『文豪怪奇コレクション』全5巻を読んだ/その② 猟奇と妖美の江戸川乱歩

文豪怪奇コレクション 猟奇と妖美の江戸川乱歩江戸川乱歩(著)、東雅夫 (編集)

文豪怪奇コレクション 猟奇と妖美の江戸川乱歩 (双葉文庫)

日本人に最も親しまれてきた作家の一人である江戸川乱歩は、ミステリーや少年向け読物のみならず、怪談文芸の名手でもあった。蜃気楼幻想と人形からくり芝居が妖しく交錯する不朽の名作「押絵と旅する男」、斬新な着想が光る「鏡地獄」や「人間椅子」、この世ならぬ快楽の世界へと誘う「人でなしの恋」や「目羅博士」など、残虐への郷愁に満ちた闇黒耽美な禁断の名作を総てこの一冊に凝縮。巻末に「夏の夜ばなし──幽霊を語る座談会」を文庫初収録!

文豪怪奇コレクション第2弾は江戸川乱歩。誰もが知る日本大衆文学黎明期の大有名作家であるが、これも実は今まで一作も読んだことがなかった。子供の頃「怪人二十面相」あたりのジュブナイル版に挑戦したこともあったが、どうも当時から推理モノが性に合わないようで、結局これまで縁がなかった。しかしそんなオレですらタイトルだけは知っている作品が多々あり、なるほどこんな話だったのかと確認することができた。

なにしろ「文豪怪奇コレクション」なので、本アンソロジーは乱歩の推理モノではなくあくまで怪奇モノを中心に編纂される。「鏡地獄」「人間椅子」「押絵と旅する男」「人でなしの恋」「踊る一寸法師などお馴染みの作品が並ぶが、どれも「怪奇」というよりも「変態」だなあという気がした。抑圧によって歪められた性欲、アンモラルな快楽、爪弾き者たちの孤独な淫夢、捻じ曲がっていることをむしろ愉しむような変態性、それが乱歩怪奇小説なのだろう。

そんな中で最も猟奇的で気にいったのは「蟲」「芋虫」か。展開が分かっていても描写の徹底した厭らしさに粟立ってしまった。一方防空壕」「お勢登場」は幻想譚やスリラーの体裁を取りながら最後に黒い笑いを持ち込んだ作品で、こういった作品も書けるのかと感心した。「夏の夜ばなし―幽霊を語る座談会」は乱歩の珍しい座談会を収めたもので、怪談に関するあれこれの蘊蓄が読めて楽しい。

乱歩のこういった作品の多くは、煎じ詰めるならオブセッションの物語であるが、乱歩はそれをグロテスクに戯画化し暗く湿った変態小説として組み立てることが巧みだったのであろう。こういったエログロナンセンス路線は作品発表当時の世情不安の反映なのだというが、同時に、例えば浮世絵で言うなら江戸期の春画や幕末から明治にかけて描かれた無惨絵など、日本では割と連綿と続いたエログロナンセンス文化があり、それを踏襲したものなのかな、とも若干思った。