■猫の目 / メビウス(画)、アレハンドロ・ホドロフスキー(原作)
BD界の神メビウスと、カルトムービーの鬼才ホドロフスキーのタッグ作品は、個人的にはこれまで『アンカル』を読んだことがあるだけだったが、それはメビウスの唯一無二の描線と、ホドロフスキーの神秘主義が合体した稀有壮大なファンタジック・スペースオペラ作品だった。そして今回紹介するこの『猫の目』は、そんな異才二人の初共作なのだという。
メビウスとホドロフスキーの出会いは、ホドロフスキーがかつて手を染め、そして頓挫した伝説のSF映画作品『デューン』の企画からだった(『デューン』はその後デヴィッド・リンチにより映画化されている)。『デューン』企画失敗により、同様にかかわっていたダン・オバノンとH・R・ギーガーはかの傑作『エイリアン』を生み出すこととなったが、メビウスとホドロフスキーは失敗した『デューン』の残り火を、BD『アンカル』を作り出すことで再び燃え立たせようとしていた。その前段階として製作されたのがこの『猫の目』なのだ。
『猫の目』の構成はシンプルかつ独特である。ページ見開きの左に大きな窓から街を見下ろす少年の後姿とその独白を細長いコマで描き、そして右側に少年が見ている街の情景とそこで起こっている「何か」が大きな一枚絵で描かれ、それが最後まで交互に続けられていくのだ。そこで起こっている「何か」についてはここでは触れないが、奇妙な味わいを持つ残酷なファンタジーとだけ述べておこう。
しかしここで描かれる「物語」を把握するだけならページをぺらぺらとめくればものの1分もあれば事足りてしまう。ある意味ホドロフスキーによる序文と訳者あとがきを読むほうが時間が掛かるぐらいだ。しかしこれはそういった「物語」を読むだけの作品ではなく、そこに一枚絵で描かれるメビウスのグラフィックの、卓越した描写力、その緊張感と優美さに満ちた描線の一つ一つ、展開する静と動のドラマ、描き分けられる近景と遠景、そのパースペクティヴ、それら全てを堪能することにより、初めてその真価を理解することが出来る作品なのだ。なぜならそれぞれの一枚絵は、それ自体が非常に高い完成度を持つ独立したグラフィック作品として見ることが出来るからだ。
だからある意味これは「物語もある画集」といった位置付けの作品であり、そういった心積もりで手にすればきっと読むものに素晴らしい体験を与えることだろう。
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