映画をさらに超える興奮!映画『ヒート』の続編小説『ヒート2』!

ヒート2 /マイケル・マン(著)、メグ・ガーディナー(著)、熊谷千寿(訳)

ヒート 2 (ハーパーBOOKS)

1988年シカゴ。 クリスは切れ者のニール率いる強盗団の仲間とメキシコの麻薬カルテルの現金貯蔵庫を狙っている。 一方、殺人課の刑事ハナは高級住宅地を襲う残忍な連続強盗殺人を追っていた―― 7年後、LAの銀行強盗事件で男たちの運命が交錯したとき、血で血を洗う悲劇が産声をあげる。 追う者と追われる者、米国、南米、アジアを跨ぐ犯罪組織の抗争を壮大なスケールで描く、伝説の映画『ヒート』続編!

1995年に公開されたマイケル・マン監督による映画『ヒート』は、アル・パチーノロバート・デ・ニーロというハリウッド2大スターを主演に迎え、強盗団と警察との息詰まる死闘を描いたクライム・アクションである。非情なるストーリー、凄まじい銃撃戦、憤怒と哀感に満ちた男たちの生き様を描き、高い評価と圧倒的な支持を得たこの作品は、マーティン・スコセッシにより「1990年代ベストの1作」と評され、クリストファー・ノーラン監督作『ダークナイト』にも影響を与えたという。

その『ヒート』の続編を、マイケル・マン監督とMWA賞作家メグ・ガーディナーの共著により小説として発表したものがこの『ヒート2』となる。「続編」とはなっているが、その内容は映画『ヒート』の物語の過去と未来にどのような事件が起こっていたのか・あるいは起こるのかを描いたものとなり、いわば映画『ゴッドファーザー』1作目に対する『ゴッドファーザーPARTⅡ』の如き、前日譚と後日譚の入り混じった作品となっている。

その過去と未来の物語は幾つかの流れとなって描かれることになる。まず過去の物語では、ニール率いる強盗団によるメキシコ麻薬カルテルの現金奪取作戦とその後の思いもよらぬ展開、殺人課刑事ハナが追う残虐な強盗殺人事件とその狡猾なる犯人グループの暗躍ぶりだ。ここでは映画『ヒート』において圧倒的な切れ者リーダーとして描かれたニールが遭遇した悲劇的な事件と、ハナの狂犬の如き刑事根性の背後に何が存在していたのか、そして彼が追う強盗犯リーダーの冷酷非道さが浮き彫りにされる。

未来の物語は映画『ヒート』の数年後となり、『ヒート』のラストで生き残った強盗団メンバー、クリスが潜伏先として身を置いた南米ギャングファミリーの中でどのように頭角を現してゆくのか、そして彼がLAに残してきた家族とギャングファミリーの娘とのの間に芽生えた愛の狭間で狂おしく引き裂かれてゆく様が描かれる。同時に描かれるのはシカゴからLAへと異動したハナの追う娼婦惨殺事件であり、その事件の背後には過去のある忌まわしい事件が絡んでいたのだ。

読んでいてまず気付かされるのはその構成がしっかりと舵取りされ実にスムースであることだ。小説内では過去と未来の物語が交互に語られることになるのだが、これが混線したり単なるブツ切りで並列することが決してない。それぞれの核となるエピソードを慌ただしいクリフハンガー形式で描かず、読んで納得できる長さできっちり描いているのだ。煩雑かつ複雑になりがちな時間軸の移動が実に分かりやすく、これによりエピソード毎の没入感が高く、寄せては返す波の如くメリハリが付けられており、物語の興奮が延々と持続するのである。これら各々のエピソードは一見関係性の無いものように描かれ、これが最終的に関わり合う事になるのか?という興味でぐいぐいと引っ張られてゆくのだ。

文章によりより細かく肉付けされた登場人物たちのキャラクターは映画よりもさらに魅力を増す。マシーンの如き冷徹さを持つニールが垣間見せる弱さ、ハナの苦悩と怒りとその裏腹にある深い人間性。そしてなにより映画では端役だったクリスが本作では堂々たる主役となり、南米ギャングファミリーの中で犯罪プロとしての鋭敏な才覚を余すところなく発揮する様子には惚れ惚れとさせられる。ここで彼が手を染める電子監視技術の闇取引は、世界を股に掛ける規模で展開することになり、南米マフィア同士の熾烈なる抗争も含め、これだけでもう1作別の小説ができあがってもいい程だ。

映画『ヒート』の過去と未来、巻き起こる様々な事件と交錯する登場人物、その果てにクリスとハナを待つものは何か、二人の人生は再び交わる事になるのか?その時、いったい何が起こるのか?因縁が因縁を呼びあらゆるものを巻き込みながら、決定的で圧倒的なクライマックスへと近づいてゆく。それは熱い、どこまでも熱い物語だ。その「熱=ヒート」は冒頭から既にして上昇し沸騰し続け、アクションも感情のほとばしりもどんどん熱くなり、浮かされたような熱気は次第に狂熱と化し、そして遂に壮絶極まりない【運命のラスト】へと導かれてゆくのだ。

狂暴なるアクション、非情極まる血塗れのストーリー、悲しくもまた熱くたぎる男たちのその生き様は映画版を遥かに超え、とことん脳髄が痺れまくる最高の犯罪小説として完成していた。これは壮大なる暴力の叙事詩だ。映画版のファンは迷わず読むべきであり、映画を知らない犯罪小説ファンも映画と併せて是非手に取って欲しい傑作小説だった。