他人の夢の中に僕が出てくるって一体全体どういうこと!?/映画『ドリーム・シナリオ』

ドリーム・シナリオ (監督:クリストファー・ボルグリ 2023年アメリカ映画)

ニコラス・ケイジといえばキャリア初期においては文芸作や大作映画に出演しそこそこに注目を浴びたが、その後多額の借金を返済するためなりふり構わずB級映画に出演しまくり、良識ある映画ファンに眉をしかめられた俳優である。しかしその情けなさと無節操ぶりが逆に一部に熱狂的なファンを生み、「ニコケイ」の名で呼び親しまれるようになった。何を隠そうオレもその一人だ。その借金も返し終わり、最近はカルト映画に次々と出演してその独特の存在感をアピールし、今やニコケイといえば知る人ぞ知る名俳優にまで上り詰めたのだから人生不思議なものである。近作では本人役で出演した『マッシブ・タレント』、吸血鬼役の『レンフィールド』での怪演がひたすら素晴らしいので未見の方是非。

そのニコケイがしょぼい大学教授に扮し、ある奇妙な出来事により世間を騒動の渦に巻きこんでしまうというのがこの『ドリーム・シナリオ』だ。奇妙な出来事とは、大勢の人々がある日突然何の理由もなくニコケイ演じる大学教授ポールの夢を見始めるというものだ。一方主人公ポールは何でこんなことが起こったのかさっぱりわからない。ポールの未来には何が待っているのか?共演は『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』のジュリアンヌ・ニコルソン、『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』のマイケル・セラ。監督・脚本に『シック・オブ・マイセルフ』のクリストファー・ボルグリ、『ミッドサマー』のアリ・アスターが製作に名を連ねた。

《STORY》大学教授のポール・マシューズは、ごく普通の生活を送っていた。ある日、何百万人もの夢の中にポールが一斉に現れたことから、彼は一躍有名人となる。メディアからも注目を集め、夢だった本の出版まで持ちかけられて有頂天のポールだったが、ある日を境に夢の中のポールがさまざまな悪事を働くようになり、現実世界のポールまで大炎上してしまう。自分自身は何もしていないのに人気絶頂を迎えたかと思えば、一転して嫌われ者になったポールだったが……。

ドリーム・シナリオ : 作品情報 - 映画.com

最初ポールの夢を見た人が次々と現れ、理由はわからないけど不思議なことだね、とポールは一躍人気者となってしまう。どうにも地味ーでその辺のどこにでも転がってそうなイケテナイおっさんがいきなり注目を浴びてしまうという状況がまず面白くて、張本人のポールも戸惑いつつも若干嬉しさを隠せない。しかしその夢の中のポールが突然凶行をおっぱじめだし、悪夢と化したもんだから夢を見ていた皆さんは掌返しでポールを拒絶しはじめる。持ち上げられたと思ったらいきなり奈落に突き落とされポールさん涙目だけど、そもそも現実世界のポールが悪事を働いたわけでもないのに、これはちょっと理不尽すぎませんかあ!?というある種の不条理ドラマがこの作品だ。

物語はホラーでもサスペンスでもSFでもなく、皮肉な可笑しさはあるけれどコメディというものでもない。じゃあ何かというと「奇妙な味」としか言いようのない変な物語なのだ。こんな作品がきちんと作られ、そして十分に面白いばかりか、結構な評価を得ていること自体がある意味凄くて、最近『シビル・ウォー』でも注目を浴びる製作会社A24の面目躍如といったところだろう。同時に物語の奇妙さだけではなく、主演を演じたニコケイの、いつものあのひたすら怪しい演技と存在感が作品のカラーを決定付けている。この映画の主演はニコケイ以外考えられないし、まさに『ニコケイ映画』と呼びたくなるニコケイ節炸裂の作品なのだ。

物語が象徴するのは毀誉褒貶かまびすしい昨今のネット文化を揶揄したものであるように思えた。ちょっとしたことが切っ掛けとなり、本人の実像とは別の部分でいきなり注目を浴びて人気者になったかと思えば、これまた本人の実像とは全くかけ離れた部分で炎上しまくり、現実を置いてけぼりにしたまま虚像だけが持ち上げられたり叩かれたりといった現象はSNSを眺めていると日常茶飯事だが、これで自分の人生や家族、精神や生命まで危機に曝されてしまうこともあるのだから笑い事ではない。

こんな、ちょっと前なら考えられなかったことが現代では社会問題化しており、このパラノイアックな世界が社会と地続きになり、その攻撃から個人は成すすべもないということの恐怖、それが映画『ドリーム・シナリオ』のテーマなんではないだろうか。映画はクライマックスで息切れしてしまうのが残念だったが、全体的には非常に示唆に富み見どころのある作品だった。

レンフィールド (吹替版)

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