古本屋台(2)/Q.B.B. (久住昌之, 久住卓也)
頑固親父が営む古本屋台。一杯百円のお湯割り焼酎と簡単なツマミ、そしてぎっしりと並べられた古本を目当てに集う人たちのマイクロドラマ(1篇が見開き2ページで展開する)。作者は久住昌之・卓也兄弟によるユニットQ.B.B.。古本の屋台といえば風変わりだが、車両による巡回図書館というのがあるからあながちおかしくはない。ただしおでん屋台みたいな赤提灯を下げて一杯だけの限定焼酎を提供し、そこで客同士ほろ酔い加減で読書談義を繰り広げるという設定はやはりとてもフィクショナブル。ひょっとしたら作者がおでん屋台で読書談義をしていて着想を得たのかもしれない。物語は全体的にオヤジの懐古趣味の匂いがする。屋台もそうだが、白波焼酎のお湯割りとか、いかにもオヤジ好みの居酒屋メニューとか、ちょっと渋目のセレクトの古本とか、屋台に集う客同士の気の置けない安心感とか。こういのって実のところ、60過ぎのオレが見てもあまり興味をそそられないオヤジ臭さではある。とはいえこれはそもそも久住昌之のテイストでもあり、その”狙った”オヤジ臭さが面白かったりする。あとやはり本にまつわる物語には文化の香りがある。そして「古本屋台」という有りそうで有り得ない場所を中心としたファンタジーとしてこの物語は機能しているのだと思う。
ヒストリエ(12) / 岩明 均
岩明均の歴史コミック『ヒストリエ』の第12巻がようやく発売されたのである。第11巻の発売が2019年というからなんと5年振り。5年で単行本1冊分の進行となると、いったい完結するのは何時になるのか、もはや諸星大二郎のライフワーク『西遊妖猿伝』とタメを張る「本当に完結すんのかコレ」コミックである。そもそも物語は紀元前4世紀の古代ギリシア世界を舞台に、マケドニア王国のアレクサンドロス大王に仕えた書記官・エウメネスの波乱の生涯を描いたもの。そのアレクサンドロス大王がこの12巻でもまだ少年なのである。とはいえこの12巻、実は『ヒストリエ』史上最も禍々しく血腥い物語展開を迎えており、ひょっとしたらここで大転換をみせるつもりなのやもしれぬ。確かにこれまでも冷徹かつ残虐極まりない展開を見せていたとはいえ、この巻は「歴史が大きく動いた」その瞬間を、非情な視点から描いているのだ。これまで結構淡々とした部分もなきにしもあらずだったので、ここから大きく化けるのか。これはまたもや目が離せない……けど次の巻はいったい何時出るのだ……。
ヴィンランド・サガ(28) / 幸村 誠
『ヴィンランド・サガ』もこの巻で28巻目と大河作になってきているが、前巻で「不戦の誓い」を前面に押し出していた部分にちょっと鼻白んでいたのは確かだ。11世紀初頭のヨーロッパとその周辺が舞台となる物語だが、当時の世界において”非暴力主義的平和主義”なんてものが実際まかり通ることがあったのか、そんなものが有効だったためしがあったのか、と思ってしまうのだ。まあオレは歴史に暗いので実際はあったのかもしれないのだが、その辺どうだったのだろう。ところがなんとこの巻において、その「不戦の誓い」に陰りが差し、それだけではなくもはや「不戦」などと言ってはいられないのっぴきならない状況に至ってしまうのである。そこで主人公トルフィンの苦渋に満ちたジレンマが描かれることになるのだが、そもそも「不戦の誓い」を持ち出したのは、作者がこのジレンマを描きたかったからだと思えば、前巻で「鼻白んだ」オレは見事に欺かれたわけだ。こうしてまた血に染まる殺戮の荒野が描かれることになるが、やはりオレが好きなのはこの殺戮の荒野だな!俺を見ろ!V8を讃えよ!(なんか別のものが混ざってる)