英国エリート名門校が教える最高の教養 / ジョー・ノーマン (著), 上杉 隼人 (翻訳)
英国の名門パブリックスクール(中高一貫校)が伝授する「本物の教養」が学べる一冊! 〈世界の大学ランキング8年連続1位〉のオックスフォード大学やケンブリッジ大学へ、卒業生の多くが進学。 歴代首相を40人近く輩出、全寮制で映画『ハリー・ポッター』のロケ舞台にもなった。 秘密主義のヴェールに包まれエリートのみに伝授されてきた〈教育の奥義〉を、あますことなく公開する。 「本物の教養」を支える〈読み〉〈書き〉〈ストーリーづくり〉とは? 一生ものの教養が身につく究極の学び本。
『英国エリート名門校が教える最高の教養』である。「英国」にも「エリート」にも「名門」にも「最高の教養」にも全く縁のない、むしろ「亡国」や「3K労働者」や「お門違い」や「無知蒙昧」といった言葉の相応しいオレがなにゆえにこのような本を読むことになったのか。実はこの本、基本はブックガイドであり、それも意外とSF小説が多く紹介されていると知り、SF読みのオレとしては、「”最高の教養”の一つとして選ばれるSF本とはいったいどのようなものであろうか」と興味を持ったのだ。
この本では「世界レベルの教養の基礎となる必読書」としてフィクションとノンフィクション、さらにコミック/グラフィックノベルを併せて144冊の本が紹介されている。本文ではそれ以外にも多くの本が引用され、本好きには堪らないブックガイドとして読むことができるだろう。紹介されている本、特にノンフィクションはアリストテレスやらヘーゲルやらと、いかにも《教養》な著作が殆どではあるが、これがフィクションとなると意外にくだけた作品がちらほらと見受けられるのだ。
144冊のうちSF本はウェルズ『タイムマシン』、カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』、ヴォネガット『猫のゆりかご』、ウィンダム『地衣騒動』、フォースター『機械は止まる』、アダムス『銀河ヒッチハイク・ガイド』、グラフィック・ノベルとしてアラン・ムーア『ウォッチメン』、ホドロフスキー/メビウス『アンカル』が挙げられている。厳密にはSFではないがシェリー『フランケンシュタイン』、ル=グウィン『影との戦い ゲド戦記Ⅰ』、オーウェル『動物農場』のタイトルもあった。さらにタイトルだけ言及されたSF作品としてナオミ・オルダーマン『パワー』、ヴォネガット『スローターハウス5』、ハーバード『砂の惑星』、ギブソン『ニューロマンサー』、アトウッド『侍女の物語』、ジェイムス『トゥモロー・ワールド』があった。
『英国エリート名門校が教える最高の教養』と謳われた本において、このSF小説言及率はちょっとしたものではないか。ひょっとしてSF小説を読んでいるだけでオレは教養が高かったのか!?と誤解してしまいそうになるぐらいだ。非SFも含めるなら144冊のうち20冊程度は読んでいたので、オレの教養度もなかなかのものではないか(いや逆だと思う)。
とはいえ、フィクションジャンルにおける児童書の割合が結構高く、ちょっと敷居低すぎないか?と思って本文をよく読んだら、この「英国エリート本」、実は読者のメインターゲットは英国パブリックスクール(中高一貫校)の生徒たちだったんだよね。そりゃ敷居が低い訳だ。その中でピケティの『21世紀の資本』やノア・ハラリの『サピエンス全史』、サイモン・シンの『フェルマーの最終定理』なんて本が挙げられているのは全然敷居は低くないが。確かに「大人が読んでも十分教養の役に立つ」とは書かれてはいたが、基本的にはこれからの時代を担う若い人たち向けだったというわけだ。
それと、144冊挙げられているけど、著者は「いや実は僕、全部読んだわけじゃないけど」とか但し書きがしてあって、おいおい!と突っ込みたくなったのと同時に、この正直さに著者への好感度が高くなった(そうなのか?)。それでも、この「英国エリート本」で紹介された144冊には、読んでみたいなあと思わされる本がかなりの冊数あって、そういった点ではブックガイドとしてよく書かれたものだったと思う。数ある名作・逸作の中にウエルベックの『素粒子』が入っているところは個人的に「やるなこの著者」と思わされた。
実を言うとこの本でブックガイドに割かれているのは全体の半分弱で、その後は「どう読むか」「どうか書くか」「エッセイをどう構成するか」(小論文みたいなものかな?)「ストーリーをどう語るか」といった章が続くことになる。読書によって得た知識をどう演繹するのか、ということなんだろうな。とはいえ、一介の零細ブログ書きの身であるオレとしても、どう書くか?どう語るか?といった指南は十分拝聴に値するものがあった。