サイコサスペンスホラー小説『二―ドレス通りの果ての家』を読んだ

二―ドレス通りの果ての家 /カトリオナ・ウォード(著)、中谷友紀子(訳)

ニードレス通りの果ての家

暗い森の家に住む男。過去に囚われた女。レコーダーに吹き込まれた声の主。様々な語りが反響する物語は、秘密が明かされる度にその相貌を変え、恐るべき真相へ至る。巨匠S・キングらが激賞。異常な展開が読者を打ちのめす、英国幻想文学大賞受賞の傑作ホラー

幼い妹ルルが行方不明となり必死の捜索を続ける娘ディーは、暗い森の外れに建つひなびた家に住む男・テッドが犯人ではないかと疑い、何食わぬ顔で近所に越してくる。テッドはその家で、彼の幼い娘と一匹の猫と同居しているらしかった。そして捜索の果てに明らかになる衝撃の事実。アメリカの作家カトリオナ・ウォードによる長編小説『二―ドレス通りの果ての家』は、そんなクライムスリラーの骨子を持ちながら、実は人間心理の暗部を抉るサイコサスペンスホラーとして仕上がっている。

なによりこの小説、心理描写が異様過ぎる。物語は基本的に、登場する者たちの3つの独白でもって成り立つ。一つは妹を探すディー、一つは怪しげな男テッド、なんともう一つはテッドの飼い猫であるオリヴィアの独白だ。まずこのテッドという人物が、最初知恵遅れか年端も行かない子供かと思ってしまったほどに胡乱な男なのだ。その彼が見ている世界の描写は稚拙で曖昧模糊として掴み所が無い。要するに何を言っているのか分からないのだ。ここがまず薄気味悪い。あまりに薄気味悪くて、最初読むのを放り投げてしまったぐらいだ。

猫の独白があるという部分も奇妙な小説だ。そして猫の独白があるにもかかわらず、テッドと暮らしているらしい娘ローレンの独白が描かれない、といった部分もまた奇妙だ。しかもこのローレン、唐突にテッドの独白に登場したかと思うと、どこかに急にいなくなってしまうのだ。いったいローレンという娘は本当に存在するのか?しなかったとしたらいったい何なのか?さらになぜ猫の独白があるのか?

ここでこの小説が「信用できない語り手」で成り立っているのらしいことに感づかされる。この描写の在り方に行方不明の娘ルルが関わっているのではないか、と誰もが推理するだろう。そしてテッドが幼女誘拐犯だと確信するだろう。ところが、驚愕の真実が明らかになるクライマックスで、その全ての予想が覆されることになるのだ。これには唖然とさせられた。

こういった内容の小説なのでこれ以上詳しくは書けないのだが、これが主人公テッドの錯綜し歪みきった「異常心理」の物語である、ということは確かだろう。この物語はサイコサスペンスホラーという事ができるが、ホラーと呼称できるのはなによりその「異常心理」描写の異様さにあるのだ。暗く遣る瀬無い物語であり、読後感は悲しく切ないものだった。英国幻想文学大賞最優秀ホラー長篇賞受賞作。