イギリスに拠点を置くオンライン・インディーズ・レコード・ショップ【Bleep】は、特にアンダーグラウンド系のエレクトロニカ音源の配信に積極的で、オレも随分前から相当お世話になっているサイトだ。エレクトロニカの情報は殆どこのサイトから得ているといっても過言ではないだろう。
そのBleepが今年の総まとめとして「Top 10 Albums of the Year 2023」を特集した。いずれもBleepらしい非常にクセの強いエレクトロニカ・サウンドばかりで、フロア向けのビッグネームなアーチストなどまるでいない。その代わり紹介されているのはどれも強烈な個性を放つアーチストばかりである。だからこそBleepは信用できるのだ。
ただし知る人ぞ知るマニアックなアーチストばかりなのも確かで、エレクトロニカに興味はあってもどれがどれだか、という方には少々とっつき難くもあるだろう。今回のブログではその「Top 10 Albums of the Year 2023」を、簡単なアルバム紹介を添えてお送りしたいと思う。
No.1: Sus Dog / Clark
常に多彩なEDMサウンドに挑戦し変幻自在な音を操る男Clark、毎回毎回表情の違うアルバムに驚かされるが、そこに彼の貪欲な創作意欲とそれを可能にする高い音楽性を感じさせる。今作ではレディオヘッドのトム・ヨークがエグゼクティブ・プロデューサーを務め、さらに収録曲「Medicine」ではヴォーカル&ベースで参加、全体的にもポップでありながら実験的な側面も見せつける凝ったサウンドでまたまた彼の新たな側面を見せる好アルバムとなっている。
No.2: Phocus / VHS Head
VHS Headの3枚目のアルバムとなる『Phocus』は、VHSテープをカット&ペーストして直感的なエレクトロニカを作るという実験的な手法で製作されている。そのコンセプトは「フィルデ海岸地域で作られた未完のSF映画」のサウンドトラック。ダークでインダストリアル、かつB級SFホラー的なサウンドがじわじわと楽しい。
No.3: Raven / Kelela
R&Bとダンスミュージックを横断する新世代R&Bシンガーとして注目を浴びるケレラ。彼女の2枚目のアルバムとなる『Raven』はクールで甘美なヴォーカルとオルタナティブなサウンドで構成され、エレガンスとフューチャリズム、神々しさと官能性を巧みに融合させた作品として完成している。
No.4: Radical Romantics / Fever Ray
スウェーデンのミュージシャンKarin Dreijerの個人ユニットFever Rayによる3枚目のスタジオアルバム。ナイン・インチ・ネイルズのトレント・レズナーとアッティカス・ロスがアルバム中2曲でプロデュースと演奏を行っている。複雑で不吉なアレンジメントが為されたその音は非常に独創的であり、神経症的で奇怪なポップサウンドが展開する。
No.5: Again / Oneohtrix Point Never
オウテカとエフェックス・ツインのさらにその先を見据える新世代エレクトロニカ、みんな大好きワンオートリックス・ポイント・ネヴァーの10枚目となるスタジオアルバム。美しくもどこか捻じ曲がったメロディ、明るさの中に潜む一筋の狂気、OPNのサウンドは大伽藍のように精緻に構築されながらも、どこか微妙にアンバランスな、じっと聴いていると徐々に不安を呼び覚まされるような要素が存在する。それは人間と機械の境界が曖昧な、不気味の谷のような音楽だからだろうか。
No.6: A Trip To Bolgatanga / African Head Charge
パーカッションの魔術師ボンジョとUKダブの総帥エイドリアン・シャーウッドによる〈On-U Sound〉の伝説的プロジェクト、アフリカン・ヘッド・チャージによる12年振りの最新作。アルバムはボンジョにとって現在の生活拠点であるガーナ北部を巡る音楽の旅を描いたものだ。さまざまなハンドパーカッションや人々が唱和するチャントの歌声と共に、轟くベース音、コンガのリズム、何層にも入り乱れる電子楽器のエフェクト、ブルースの影響を感じさせる木管楽器、ファンキーなオルガンの音などが加わり、オーガニックでプリミティブな情動を呼び覚ます。
No.7: Good Lies / Overmono
ベース/ブレイクビーツ/テクノ・ジャンルを巧みに行き来するUKダンス・シーンの寵児、OvermonoがXL Recordingsより満を持してリリースした注目のデビュー・アルバム。独特のエレクトリック・ヴォーカルとメタルビートの躍る曲の数々はどれもポップでキャッチーでダンサンブル、非常に親しみやすく、一聴して必ず印象に残ることは間違いない。
No.8: Does Spring Hide Its Joy / Kali Malone (featuring Stephen O'Malley & Lucy Railton)
アメリカの作曲家Kali MaloneがStephen O’MalleyとLucy Railtonをフィーチャーしたアルバム。この作品ではKali Maloneが正弦波オシレーター、Stephen O’Malleyがエレクトリックギター、Lucy Railtonがチェロを演奏している。この作品はパイプオルガンの調律、倍音理論、長時間の作曲に対するMaloneの経験が主要な出発点となっており、いわばクラシカルに展開されたドローン音響の如き佇まいを見せる。彼女のその洗練されたミニマリズムは、聴き手の思考に瞑想的な空間を開くだろう。
No.9: Imagine This Is A High Dimensional Space Of All Possibilities / James Holden
シューゲイザーとプログレッシヴ・ハウスを融合させ一躍注目を浴びたイギリスのプロデューサー、ジェームズ・ホールデンによる10年ぶり3枚目となるアルバム。このアルバムは彼が若かりし頃に夢見ていたレイヴ音楽を再現したもので、その音楽文化が世界をより良くするという彼のユートピア的な幻想を表現したものなのだ。ホールデンはこのアルバムを「最もオープンで、シニカルでなく、素直で、ガードの下がったレコード」と表現している。
No.10: Flood City Trax / Nondi_
ペンシルベニア州ジョンズタウンを拠点に活動するプロデューサー、Nondi_のデビューアルバム。Nondi_はフットワーク、ブレイクコア、デトロイト・テクノなどに影響を受けたプロデューサーで、未来の無い貧困の町ジョンズタウンで孤独に生きることの実相を、歪んだ白日夢を見ているようなエレクトロニカで表現する。それは逃避であり救済なのだ。