私が誰であり何であるかということ。/映画『マイスモールランド』

マイスモールランド (監督:川和田恵真 2022年日本・フランス映画)

在日クルド人難民として10年近くも日本で暮らす女子高生サーリャとその家族は突然の難民申請不認定により生活が一変してしまう。在留資格を失い就労も他県への移動も禁止される中、父は不法就労者とみなされ入国管理局に収監、サーリャは残された妹や弟と共に明日をも知れぬ日々を過ごすことになる。映画『マイスモールランド』は難民認定率0.7%という世界でも最低レベルの日本の実情を背景に、その日本でささやかな生活を送る難民家族が不条理な制度により圧し潰されてゆく様を描いた作品である。

主演は雑誌モデル出身で今作が映画初主演となる嵐莉奈。5ヶ国のマルチルーツを持ち今作でもクルド人少女を堂々と演じている。共演に奥平大兼、サヘル・ローズ藤井隆、森脇千鶴。監督はかつて是枝裕和の助監督を務めたこともある川和田恵真でこれが劇場長編作初監督。彼女は英国人とのハーフであり、異なる国の間でアイデンティティを引き裂かれた体験がこの作品を生み出したという。また、映画は多数の在日クルド人の協力のもとで製作された。

物語は日本の難民認定の在り方という社会問題を扱いながら、17歳となる女子高生の困難な青春物語として進んでゆく。気の置けない家族、親しい友人、進学の夢、仄かな想いを寄せるボーイフレンド。それはごく普通の高校生が過ごす毎日のはずだった。それが突如暗転し、厳しい現実が次々と彼女を襲い叩きのめすのだ。次第に暗く重く出口なしの状況になってゆくその描写は観ていて辛くなってくるほどだ。しかし、これは決して目を背けるわけにはいかない日本という国の現実でもあるのだ。

自分とその家族に何が起こってしまったのか、なぜこんなことが起こらなければならないのか。彼女の心に沸き起こる感情は大きな渦となり、それは観る者にも強烈な共感を生み出す。そして同時に日本の難民制度の問題点を考えざるを得なくさせるのだ。国を追われ日本に避難し、その日本で生きることに希望を見出したまだ10代でしかない若者を、日本の制度は冷淡に拒否してしまう。それは果たして人の道に照らした正しい制度だと言えるのか。

タイトル『マイスモールランド』とは、サーリャと彼女の家族との「心の中にある小さな土地」の事だ。それは「私が私であること、私が誰であり何であるかということ」という、決して誰も冒すことのできないぎりぎりのアイデンティティを指し示したものなのだ。なによりも主演を演じた嵐莉奈の素晴らしい魅力と、新人初主演とは思えない恐るべきシリアスさと説得力に満ちた演技が強く心に残る作品だった。さらに主人公サーリャの父・妹・弟役は、全て本当の家族の出演だというのも凄い。