一人の男の地獄への道行きを描く怪奇幻想譚/映画『ナイトメア・アリー』

ナイトメア・アリー (監督:ギレルモ・デル・トロ 2021年アメリカ映画)

読心術を操る男が迷い込んだ血も凍る様な悪夢。2021年製作の映画『ナイトメア・アリー』はそんな、暗くおどろおどろしいドラマの展開するノワール作品です。監督は『ヘルボーイ』『パンズ・ラビリンス』『パシフィック・リム』など、怪奇と幻想、さらにはSF作品まで得意とするギレルモ・デル・トロ。主演にブラッドリー・クーパー、共演はケイト・ブランシェットウィレム・デフォールーニー・マーラ。原作はこれまで2回映画化されたウィリアム・リンゼイ・グレシャムの小説『ナイトメア・アリー 悪夢小路』。

【物語】後ろ暗い過去を持つ流れ者スタン(ブラッドリー・クーパー)はカーニバル一座の元で働くことになり、そこで「電気人間」の出し物を演じる女性モリールーニー・マーラ)と恋に落ち駆け落ちをする。スタンはカーニバルで覚えた読心術により人気を博すが、そんな彼に心理学者リリスケイト・ブランシェット)が接触する。スタンはリリスの顧客情報を元に子供を亡くした金持ちに近づき、大金を巻き上げ交霊術を開始するが、そこから彼の人生は大きく狂っていく。

さてギレルモ・デル・トロ、結構好きな監督ではあるんですが、怪物を愛した女を描く2017年公開の『シェイプ・オブ・ウォーター』がどうもオレの肌に合わず、少々気持ちが離れていたんですね。この『ナイトメア・アリー』も、公開されたときは予告編眺めながら「で、結局何のお話なの?」とモヤモヤしたものしか感じなくて結局見送っちゃったんですが、最近サブスクで観られるようになったので視聴してみました。

で、結局何の物語だったか?というと、怪奇と幻想、猟奇とグロテスクを、鬱蒼とした美しい美術で彩った、いつものデル・トロ印の猟奇ドラマではあるんです。いつものデル・トロなのでこってりとくどく(なにしろ上映時間は150分)、暗くてドロドロ、そして暴力的です。ただし超自然的な要素は存在せず、一人の男が魔性の女に魅入られ、運命の糸に絡み取られ、地獄の底へと転落してゆく様子をじっとり(そしてこってり)と描いているんです。しかし決して陰鬱なだけの物語ではなく、目を見張る様な壮麗な美術とセット、幻惑的な怪奇趣味、豪華な出演陣の登場により、一級の作品として完成していることは確かです。

とはいえ、これもまたデル・トロ作品に散見する要素なのですが、なにしろ救いが無く暗澹とした物語である部分に食傷してしまったことも否めません。絶望と慣れ親しみそれを楽しんでいるかのように思わせてしまうデル・トロのこういった作品性が、オレとしては「ああまたか」と思ってしまうんですよ。「いつまでも同じ事やってんじゃないよ」と感じてしまうんですよ。鬼火の如く妖しく輝くその美術には強烈な求心力がありますが、「いやでもこれで騙されないぞ」とへそ曲がりなことを言いたくなっちゃうんですね。そういった部分で、悪くはないが好きでもないなあ、というのがこの作品への感想でありました。

デル・トロにはこんな自家中毒起こしているようなノワール作じゃなくて、もっとエンタメ作品を撮ってもらいたいんだけど、『シェイプ・オブ・ウォーター』でアカデミー賞取っちゃったばかりになんだか勘違いしちゃってるんじゃないのかなあ、とちょっと思ってしまいました。