オーメン:ザ・ファースト (監督:アルカシャ・スティーブンソン 2024年アメリカ映画)
1976年に公開されたホラー映画『オーメン』といえば「666は獣の数字!」「ダミアン悪魔の子!」といったギャグネタにされるようなしょうもない作品だった。そもそもアンチキリストやら神と悪魔の闘いやらといったキリスト教ネタは無宗教国日本では果てしなく無意味であり、人がやたら残酷に殺される以外何が怖いのかさっぱり分からないホラー映画でもあった。
とはいえ何故だか人気があったのらしくその後続編やリメイク版が製作され、そして今回前日譚という事で公開されたのがこの『オーメン:ザ・ファースト』である。オレ的にはなにしろしょうもないシリーズという印象しかなかったのでスルーする気満々だったが、これがなにやら評判がいい。で、興味本位で観てみると、これがなんとよくできた作品だったので驚いた。
物語はローマ教会にやってきたアメリカ人修道女が体験する悪魔の子生誕にまつわるおぞましい事件を描くものだ。この作品の興味深い点は全編にわたるポランスキー的な演出にある。「異邦人の不安と恐怖」という物語構造がまずポランスキー映画の常套的なものであり、「悪魔の子の生誕」という物語はポランスキーの最恐ホラー映画『ローズマリーの赤ちゃん』を否応なく想起させるだろう。「悪魔の存在」にしても悪夢とも現実ともつかない曖昧な描写で描かれており、これもまた『ローズマリーの赤ちゃん』と共通の恐怖演出なのだ。
現代社会にありながら数千年前から在り続けるローマの遺跡と共に生きることの異様さはオムニバス映画『世にも怪奇な物語』におけるフェリーニのホラー短編『悪魔の首飾り』に通じるものがある。また物語は神と悪魔の抗争という安易な御伽話ではなく、教会のヘゲモニーを強化するために敢えて悪魔の存在を利用しようとする教会急進派の陰謀であると説明され、そこが新鮮であり現代的なのだ。
撮影は陰影に富みシンプルで力強く美しいもので、俳優たちの存在感は申し分なく、アメリカ人監督らしからぬ昏く落ち着いた演出に徹している部分も注目に値する。女性がメインとして描かれ妊娠出産をクライマックスに当てた物語は女性監督ならではの身体性に対する痛痒感がそこここに満ち溢れたものとなっている。神と悪魔という前時代的なホラーテーマはひどく退屈ではあるが、違うテーマを与えられれば結構化ける監督なのではないかと思えた。ラストもいい。
バッド・デイ・ドライブ (監督:ニムロッド・アーントル 2023年イギリス・アメリカ・フランス作品)
家族と共に乗る車に爆弾が仕掛けられ、指示に従わないと爆破しちゃうよ!と謎の犯人から脅される難儀な金融ビジネスマンを描くサスペンス・スリラー。主演はサスペンス・スリラーなら何でも出ちゃうよ!のリーアム・ニーソン。
スペイン映画『暴走者 ランナウェイ・カー』の英語リメイクとなるが、こちらは未見。ただし韓国版リメイク作『ハード・ヒット 発信制限』を観たことがあったので、こちらと比べながら観てみることにした(他にもドイツ版リメイク『タイムリミット 見知らぬ影』という作品がある)。
さて物語は車に爆弾を仕掛けられあっちに行けこっちに行けと犯人から命令され翻弄される主人公を描くのだが、謎めいた設定の割には真相は結局金絡みで、じゃあこの回りくどい脅迫の仕方はなんだったの?と拍子抜けさせられてしまう。韓国版ではその根底に復讐があったからまだ説得力があったんだがな。おまけに爆弾の起動はスマホからの発信で、それが電波の届かない地下道に入ったときに警察と一緒にできることもあっただろうに完全に無視した段階でいろいろと白けてしまう。
最後は犯人との一騎打ちとなるが、あれだけ周到な計画を練っていたくせに詰めの段階でグダグダになる犯人のしょうもなさにもげんなりしてしまった。とはいえ、リーアムおじさんが深刻な顔して右往左往するいつものリーアムおじさん映画ということであればそれは十分に役割を果たしていたかもしれない。