZUとイタリア生まれのコミックライターHaganeがタッグを組み、月刊アフタヌーンで連載している作品となる。バンドデシネ的なシナリオを日本のマンガテイストで描き、全体的にはその折衷のような仕上がりとなっている部分が特徴となる。ただし設定が少々分かりにくいのと、突き放したような展開に好き嫌いが分かれるかもしれない。

連載終了! 少年ジャンプ黄金期の舞台裏 / 巻来 功士 (著)

ゴッドサイダー』『メタルK』といった作品で異彩を放った作家・巻来功士が、ジャンプ連載時の舞台裏を描く実録マンガ。巻来功士は名前こそ知っていたけれどもコミックをきちんと読んだことが無く、これが初となった。 地方出身の大学生が漫画家を目指し上京、あれよあれよと連載を持たされるが連載打ち切りや方向転換を強いられることも多かったのらしい。面白かったのは巻来氏は相当独立独歩な性格らしく、編集者に頼りながらも最終的には自分の意思を貫き通したいという意気に溢れていて、タイトルはネガティブな雰囲気だが内容自体は漫画愛に満ちた溌溂としたものであった。

 

大瀬崎に行って神社やらビャクシンやら神池やらを眺めてきた

三連休中日の日曜日は相方さんの運転する車で静岡県沼津市にある大瀬崎にいってきました。これ、相方さんのライフワークである「海辺の鳥居を見に行く」の一環で、この大瀬崎には引手力命神社(大瀬神社)という神社があり、その鳥居を目指したということなんですね。

地図の赤いポイントが引手力命神社になります。伊豆半島駿河湾側と言えば地元の横浜から随分あるので、朝早く(8時半頃)から出発することにしました。この日は晴天というほどではありませんでしたがそこそこに天気が良く、高速道路から常に富士山がドーンと眺めることができて、結局この日は一日中富士山を拝むことになりましたね。

途中サービスエリアで休憩を挟んだりしながら大瀬崎には12時半ごろに到着。大瀬海水浴場に車を止めましたが、ここってかなり有名なダイビングスポットらしく、ウェットスーツを着たダイバーの方たちが今まで見たこともないぐらい集結していてびっくりしました。写真は大瀬海水浴場から眺めた富士山。

到着して早速腹ごしらえ。カツカレーを注文したんですが、カツのあまりの大きさにたじろいでしまいました。お味のほうもなかなかよかったですよ。

引手力命神社は海水浴場のすぐ先にあります。まずは鳥居。

さらに鳥居。

引手力命神社です。

ところで大瀬崎にはビャクシン樹林という場所があるのですが、これ、実は天然記念物なんですね。

www.city.numazu.shizuoka.jp

どうですかこの怪しげな威容。こんな具合に不思議な形にねじくれたビャクシンがそこら中に生えているんです。

これなどは樹齢1500年といわれるビャクシンで、引手力命神社の神木となっています。

さらに大瀬崎には「大瀬の神池」と呼ばれるちょっと不思議な池があるんですね。

地図で見ると大瀬崎の突端に針穴を思わせる形状をした池があるのが分かると思うんですが、実はこの神池、すぐ隣が海だというのに淡水の池なんですね。

実際の神池。樹木に囲まれた静かな池で、数メートル先が海だなんてまるで思えません。伊豆の七不思議のひとつとされているのだそうです。

そして淡水魚である鯉が大量に生息してるんですよ。写真だとよく見えないかもしれませんが、手を叩いたら沢山の鯉が口をパクパクさせて寄ってきました。鯉に限らず鮒・鯰などの淡水魚が約3万匹生息しているのだそうです。

こちらは伊勢大瀬崎灯台。遠くに富士山が見えます。伊勢大瀬崎灯台は海水浴場とは反対の場所に建っているんですが、潟に囲われた水面の静かな海水浴場と比べ、こちらは駿河湾の荒波の押し寄せる実にワイルドな海でした。ほとんど同じ場所なのにこんなに違うんですね。

この日見た富士山のベストショットもこの灯台の場所から見える富士山でした。頂上にちょっとだけ乗っかった雪の様子も風情があって、なんだか広重あたりの浮世絵に出てくるような美しい姿をしていましたね。今まで見た富士山の中でも一番綺麗に見えた富士山だった。

こんな具合に大瀬崎を1時間ほどぶらぶらして、2時半ごろに帰路につきました。帰りは若干の渋滞に巻き込まれながら、家についたのが8時過ぎ、楽しかったけど海風に吹かれて少々体が冷えたし、やっぱり長時間のドライブは疲れましたね。帰ってからたっぷりお風呂に入って体を温め、その後夕食を食べながら相方さんとビールで乾杯。この日あったあれやこれやを話題にして盛り上がりました。

(おしまい)