ザ・ウォッチャーズ (監督:イシャナ・ナイト・シャマラン 2024年アメリカ映画)
シャマランの娘イシャナ・ナイト・シャマラン監督の『ザ・ウォッチャーズ』は奥深い森に建つ謎の施設に幽閉され、得体のしれない”何か”に監視されている人々を描くホラー作品である。この設定だけだとなんだかピンとこないのだが、実際観てみるとそこここに技ありの秀作だった。第一印象ではいわゆる不条理ホラーなのだが、物語が進むにつれきちんと謎が説明されてゆく部分に作話に対する誠意とシナリオの練度を感じるのだ。全体を見渡してみるとファンタジーホラーということができるが、この”ファンタジー”部分の説明がなによりいい。強い情感を持つストーリーと美しい撮影、ダコタ・ファニングの説得力ある演技と、素晴らしい完成度を誇る作品だといえるだろう。まさかこんな展開だとは思ってもみなかったし、これでデビュー作だというから感服した。これ1作だけでも父親のシャマラン映画より好きだしある意味超えちゃってるかもしれない。
ライド・オン (監督:ラリー・ヤン 2023年中国映画)
ジャッキー・チェン主演、一線を退いたスタントマンが再び危険なスタントに挑むという物語。ジャッキー・チェン俳優50周年記念主演作ということなんだが、なんだか微妙な出来だったな。「年老いたスタントマンの現場復帰」「愛馬との華麗なるスタント」「その愛馬が抵当として奪われる危機」「疎遠だった娘への信頼を取り戻したい父親の心情」と、テーマを盛り込み過ぎて結果的に物語が散漫になっているのだ。ジャッキー主演とはいえアクションは少なく、娘とのいじましいやり取りが物語の中心となるが、そんなの観たかったわけじゃないんだよな。ただしこれ、アクションスターとして映画界を席巻したジャッキーが、その裏で家族をないがしろにしていたという現実の出来事を基にして、ジャッキーがそのことを家族に向けて平身低頭懺悔し続けている映画なんじゃないかと思えるんだよ。その中で馬はなにかというと覇気に満ちた若き日のジャッキーの象徴であり、それが現在のジャッキーと分裂した姿という事じゃないかな。
マンガー・ブラザーズ(Amazon Prime Video) (監督:マックス・バーバコウ 2024年アメリカ映画)
犯罪から足を洗った男(ジョシュ・ブローリン)が出所したばかりの双子の兄(ピーター・ディンクレイジ)と再会し、デカい山に誘われるが!?というクライムコメディ作品。なにしろピーター・ディンクレイジが主演なんだからディンクレイジ・ファンのオレとしてはもう観るしかないではないか。当然今作でもディンクレイジは安定の小鬼ぶりでオレは大いに満足させられた。そしてジョシュ・ブローリン、最初は単にヌボッとした印象しかなかったのに、段々とチャーミングになってゆくのが心憎い。さらに今作、ブレンダン・”ザ・ホエール”・フレイザーが悪徳警官役で怪気炎を吐いているのがまたまた嬉しい。そんな彼らがドタバタを演じながら、お約束ではあるが「家族の絆」を感じさせてゆく内容は、ネトフリ映画らしい独特のユルさも相まって十分に楽しめるものがあった。
タイムカット(Netflix映画) (監督:ハンナ・マクファーソン 2024年アメリカ映画)
2024年から2003年にタイムスリップしてしまった女子高生が、シリアルキラーに殺される前の元気な姉と対面し、過去を変えることができるかどうか逡巡するという物語。主人公は姉の死後に生まれたという設定なので、過去に戻っても過去の自分と会うことがないという部分に独特さを感じた。全体の作りは『ハロウィン・キラー!』の二番煎じであるばかりか完成度が低く、「未来を変えたくないから姉は救わない」という主人公の煮え切らなさに苛立たされ、にもかかわらず変えられた過去によるタイムパラドックスは完璧に無視されるという体たらくで唖然とさせられる。とはいえこの物語の主眼は2003年から2024年の20年間でファッションや音楽といった風俗がどのように変化したか?を10代20代の視聴者に楽しませることにあったんじゃないかな。そういう機能に特化した作品だと思えばなんとなく理解できないこともない。