ワケノワカラナイフシギナ物体に満ち溢れたカオスでビザールでモンドなコミック/逆柱 いみり『New! ケキャール社顛末記』

New! ケキャール社顛末記/逆柱 いみり

New! ケキャール社顛末記

日本の漫画界でも稀有の才能を持つ異能の漫画家・イラストレーターである逆柱いみりのコミック『New! ケキャール社顛末記』である。これは1999年に青林堂より出版されたコミック『ケキャール社顛末記』を新たに全編描き直した作品となる。

物語はあるようなないようなものではある。それは「借金取りから逃げるためにインドへ行こうとした一つ目ネコ社長と女秘書が、なぜか温泉行きのお座敷列車に乗り込んでしまい、シャブ中に命を狙われたり、カーチェイスしたり、地球外生命体と戦ったりしながら旅を続けるロードムービー風マンガ(amazonレビューより)」なのである。

しかしこのコミックの本質はそういった物語にあるのではない。このコミックの本質、それはシュールで独特な世界観とそれがとめどもなく奔出したグラフィックにあるのだ。一言で言うならそれは:つげ義春杉浦茂とパチモン円谷怪獣と60年代怪奇SFと熱海秘宝館と乾物屋と土産物屋と水族館と地底商店街と廃墟と廃工場とジャングル奥地の呪術物と中国の妖怪とチベットの神仏が真夏の太陽の下のタフィーのようにとろけ混じり合いながら昭和の日本で遠心分離機にかけられているようなグラフィックの中で一つ目の化け猫とつぶらな瞳の丸眼鏡少女とケダモノのように冷酷な殺し屋が映画マッドマックス(しかも1作目)を彷彿させる凄まじいカーチェイスを繰り広げ最後に怪獣グランドバトルが巻き起こるというビッグバン寸前の超高密度宇宙物質の如きカオスでビザールでモンドなコミックなのだ。

いったい何を言っているのかさっぱりわからないと思うが、ページを開けばアラびっくり、本当にそういった光景が延々と描かれているコミックなのだ。なにしろ一コマ一コマにありったけ投入される「ワケノワカラナイフシギナ物体」のその可笑し味と奇想を、じっくりと眺めまわして楽しむ作品となっているのだ。その一コマ一コマが既にアートであり、グラフィックとして完結しているというのも凄い。それにしても本当によくこれだけ「ワケノワカラナイフシギナ物体」を思いつくものだな、としみじみと感嘆させられてしまう。

というわけでいまこの記事を読んでいるあなたは四の五の言わずにこのコミックを購入し、端から端まで舐めるように読み尽くしながら心の底から驚愕し恐れ慄くといいのである。これはオルタナティヴアートだ。作者逆柱いみりにしか描けない唯一にして無二の地下漫画なのだ。究極にして至高の逸品である。