”生き残った女たち”のその後を描くメタホラー小説『ファイナルガール・サポート・グループ』

ファイナルガール・サポート・グループ / グレイディ・ヘンドリクス (著), 入間眞 (訳)

ファイナルガール・サポート・グループ (竹書房文庫)

”ファイナルガール”とはスラッシャー映画で最後まで生き残った女性主人公のことである。しかし、そうやって生き延びた女たちはその後どのような人生を送ることになるのか?ホラー・サスペンス小説『ファイナルガール・サポート・クラブ』は、スラッシャー映画そのものの殺戮を生き延び、心に大きなトラウマを抱えてカウンセリングに集う6人のファイナルガールたちが、謎の殺人鬼の登場により再び地獄を味わわされるという物語だ。

作者は以前このブログで紹介した『吸血鬼ハンターたちの読書会』のグレイディ・ヘンドリクス。グレイディ・ヘンドリクスはこのほかにもNetflix映画『ベスト・フレンド・エクソシズム』(2022)の原作、ホラー映画『サタニック・パニック』(2021)の脚本を務めるホラーマエストロだ。また、この『ファイナルガール・サポート・クラブ』も シャーリーズ・セロン+アンディ・ムスキエティ監督(『IT イット』)により、HBO MAXドラマシリーズ企画が進行中だという。

《物語》リネット・ターキントンは22年前の大殺戮を生き延びた現実のファイナルガール。 その経験は以後の彼女の生きる日々を決定づけた。 彼女はひとりではない。 想像を絶する殺人事件で生き残った女性のためのサポート・グループに10年以上にわたって参加。 ほかの5人のファイナルガールたちとセラピストとともに、壊されてしまった人生をひとつひとつ組み立て直そうとしている。 ところが、ひとりのメンバーがグループを欠席したとき、リネットの最大の危惧が現実のものとなる――。 グループの存在を知った何者かが彼女たちの人生を破壊しようと決意したのだ。 そして最初の犠牲者が……。 犯人は誰か? 真の目的は? そして〝ファイナルガール〟たちは、生き残ることが出来るのかーー。

まずこの作品が面白いのは、『13日の金曜日』『悪魔のいけにえ』『ハロウィン』『エルム街の悪夢』『悪魔のサンタクロース 惨殺の斧』『スクリーム』といった名作スラッシャー映画のオマージュが満載となっている部分だ。物語に登場する6人のファイナルガールたちが体験したそれぞれの殺戮劇が、この6作のスラッシャー映画の原作となっているという設定なのだ。実際には映画のタイトルこそ変えられているが、スラッシャー映画好きの方ならすぐ元ネタが分かるだろう。すなわちこの小説、「名作スラッシャー映画の物語が現実に起こった世界を舞台にしたメタホラー」ということができるのだ。

物語それ自体もスラッシャー映画のごとき展開を見せる。正体不明で神出鬼没の殺人鬼が血を求めて徘徊し、その行くところには常に死体が溢れ、ファイナルガールたちを追い詰めてゆく。主人公であるリネットも過去に起こった殺戮劇の体験を生かし徹底的な自己防衛策をとるが、それらはことごとく突破され、誰が殺戮者なのか疑心暗鬼となりながら当てのない逃亡劇を展開する。しかし頼るべきファイナルガールの仲間たちの結束は弱く、リネットは孤立無援のまま生き残る方法を探さなければならないのだ。

ただしこの物語、プロットそれ自体もスラッシャー映画を踏襲しているばかりに、スラッシャー映画独特の一貫性を欠いた荒唐無稽さが存在することは否めない。リネットのキャラにしても過去のトラウマはあるにせよ、言動も行動も強度にパラノイアックであり、読んでいて何度かうんざりさせられてしまったのは確かだ。しかも後半に行くほどリネットの行動が行き当たりばったりの支離滅裂さを見せるようになり、そもそもリネットが下手に動いたせいで惨事を生んでしまう展開には呆れさせられた。

とはいえこの作品に『吸血鬼ハンターたちの読書会』と同様のテーマが存在することを見逃してはならないだろう。それは男性社会から疎外され虐げられた女たちを描いていることであり、その女たちが自らを守るため結束する、というテーマである。殺人鬼による大量殺戮という非現実的な事柄ではないにせよ、些細なものであっても男性から肉体的精神的な暴力な体験をする女性は多い筈だ。それはスラッシャー映画の多くで女たちが男性殺人鬼に追い回されるのと同じ構図なのだ。その危機の中で女たちは手を繋ぎ対抗しようとする。そういったテーマがグレイディ・ヘンドリクスの作品には見え隠れするのだ。