グラディエーターII 英雄を呼ぶ声 (監督:リドリー・スコット 2024年アメリカ・イギリス映画)
ローマ帝国によって国を滅ぼされ、妻を殺され、奴隷となった男が剣闘士(グラディエーター)として死と隣り合わせの戦いに駆り出されるという歴史ドラマ。2000年に公開された映画『グラディエーター』の続編となり、前作と同じくリドリー・スコットによって監督されている。主人公ルシアス役を『aftersun アフターサン』のポール・メスカルが演じ、デンゼル・ワシントン、ペドロ・パスカル、コニー・ニールセンらが共演している。
《STORY》将軍アカシウス率いるローマ帝国軍の侵攻により、愛する妻を殺された男ルシアス。すべてを失い、アカシウスへの復讐を胸に誓う彼は、マクリヌスという謎の男と出会う。ルシアスの心のなかで燃え盛る怒りに目をつけたマクリヌスの導きによって、ルシアスはローマへと赴き、マクリヌスが所有する剣闘士となり、力のみが物を言うコロセウムで待ち受ける戦いへと踏み出していく。
とりあえず十分楽しめたし、同じリドリー・スコット監督作で2023年に公開された歴史スペクタクル大作『ナポレオン』と比べるならよくできていたと思う。映画『ナポレオン』は主人公ナポレオンの何を描きたかったのかはっきりしない凡作だったが、この『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声(以下『G2』)』は物語にしても映像にしても「見世物」としての映画に特化しており、単純で分かり易く映画料金分はきっちり楽しめる作品となっているのだ。逆に言えばそれ以上でもそれ以下でもないのだが、そういう映画なのだと思って観ればいいだけの話だ。
リドリー・スコット監督はキャリアのどこかの段階でいわゆる職人監督、商業監督でしかなくなったように思う。そこそこに話題になり興行収入も稼げて、それなりの評価も得られる作品を撮るけれども、芸術性はすっかり枯渇しているし観ていて心を熱くさせるような深みのある作品にはとんと出会うことがなくなってしまった。上手い商売人だと思うがここ最近に作られた作品はどこか空虚で、可もなく不可もないといったものばかりなのだ。そういった部分でこの『G2』も最近のいつものリドリー作品でしかないのだが、そつのないエンタメ映画の良作である事は間違いなく、そこを批判するのは心ないことだろう。
それにしても実に分かり易く先が予想しやすく「こういうのがいいんでしょ?」と言わんばかりの型通りのシナリオで、本当に描きたいことなんか何もないんだなあと逆に感心させられた。一応前作から引き継いでいる部分もあるのだが、前作はあのまま終わってもよかったし、また前作を観ていなくてもだいたい理解してしまえるという意味では、「必然性はないけれども続編を作るならこんなだよね」程度の物語だ。ローマで剣闘士というならTVドラマ『スパルタカス』という空前絶後の名作が既に存在しているので、何をやっても見劣りしまうのは致し方ないかもしれない。
とはいえ幾つかの見どころはやはりある。まず時のローマ皇帝である双子兄弟カラカラとゲタの、これまた分かり易すぎるぐらいの愚劣さと愚鈍さだ。一見残虐だが滑稽でもあり、見ていて平野耕太漫画に出てくるデフォルメされたブチ切れキャラを思い出してしまい、なんだか笑ってしまった。2次創作キャラとして誰かオモチャにしてくれないかな。そしてなんといってもデンゼル・ワシントンの名演だろう。元老院の陰で暗躍する奴隷商マクリヌス役だが、飄々とした態度の裏に狡猾さを見え隠れさせ、敵なのか味方なのか判然としない怪しげな男を好演していた。今作のもう一人の主人公は彼だと言ってもいいぐらいだろう。なお結構史実と違うことをやっているが、それはそれで面白くできていたから構わないと思う。