最近読んだコミックあれこれ

ダニッチの怪(1~2)ラヴクラフト傑作集/田辺剛

田辺剛の描くラブクラフト小説コミカライズ版、いよいよ『ダニッチの怪』が登場である。その細部に至るまで丹念に描かれた端麗かつ醜悪なグラフィックは今作においても冴えに冴えわたっており、ラブクラフトの描く「宇宙的恐怖」を余すところなく描き切っているどころか、原作すら凌駕しているのではないかと思わせる凄みに達している。それは既にしてラブクラフトコミカライズにおいて田辺以外考えられない程であり、これは国際的な評価を得るべき作品であり作家ではないかと思う。

物語はなにしろ『ダニッチの怪』だが、荒廃と廃疾と狂気が汚泥のように全編を覆い、おぞましい死と呪われた運命に彩られながら、この世ならざるものの恐怖が腐臭を撒き散らして読む者に迫りくる内容となっている。極めて陰鬱かつ不快な物語であり、じわじわと逃れられない絶望へと誘うその筆致の確かさは、田辺の最高傑作となるやもしれぬ暗い輝きに満ちている。物語はこの2巻でまだ完結しておらず、さらなる悪夢へと続くのであろう続巻の刊行が待たれるばかりである。

カムヤライド(8)/久正人

古代変身土偶ヒーローコミック『カムヤライド』第8巻、最初にいきなり野球なんぞを始めるのでなんだなんだと思ってたらそこから「主人公変身ヒーロー」「ヤマト王家」「天津神」三すくみによる大抗争へと発展していき気分はクライマックスである。それにしても誰も彼もがモダンアート的なコスチュームに変身するものだから、なんかこう生物感に乏しいというかオモチャ同士が戦っているみたいで少々ノリ切れない。

ミラーマン2D(3)/久正人

円谷プロの特撮TVドラマ『ミラーマン』リブートコミック。オレはTV番組の『ミラーマン』はちゃんと観ていなかったのだが、そんなオレでも十分に『ミラーマン』らしさが堪能できて実に楽しい。それは「2次元世界から侵略してくる異形の存在」という世界観が既にして秀逸だからだろうと思う。この2次元/3次元の世界構造の違いを利用した戦いもまたトリッキーで面白く、非常に読ませる作品となっている。

古代戦士ハニワット(10)/武富健治

日本を破壊に導く土偶状の呪術精霊とそれを阻止せんと立ち上がる埴輪状のスーパーヒーローとの戦いを描く伝奇SFコミック第10巻、第2部完結編。例によってあまりに濃いい設定と特異かつ異様な戦闘描写、そしてひたすら熱いグラフィックで、読めば読むほどクセになる。ここまで独自の展開を持ち込んだ作者の熱量に感服である。

アンダーニンジャ(9)/ 花沢健吾

前巻で主人公がアレとなり学校もソレとなってしまうという大波乱を経て、いよいよ全面戦争となったNINとUN。作品開始当初はどういった物語なのかさっぱりわからなかったが、そこはやはり花沢健吾、溜めて溜めていよいよその真価を見せつけてきた。花沢お得意の冷徹極まる殺戮と弛緩し切った展開とのメリハリもいい。だいたい大真面目にチ〇ポ丸出し戦法とかやってるんだよ!?

還暦子育て日記 (1~4)/ 渡辺電機(株)

子育てコミック『父娘ぐらし 55歳独身マンガ家が8歳の娘の父親になる話』が話題となった渡辺電機㈱によるその後の子育て日記。Twitter連載をまとめたもので、内容は冒頭1作のみコミック形式、残りは絵日記の形式になっており、1巻あたり50ページ程度と短いが、100円で購入できるので渡辺一家支援という事でどんどん購入すればいいのである。内容は齢60歳となった作者がガタガタの体で子育てに奮闘するといったものだが、苦労もありながら喜びもあり、なにより渡辺氏が子供たちにしっかりと愛されているのが如実に伝わってくるのがいい。

11人いる!/萩尾望都

宇宙大学の最終試験で宇宙船に乗り込んだ受験生たち。しかし10人と伝えられた受験生はなぜか11人いた!?という萩尾望都の超名作SF中編コミック。随分昔に読んでいたのだが、突然読み返したくなりKindleで購入。しかし今読んでも卓越した設定だな。というかあまりに久しぶりに読んだので「11人目」が誰なのかすっかり忘れていてお得であった。多少古くなった部分を刷新してハリウッドで映画化しないかな。