『武蔵野ロストハイウェイ』他最近読んだコミック

武蔵野ロスト・ハイウェイ / 斎藤潤一郎

武蔵野ロストハイウェイ (トーチコミックス)

売れない画家の田中ナオミは東京の郊外に住んで20年になる。 冷たい人工物と豊かな自然、深い闇と無慈悲な蛍光灯、人の温もりと正体不明の悪意…… 全てがありのままに放置された「武蔵野」の混沌は、何者にもなれない彼女を時に甘やかし、 時に突き放し、やがて孤独の彼岸へ誘いかけ…… 『死都調布』作者が漂着した孤高の旅シリーズ第2弾!

武蔵野は関東平野にある荒川・多摩川京浜東北線入間川に挟まれた面積700㎢の丘陵地帯である。かつて国木田独歩は著作『武蔵野』の中で「林と野とがかくもよく入り乱れて、生活と自然とがこのやうに密接している処がどこにあるか」と描写したが*1、都市開発の進んだ現在は雑草の如く茫洋と町々の広がるありふれた生活圏でしかない。

斎藤潤一郎のコミック『武蔵野ロストハイウェイ』は前作『武蔵野』に続き、この武蔵野の私鉄降車駅を舞台とした物語となる。しかしそれは決して現実の武蔵野を描くものではなく、衰退と荒廃の影が差すコンクリートの原野であり、位相の異なる世界に出現する幻想の武蔵野なのだ。そこでは殺し屋が闇の中をひた走り、サディステックなコスチュームのパンクが自傷し、虚ろな眼差しのユーチューバーがカメラレンズに語りかけ、限界中年ストーカーが熟れ切った女の臭いを追いかけてゆく。そして主人公である「売れない画家の田中ナオミ」は、ディストピアと化したこの武蔵野をただ茫漠と徘徊し、空虚なドラマを無感動に織りなしてゆくことになるのだ。

タイトルにある「ロストハイウェイ」とはデヴィッド・リンチ監督映画『ロスト・ハイウェイ』から採ったものなのだろう。『ロスト・ハイウェイ』は死と暗黒の怪奇譚だったが、この『武蔵野ロストハイウェイ』にも同様の死と暗黒の匂いがする。作中、主人公は武蔵野を「田舎でも都会でもない中途半端な」土地と呼ぶが、それは即ち郊外=サバービアの孕む歪さと空虚さを揶揄しているのだ。物語もグラフィックも骨のように乾ききっており、その暗澹とした殺伐さを冷え冷えと味わうコミックだ。

魂魄巡礼 / 髙山和雅

髙山和雅はガロ出身の漫画家としては珍しい正統的で緻密な構成を成すSF作品を多数送り出してきた漫画家であり、以前から非常に注目していた。最近は新作がなく寂しい思いをしていたのだが、2016年に出版された短編集『魂魄巡礼』の存在を知り読んでみた。作品の多くは故事伝承を巡る伝奇的性格を持つ物語となるが、伝奇漫画の大家・諸星大二郎作品とはまた一味違う部分が特色となる。怪異や超自然現象が起こったかのように思わせながら、それらが実は意図的に為されたフェイクであることを合理的に説明し、同時にそのフェイクによって救われる人々を描いているのである。いわば京極夏彦の「百鬼夜行シリーズ」における中善寺秋彦がマッチポンプしているような仕組みになっており、その辺がユニークな作品集だった。

アンダーニンジャ(13) / 花沢健吾

緊張と弛緩、殺戮と下ネタをノンセンスに淡々と描くのがこの作品の本質で、この13巻でもそれは同様。大風呂敷を拡げたい放題だが、いいんじゃない、やらせとけば。とりあえず今のところ面白いし。