諸星コミック最新作を始めとして最近読んだコミックあれこれ

諸星大二郎劇場 第5集 アリスとシェエラザード~仮面舞踏会~ / 諸星大二郎

諸星大二郎劇場」は諸星氏の多彩な新作短編コミックを紹介してゆく短編集で今回が5集目、内容は19世紀ロンドンの女性心霊探偵コンビを主人公とした第4集『アリスとシェエラザード』の続編ともいえる『アリスとシェエラザード~仮面舞踏会~』。今作でも二人の奥ゆかしい女性探偵がロンドンの街を闊歩する亡霊や呪いの謎に迫ってゆく。

これまで民俗学や中国古典怪談をテーマにした怪奇コミックを描いてきた諸星氏だが、今作における「19世紀イギリス怪談」は新境地と言えるだろう。女性二人を主人公としたあまりおどろおどろしくならない怪奇展開というのも新鮮だ。

そもそも19世紀イギリスといえばオカルトの宝庫で、いわくありげな実話怪談や有名怪奇小説家の名前には枚挙に暇がない。そういった部分で諸星氏が「19世紀イギリス怪談」にシフトして見せるのも必然であったともいえるが、そこは諸星氏、凡百の「所謂怪奇コミック」とは違う諸星氏らしい切り口と視点の作品が並んでいる部分が何より嬉しい。19世紀イギリスを舞台としていてもやはりそこは「諸星流怪異譚」なのだ。

龍子(1~2) / エルド吉水

無情の運命を背負ったヤクザの娘・龍子が辿る血と硝煙に満ちた熾烈な戦いを描くアクション巨編。45歳にして突如マンガを描き始め同作で2016年にフランスデビューを飾った現代アート作家、エルド吉水の日本凱旋デビュー作となる。ワールドワイドな舞台設定、ミリタリー小説とズベ公映画の融合、望月三起也ワイルド7』を思い出させる横浜を縦横に駆け抜けるアクション、父と子、そして母とのむせかえる程に濃密な人間ドラマ、黒々とした激情の躍るオールアナログで描かれたページ、どれも破格であり和製マンガの文法から逸脱した強烈な熱量と魅力に溢れている。1巻目は作画がまだまだ荒っぽくアクションがかなり分かり難かったが、2巻目でようやくこなれ静謐なシーンを描けるまでに進化している。物語も荒唐無稽に過ぎるきらいはあるけれども、怒涛の展開に気圧される形で読んでしまった。

貼りまわれ!こいぬ (5)/ うかうか

職を失った主犬公(犬なので主”人”公ではなく主”犬”公)・こいぬが見つけた新しい仕事、それは「街のいたるところに犬のシールを貼りまわる」ことだった!?という謎のお仕事コミック第5弾。今回もただただシールを貼りまわるという意味があるんだか無いんだかわからないお仕事により、なぜか様々な”気づき”や事件や事態解決が起こり、殆ど「メデタシメデタシ」で終わるという、分かったような分からないような、まあよかったんだからよかったか、という展開を迎えるコミックとなっております。

続 日記漫画 札幌の六畳一間/根本尚

札幌在住の謎の怪奇ミステリ漫画家、根本尚氏の六畳一間生活を描く実録コミック第2弾。貧乏生活を面白可笑しく自虐的に描く部分も楽しいが、それよりも根本氏のとんでもないマニアぶり・小ネタ・レトロ趣味が驚くほど面白く、あえて古臭く描いている絵柄も妙に心に馴染むものがあり、この人ホントは結構な才能があるしもっと注目されるべきだな、と1巻目を読んだ時も思っていた。この調子で書き続けてほしいが、それにしてももっと売れるといいですね。

タイムスリップ・コレクター 古書編・音楽編/根本尚

その根本尚氏の、タイムスリップSF+漫画&音楽マニアコミック。過去にタイムトラベルして昔懐かしのコミックやマニアックなインデイ―ズアルバムを入手し、現代に戻って売り飛ばす、というお話なのだが、タイムスリップまでしているのに目が行くのがソコ、という部分にマニアな根本氏独特の可笑しさがある。タイムスリップよりも昔懐かしのアイテムにクローズアップするのが主眼だが、時間SF的考証も意外ときちんとしていて、悪くないんだなコレ。Kindle Unlimitedで無料で読める。

現代怪奇絵巻 特別編/根本尚

現代怪奇絵巻 特別編

現代怪奇絵巻 特別編

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またまた根本尚氏のKindle Unlimited無料コミック。『現代怪奇絵巻』というタイトルだが実はホラーでも何でもなく、子供時代に往々に体験しがちな馬鹿馬鹿しかったり理不尽だったりする「あるある」なエピソードを、「こりゃ怪奇だ!」と笑い飛ばすというコミックだ。なにしろ凄いのは1話4ページの中にありったけのネタを仕込んでいるという事で、よくもまあ子供時代のこんな細かいことをいちいち覚えているよなあ、とこちらもまた感嘆させられる。なお作品はコミケで販売されたものをまとめたのらしい。