2023年まとめ:今年面白かった本とコミック

【目次】

今年面白かった本

今年読んだ本は約70冊、だいたい5日に1冊のペースで読んでいたことになるでしょうか。なんだか前よりペースが上がっていて、年を取ってからのほうが読書熱が高まってきているように思えます。今回はそんな中から特に面白かった本をベストテン形式で並べてみることにしました。全体的に海外作品・日本作品、文学・SF・ホラー・ファンタジー・ミステリ・ドキュメンタリーとかなりバランスよく入れることができましたね。

1位:滅ぼす(上)(下) / ミシェル・ウエルベック

フランスのお騒がせ現代作家ミシェル・ウエルベック、オレ大ファンなんですよ。そのウエルベックの最新長編はこれまでのウエルベック小説の中でも最長、そして描かれるのは例によって生の不確かさと虚しさ。でもその先に、諦観とも希望とも付かない仄かな安寧が描かれている部分が非常に独特で、ウエルベック文学が進化し続けていることを如実に感じさせるんですよ。今年読んだ中で最も心にずっしり来た名作でした。

2位:その昔、ハリウッドで /クエンティン・タランティーノ

クエンティン・タランティーノ監督作品が大好きなオレの、その中でも最も好きな映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』をQT自身がノベライズしたってェんですから、これは読まないわけにはいかないでしょう!しかも映画版の物語がさらに詳細に描かれ、そこで描かれなかった膨大なエピソードが追加され、おまけに時系列までが異なっているものですから、映画版とはまた違う新たな『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』として楽しむことができるんです。文章それ自体も飛び切り優れている上に面白く、QTが優れた文筆家である事までうかがわせた作品でした。

3位:ヒート2 /マイケル・マン、メグ・ガーディナー

非常にファンの多いクライムアクション映画『ヒート』の続編はなんと小説!それも映画『ヒート』の前後の時系列を描いており、映画の主役たちはなぜどのようにして映画版の物語へ至り、そしてその後どのような事件が起こる事になるのかが描かれているんです。そしてこれが、凄まじい緊張感の溢れる最高の犯罪サスペンスとして完成していたんですね!映画『ヒート』を観ていない人も、それほど評価していなかった人(実はオレ)も、この小説の完成度の高さ、圧倒的な面白さには驚かされること必至です!

4位:世界でいちばん殺された男 ダニー・トレホ自伝/ ダニー・トレホ

世界で最も有名な脇役であり、オレの大好きな俳優でもあるダニー・トレホの自伝です。終身刑すれすれの犯罪に手を染めていた少年時代から始まり、刑務所を行ったり来たりする札付きワルの人生を味わい尽くしたトレホが、どのような切っ掛けで更生し俳優業へと進出したのかが描かれてゆきます。そのあまりに綱渡りな人生と、そのドラマチックな変転、そして修羅場を潜ってきたものだけが辿り着く人生観、そういった部分が実に読ませる自伝となっているんですよ。

5位:鵺の碑 / 京極夏彦

京極夏彦百鬼夜行シリーズが17年ぶりに新刊リリース!となればもうこれはお祭り騒ぎです!そして例によって煉瓦本です!内容にしても、17年間の京極の作品的変遷、そしておそらくは内面的な変化も加味されているのだろうと感じさせるものでした。なにより、爽やかですらある読了感を残す部分がとても印象深いんですよ。そのテンポの良さ描写の心地よさからいつまでも読んでいたい、なんならこの倍あってもいい、とすら思わされた作品でもあった。

6位:三体0【ゼロ】球状閃電 / 劉慈欣

『三体0』とかいう日本タイトルですが実は『三体』とは全然関係ありません。劉慈欣が『三体』発表以前の2005年に発表した作品ですが、その物語は謎の自然現象「球電」を追求し尽くしたSF小説なんですね。そしてこれが「真っ当で有り得る科学的考察」でもなんでもなく、「球電現象」をネタにどこまで「有り得ない」アイディアを投入しまくるか!?という内容なんです!まさに劉慈欣らしい宇宙規模の大法螺大風呂敷で成り立っているトンデモSFでした。

7位:モンスター・パニック! /マックス・ブルックス

映画化もされたあの大ベストセラーゾンビ小説『WORLD WAR Z』の作者、マックス・ブルックスの書いた新作長編です。その内容は雪男!?ってところでまず「はあっ!?」と思わされますが、さらにその雪男の大群が意識高い系の連中の住む山奥のコロニーに襲い掛かり、彼らを貪り食いまくる!?というとんでもないお話なんですよ!雪男襲撃のサスペンスも十分面白いのですが、頭でっかちで体を動かすことを知らない意識高い系の連中が、どのようにサバイバルに目覚めてゆくのか?という展開がまた楽しいんですね。

8位:血を分けた子ども / オクテイヴィア・E・バトラー

惜しくも2006年に夭折した黒人女性SF作家オクテイヴィア・E・バトラーのSF短編集。ここで綴られるのは「血と運命の物語」であり、「ディスコミュニケーションの物語」なんです。そして、貧困家庭に育ち引っ込み思案の青春時代を過ごしてきた作者の、「SF作家である事への強烈なる矜持の物語」でもあるんです。作品の幾つかはジェイムズ・ティプトリー・ジュニアの冷徹な筆致を思わせ、黒人男性SF作家サミュエル・R ・ディレイニーに勝るとも劣らない芳醇な才能に溢れた作品が並びます。実はこれまで全く知らないSF作家だったのですが、もっと早く出会っていたかったと思わされました。

9位:美しき血 (竜のグリオールシリーズ) / ルーシャス・シェパード

アメリカのSFファンタジー作家ルーシャス・シェパードの描く〈竜のグリオール〉シリーズ、最後にして唯一の長編。〈竜のグリオール〉シリーズとは「数千年前にある魔法使いとの戦いに破れ、仮死状態となったまま全長1600メートルもの巨躯を原野に横たえる邪竜グリオール」を巡る物語です。シリーズでは仮死状態となってもなお怪しい邪念を撒き散らすグリオールにより、残酷な運命を辿ってゆく人々が6篇の中短篇で描かれます。なによりこの設定が凄まじいのですが、その本質となるのは人間の持つ妄念なんですね。本作はその集大成であり完結編です。有終の美ともいえる素晴らしいダークファンタジーでした。

10位:姫君を喰う話 宇能鴻一郎傑作短編集 + 味な旅 舌の旅 新版/宇能鴻一郎

『姫君を喰う話』は官能小説家・宇能鴻一郎による文学短篇集です。宇能氏については官能小説家という認識しかなかったので、デビュー間もない頃に『姫君を喰う話』のような鮮烈な印象の文学作品を描いていたことを初めて知り、驚愕したのと同時に平身低頭してしまいました。それらは「生の根源」を生々しくもまた迫真の筆致で描き、同時に「生」の原動力である「性の本質」へと果敢に分け入り、その官能と、その裏腹にあるアンモラルとを、臆することなく文章に叩き付けていたんです。『味な旅 舌の旅』はその宇能氏による紀行文をまとめたもの。宇能氏の軽妙洒脱で博覧強記な文章に大いに驚かされ、なおかつ楽しむことの出来るリラックスした1冊です。

今年面白かった本まとめ

1位:滅ぼす(上)(下) / ミシェル・ウエルベック

2位:その昔、ハリウッドで /クエンティン・タランティーノ

3位:ヒート2 /マイケル・マン、メグ・ガーディナー

4位:世界でいちばん殺された男 ダニー・トレホ自伝/ ダニー・トレホ

5位:鵺の碑 / 京極夏彦

6位:三体0【ゼロ】球状閃電 / 劉慈欣

7位:モンスター・パニック! /マックス・ブルックス

8位:血を分けた子ども / オクテイヴィア・E・バトラー

9位:美しき血 (竜のグリオールシリーズ) / ルーシャス・シェパード

10位:姫君を喰う話 宇能鴻一郎傑作短編集 + 味な旅 舌の旅 新版/宇能鴻一郎

今年面白かったコミック

New! ケキャール社顛末記/逆柱 いみり

ヘンテコな物体やヘンテコな生き物が、これでもかとばかりに画面を覆い尽くす不思議で不気味で愉快なコミックです。

ダニッチの怪(1~3)ラヴクラフト傑作集/田辺剛

ラブクラフトのコミカライズ作品を描かせれば田辺剛以上の人はこの世界にいないでしょう。その田辺氏が満を持して送るラブクラフト究極の宇宙的恐怖譚『ダニッチの怪』。全3巻とボリュームもたっぷり内容も充実、恐怖度もグロテスクさもうなぎのぼり、最高のラブクラフトコミックとして完成しています。

ベルセルク(42) / 原作:三浦健太郎 漫画:スタジオ我画 監修:森恒二

三浦健太郎亡き後に有志が集い完成させた新刊です。あれやこれやと三浦氏とは違う部分もありますが、その遺志を継いで物語を完成させたいという意気込みは十分に伝わってきて、オレはとても肯定的に見ているし、これからも書き続けて欲しいと思っています。

ドリフターズ (7)/平野 耕太

平野耕太の『ドリフターズ』、5年ぶりの新刊です。どうやら平野氏は病気療養されていたみたいで、それでこれほど間が開いたようなんですね。なにしろ5年振りなんでストーリーとか忘れていたので、1巻から改めて読み直したんですが、こんなに面白かったのか!?と再発見していまい、改めて平野氏の物凄さを実感させられた新刊でした。

プリニウス(12・完)/ ヤマザキマリとり・みき

足掛け10年に渡り描き続けられたプリニウスの物語が遂に完結です。作者両氏のプリニウス愛、そしてローマ愛の炸裂する素晴らしい作品でした。

日記漫画 札幌の六畳一間/根本尚

札幌在住の全く名前を聞いたことのなかった漫画家による日常実録漫画。怪奇漫画が好きすぎて怪奇漫画家になったけれど全く売れず、六畳一間で限界貧困生活を続ける作者の『男おいどん』的な自虐コメディ漫画なんですが、どこまでもベタベタな内容ながら大変情報量の多い漫画でもあり、ギャグのセンスも良く、ちょっと要注目ですね。

are you listening? アー・ユー・リスニング / ティリー・ウォルデン (著)、三辺律子 (翻訳)

アイズナー賞を受賞したアメリカ・ニュージャージー州出身のティリー・ウォルデンによるグラフィック・ノベル。二人の女性のロードトリップを描いた物語ですが、それは同時に二人の心の旅路、心の成長そのものをファンタジックな展開の中に焼き付けた物語でもあるんですね。さらに目を見張るにはその美しく鮮やかなグラフィックです。全編において赤色系を基調としたグラフィックは温かみがあり、その描線は柔らかで親しみやすく、自然に物語の幻想世界へと没入させられるんです。

ぺピーク・ストジェハの大冒険 /パヴェル・チェフ (著)、ジャン=ガスパール・パーレニーチェク、髙松美織 (訳)

チェコ発のファンタジーグラフィックノベル作品。チェコグラフィックノベルが日本で訳されるのはこれが初めてなのだとか。物語は一人の少年がある謎めいた少女を救うために異世界へと旅立つという作品。同時にそれは一人の少年の成長の物語であり、「想像する力」が人にどのような祝福を与えるのかを示唆したものなんです。グラフィックは非常に幻想的で、うっとりとさせられるほど美しくまた変幻自在、このグラフィックを堪能し尽くすのもこの作品を読む喜びでした。

今年面白かったコミックまとめ

New! ケキャール社顛末記/逆柱 いみり

ダニッチの怪(1~3)ラヴクラフト傑作集/田辺剛

ベルセルク(42) / 原作:三浦健太郎 漫画:スタジオ我画 監修:森恒二

ドリフターズ (7)/平野 耕太

プリニウス(12・完)/ ヤマザキマリとり・みき

日記漫画 札幌の六畳一間/根本尚

are you listening? アー・ユー・リスニング / ティリー・ウォルデン

ぺピーク・ストジェハの大冒険 /パヴェル・チェフ