この間の土曜日は「調布市文化会館たづくり」で開催されていた『マンガ家・つげ義春と調布』展に行ってきました。
東京暮らしも長いですが調布に足を踏み入れたのはこれが初めて。新宿から京王線に乗って京王調布駅で下車しましたが、そもそも京王線に乗るのも初めてか1、2回ほどしかないかもしれません。去年から美術展などであちこち出歩くようになりましたが、知らない街に行くことも結構多くて楽しいですね。しかし調布……何かが引っ掛かるな、と思ったら、そう、斎藤潤一郎のエクストリーム・ビザール・コミック『死都調布』じゃないですか!?
さてつげ義春。あえて説明するまでもなく、日本コミック界における最重要人物の一人であり、その影響力は計り知れないものがあるでしょう。このオレも大のファンで、刊行されている幾つもの作品集を何度も読み返しています。『ねじ式』『ゲンセンカン主人』といった初期のシュールな味わいの作品も素晴らしいですが、ひなびた温泉宿を描く『リアリズムの宿』などの旅漫画や、後期の『石を売る』『無能の人』といった非常に枯れた世捨て人的な世界もまた記憶に強く残っています。現在85歳で残念ながら休筆されていますが、2020年にはアングレーム国際漫画祭で当為別栄誉賞を受賞するなど、世界的な評価は止まるところを知りません。
今回行った『マンガ家・つげ義春と調布』展では、調布に長く住むつげ義春が、どのような形で調布を描いてきたかを展示しています。
《展覧会概要》つげ義春氏は、50年以上調布市に居を構え、数々の名作を世に送り出しているマンガ家であり随筆家です。その作品は、現在も世代を超えて漫画界だけでなく、幅広い芸術分野から高く評価され、国際的にも注目を浴びています。 本展では、複製原画や写真などで、作品に描かれた調布の風景、ご家族との暮らし、映画化された作品についてご紹介します。
展示自体はギャラリーを二部屋ほど使った小さなものでしたが(そもそも無料ですし)、こじんまりした中にもつげ義春と調布との密接な関係を詳らかにした誠意あるキュレーションとなっていました。
展示場入り口では『ねじ式』のあの面妖な少年が出迎えてくれます。
「医者はどこだ!」
展示会ではつげ義春がこれまで掲載した古い書籍や年表、つげ漫画に登場する調布と実際のロケーション写真との対比、また妻であった藤原マキの描いた絵本などが展示されていましたが、やはりなにより目を奪ったのは生原稿の展示ですね。作品数こそ多くはないのですが、あの『ねじ式』の生原稿まで展示されていました。いやあ、この年になってつげ義春の生原稿を見ることができるだなんて僥倖です。
そしてこうして実際に目にしてみると、一見素朴なタッチながら、つげの描く絵はやはり上手い。人物のデフォルメこそありますが、背景画はフォトリアリズムに近いものを感じる。この辺りはつげがアシスタントを担当したことのある水木しげると共通するものを感じますね。展示会ではそんなつげの使用していた画材も展示されており、これだけ写真撮影OKだったので撮影しておきました。
つげの描く昭和の情景は、高度経済成長とはまるで無関係な、貧困の臭いのする侘しく寂しい情景です。ただその情景は、オレの記憶の底にある、子供の頃に見た昭和のそれと微妙に繋がっているんですよ。つげ漫画に登場する貧乏人たちや彼らの住む貧乏長屋はオレの子供時代にもあったし、そのつましい暮らしぶりも自分が体験したものと同等でした。それらを懐かしさではなく、ただ拭いようもなくそこにあった、そのように生きていたという記憶が、つげ漫画を読むときにオレの脳裏に蘇ってくるんです。