最近読んだコミックなどなど

ダニッチの怪(3) ラヴクラフト傑作集/田辺剛

ラヴクラフト作品を素晴らしいクオリティでコミカライズしている田辺剛のラブクラフト傑作集、その新刊は『ダニッチの怪』最終章となる第3巻。前巻までダニッチ村の呪われた家族と彼らの行っていたおぞましい秘儀とが語られ、ミスカトニック大学ネクロノミコンを奪いに来た男が物体X化するという楽しい展開を読むことができたが、この第3巻ではクトゥルー神話の核心ともいえる旧支配者、ヨグ=ソトースがいよいよ登場となる。

まあ知った風に書いているがオレはラブクラフト小説をちゃんと読んだことが無いので、物語の内容はほとんど知らなかったのだけれど、今回の『ダニッチの怪』も凄かったなあ。前半部に登場した呪われた家族のネチネチした厭らしさおぞましさも相当だったが、この3巻で村を破壊に導く「ウェイトリー家の怪物」のグチャドロ具合とバカでかさ、そして宇宙規模で広がるヨグ=ソトースの名状し難き恐怖、クトゥルー神話のエキスがたっぷり詰まった作品だった。

何より今作、他のクトゥルーものが「クトゥルー神と遭遇して慌てふためく人間」を描いているところを、ここではそのクトゥルー神と戦おうとする人間たちが描かれる部分において一味違う物語になっていると思う。今作でも田辺剛のグラフィックは冴えに冴え渡っており、文句のつけようがない。今後もこの調子でクトゥルー作品を描いていってもらいたい。

プロビデンス Act.2/アラン・ムーア (著)、ジェイセン・バロウズ (イラスト)、柳下毅一郎 (訳)

アラン・ムーアによる新解釈クトゥルー・コミック2巻目。この『プロビデンス』では数多あるクトゥルー作品を個別に描くのではなく、個々のクトゥルー物語を融合させそれらが1つの世界で同時進行して起こっているかのように描いている部分が特徴的なのだが、そういった点は画期的だとしてもなにしろお話がつまらなくてなあ……。グラフィックは拙くはないのだが端的に地味で、外連味と言うかショッキングさに乏しく、狂気や恐怖や暗鬱さを感じないのだ。あと1話ごとに挿入される長文の日記文章を読まされるのがあまりにかったるい(しかもコミック内容と被っている)。1巻目と同じように退屈で閉口した。完結編の3巻目は読まんかもなあ。

波よ聞いてくれ(10)/沙村弘明

カルト教団拉致事件の解決編。しかしコメディの筈なのに「カルト教団拉致事件」とか例によって思いっきり不穏な沙村弘明である。カルト教団と大立ち回りを演じた後も熊と対決したり雪山から生還したりと、もはやスーパーヒーロー並みにタフ&ストロングな主人公・鼓田ミナレなんだが、やっぱり人間離れしてるよな。いややっぱりこれはコメディなんかじゃないな、サバイバル漫画だな、うん。

アンダーニンジャ(10)/花沢健吾

冒頭は死刑を言い渡された加藤の最終決戦。しかし「チンコ型肉体装着式兵器」ってなんやねん。後は次のエピソードへの橋渡し的な内容。そして新たに明らかにされる忍者最低階級「汁忍」とその悲惨な処遇。ってか「汁忍」の「汁」って「AVの汁男優」の「汁」って事らしく、例によってアホな話を大真面目なシリアスさで描く『アンダーニンジャ』であった。

アオイホノオ (28)/島本和彦

アオイホノオ』28巻はホノオ君の新たな女性事情で綴られる。まずは前作から登場した謎の少女漫画家との同伴喫茶体験!そしてホノオ君の新アシスタント女子として登場したマウント富士の強烈なキャラクター!ホノオ君の明日はどっちだ!?

雨と君と(5)/二階堂幸

犬(ということになっているタヌキ)と主人公との孤独で物静かな空間が心落ち着く不思議な動物コミック『雨と君と』、5巻目はこのコミックにしては登場人物が多いのだが、そのせいでなんだかテンポが崩れているように思えた。やはりボッチ好きの主人公は他人がいると無理してしまうんだなあ。

還暦子育て日記(5)血戦!オムライス最終戦争の巻/渡辺電機㈱

還暦子育て日記(6)海のギャングを倒せ!の巻/渡辺電機㈱

渡辺電機㈱の子育て絵日記の5巻と6巻です。これまで同様WEB公開されたものをまとめた上に書下ろしのコミックが描かれている。内容はこれまで通り、大ゴマ1個の絵日記連作形式となっており、やんちゃ盛りの3人の子供たちを育てる渡辺父の気苦労がユーモラスに綴られています。全体的なページ数も少ないけれども、100円なので渡辺家の子育て支援も兼ねて購入しましょう。もちろん面白いですよ。

日記漫画 札幌の六畳一間/根本尚

札幌在住の全く名前を聞いたことのない漫画家による日常実録漫画なのだが、最初ガロ的なノスタルジック・エモ漫画かと思ったらさにあらず、怪奇漫画が好きすぎて怪奇漫画家になったが全く売れずに六畳一間で限界貧困生活を続ける作者の『男おいどん』的な自虐コメディ漫画であった。意図的に古臭い絵柄やあからさますぎる貧乏描写、怪奇漫画マニアの蘊蓄大爆発のオタクぶりなど、どこまでもベタベタな内容ながらこれが実に楽しく作者その人自体も好きになってしまった。自分にも同じ血が流れているのを感じたからだ。みっちりと描き込まれた大変情報量の多い漫画でもあり、ギャグのセンスも良く、なんだか売れてほしいなこの人。