英米古典怪奇談集Ⅱ『彼方の呼ぶ声』を読んだ

彼方の呼ぶ声:英米古典怪奇談集Ⅱ/ BOOKS桜鈴堂 (編集, 翻訳)

彼方の呼ぶ声: 英米古典怪奇談集Ⅱ

『夜のささやき、闇のざわめき』に続く、傑作怪奇談集第2弾!! 英米の古典怪奇談の中から知られざる良作を厳選し、紹介する本シリーズ。 今回の収録作品9篇は、すべて本邦初訳。荒涼たるブルターニュ地方、 第一次大戦後の貨物船、古代エトルリアの墓地、世界各地を舞台に起こる バラエティ豊かな怪談・綺譚の数々を、とくとご堪能あれ。

前回紹介した英米古典怪奇談集Ⅰ『夜のささやき、闇のざわめき』の続編となる怪奇談集。『夜のささやき、闇のざわめき』ではオーソドクスな古典幽霊譚のショウケイス的な作品が並んでいたが、この第2集ではよりヴィヴィッドで文学的香りのする作品が並ぶことになる。気に入った作品を幾つか並べてみよう。

まずR・W・チェンバース「イスの令嬢」だ。フランスはブルターニュ地方の森で道に迷った旅人が、ミステリアスな鷹匠の女に助けられ、屋敷に招かれるところから物語は始まる。この鷹匠の女は人里離れた森の中で時代から取り残されたかのような生活を営んでいたのだ。まず鷹匠の女、という設定の珍しさに惹かれるではないか。彼女が営む中世の如き生活も謎めいていて興味をそそられる。そしてこの物語、怪異譚というよりも幻想譚として幕引きする部分に大いに感銘させられた。

F・B・オースティン「深き海より」は沈没船のサルベージを委託された船舶が海で出遭う怪異を描いたものだ。そのサルベージされる船とは第1次世界大戦の最中にイギリス海峡に沈められた数百という船の一部なのだ。これまでこのアンソロジーでは、ヴィクトリア朝イギリスを中心とした幽霊譚が並んだが、「第1次世界大戦後」で「海の怪異」といった部分に目新しさを感じた。そして戦争の惨禍はどのような怪異譚よりも惨たらしいものだ。それとこの物語はポーランドSFの巨匠スタニスワフ・レムの短編に類似点が見られ、そういった部分も興味深かった。

T・G・ジャクソン「いにしえの指輪」の舞台となるのはイタリアにあるタルクイーニアと呼ばれる自治区である。このタルクイーニアには現在世界遺産ともなっている古代エトルリア人が遺した墓地遺跡(ネクロポリス)があり、怪異はそこで起こるのだ。調べるとエトルリア人とは古代ローマ以前に先住していた民族であり、古代ローマ人と同化する形で消滅したのだという。こういった設定からしてもういわくありげで楽しいじゃないか。確かに物語的には「指輪の呪い」といった有り体のものだが、この設定の妙と、「キリスト教誕生以前の古の神」という禍々しさが想像力を刺激した。

M・E・ブラムストン「閉ざされた扉」は悪女に恋人を奪われた娘が、数奇な運命からその悪女とかつての恋人との間にできた子供を養育することになる、という物語だ。この子供が早くに亡くなりその幽霊が……という部分では怪異譚であるのだが、そういった部分よりも運命に弄ばれながらも自らを律し健気に生きる女の人生の在り方が妙に読ませるのだ。いわゆるモラリズム文学という事ができるが、そこに幽霊を持ってきて人生訓にしている点で変わり種として読むことができた。