サグいぜサグいぜサグくて死ぬぜ!トレホ兄ィの自伝が発売だぜ!/『世界でいちばん殺された男 ダニー・トレホ自伝』

世界でいちばん殺された男 ダニー・トレホ自伝/ ダニー・トレホ(著)、ドナル・ローグ(著)、倉科顕司(訳)、柳下毅一郎(監修)

世界でいちばん殺された男: ダニー・トレホ自伝

死ぬ役か悪役では彼の右に出る者はいないと言われる俳優ダニー・トレホ。10代の頃から薬物中毒であった彼はいかにして立ち直り、映画俳優となって『マチェーテ』で主役の座をつかんだのか。半生を振り返りつつ、薬物依存の子供たちを助ける活動についても語る。

一番のお気に入りの映画俳優は誰か?と訊かれたらオレはダニー・トレホの名を挙げるだろう(もう一人付け加えるならマ・ドンソクだね!)。

ダニー・トレホ、メキシコ系アメリカ人俳優、元ジャンキー、元強盗犯、元受刑者、1985年の『暴走機関車』にエキストラで出演して以来、その特異な風貌とダミ声が買われ、ギャング・囚人・犯罪者役を中心に、アクション映画の名脇役・名悪役・名殺され役としてこれまで数えきれないほどの映画に出演してきた男だ。「WatchMojoTVが発表した『映画で最も多く死亡した俳優ランキング』において、トレホが72回で1位*1」という快挙(?)を成し遂げているほどだ。

そんなトレホの事を意識し始めたのはいつ頃からだろう?と思って自分のブログを調べてみたらこんな記事があった。

トレホ兄ィの存在は『ヒドゥン』や『コン・エアー』あたりから「なんか一人、人として間違った顔つきのオッサンがいる、この人俳優だなんてありえない、絶対堅気じゃない」と思ってドキドキして見ていた脇役がいたんですが、決定打は『デビルズ・リジェクト マーダー・ライド・ショー2』でしょうかね、「あああ!この警官役、あの鬼顔のオッサンじゃん!?鬼顔のくせして警官役って一体何!?」とまじまじと画面を見つめた覚えがありますね。真っ当な人生なんか絶対生きてないと思わせる異様な風体で、その異様さに思いっきり魅了されたんですよ。

今日も俺サマは山刀振り回しまくりだぜッ!!〜映画『マチェーテ・キルズ』 - メモリの藻屑、記憶領域のゴミ

なにしろこのキャラですよ!?(なお刺青は自前)

トレホの魅力、それはもうなんといっても、「とても俳優とは思えない恐ろしい鬼瓦顔」だろう。映画で彼の顔を見て、「絶対堅気じゃない」と思わせるものがあるのだ。では彼はこれまでいったいどんな人生を歩み、どうやって俳優業に潜り込み、そして現在の人気と地位を確立したのか?それをトレホ自身が赤裸々に綴ったものがこの『世界でいちばん殺された男 ダニー・トレホ自伝』なのだ。

トレホの人生の最初は暴力と犯罪と麻薬と投獄のオンパレードだ。「荒々しい男らしさに満ちた」家庭で育ち、8歳でマリファナを覚え、強盗の罪で15歳で初投獄、その後も逮捕出所の雨あられ、「トレホ家の人間は刑務所にいるのが当たり前」と自ら語る程ダークサイドまっしぐらの人生で、一時は死刑の可能性もあったのだという。前半部に言及される「犯罪者トレホの半生」は下手な犯罪フィクションなんかより断然面白い。

いや、面白いなんて言っちゃ拙いんだが、「犯罪者になる以外道の無い社会」において一人の少年がいやおうなく麻薬中毒患者と重犯罪者になってゆくリアルがあまりに生々しく描かれているのだ。あたかもジャングルの如き弱肉強食の社会、あるいは刑務所で「いかに舐められずに生きていくか」が実に詳しく書かれ、これはもうその場にいた者にしか分からない内容で、実に凄みがあるのだ。それは、「そうしなければ生き延びられない」という事でもあるのだ。刑務所暮らしの中であのチャールズ・マンソンと出会っていた、なんていう逸話がまた凄まじい。

トレホさんやっぱ顔コワイっす!

そんなトレホの人生に光明が差し始めたのが麻薬回復プログラムによる麻薬中毒からの脱却と、自らが麻薬更生カウンセラーとなったこと、そしてひょんなことから始まった映画俳優エキストラの道だった。そのエキストラ抜擢というのが、たまたま更生させるための麻薬患者を探しに撮影現場に立ち寄ったら、関係者に「あんたイイ顔してんな!エキストラやってみない?」と誘われたからだという。そしてその映画というのが監督アンドレイ・コンチャロフスキー、主演ジョン・ヴォイトによる1985年のアクション映画『暴走機関車』だったのである。

以来トレホは端役・あるいは主演としてあたり構わず数百本の映画に出演することになるが、この節操のない出演数には理由があるのだ。トレホは映画に出演することで、麻薬患者から更生した者がこうして社会で活躍できるという事を麻薬中毒に悩む者に知らしめたいという考えがあった。同時に、チカーノ=メキシコ系アメリカ人が、このような形で社会で成功することの希望を、底辺社会で暮らすチカーノに示したかった。俳優として注目を浴びることは、目的ではなく手段だったのである。こうした功績が認められ、ロサンゼルスでは1月31日が「ダニー・トレホの日」として制定されたほどなのだ。

笑顔のトレホさんも見て下さい!

重犯罪者から世界的大スターへの脱却、その華麗なる転身を綴った本書であるが、かと言ってトレホがすっかり聖人君主になった訳ではないこともきちんと書かれている。それは生来の女癖の悪さから常に家庭崩壊を招き3度の離婚結婚を繰り返している事、麻薬更生カウンセラーとして社会から認められつつも自分の息子が麻薬中毒患者であり一時は行方不明であったことなど、矛盾を抱えた人生であることもまたトレホは語っているのだ。74歳にして娘の指摘で初めて、自分が「有害な男らしさ」を行使する存在であることに気付くくだりなど、逆に幾つになってもきちんと自分と向き合い反省できる人間である部分には感心させられた。

こういったトレホの行動の原動力と生きる指針となっているのは、ひとえに信仰であり神への祈りであり、そして神への感謝である。それはこうして困難な人生をサバイブし、躓きながらも前向きに生きて最後に幸福を掴めたことへの感謝である。同時にこのような自分を受け入れ生き延びさせてくれたコミュニティ、広くは社会への感謝である。バリバリの強面のように見えてトレホという男は謙虚であることを忘れていないのだ。そういった部分が彼の魅力であり、ダニー・トレホという俳優の面白さなのだ。