■テクノプリースト / アレハンドロ・ホドロフスキー[作] ゾラン・ジャニエトフ[画] フレッド・ベルトラン[彩色]
高度な科学技術と利益の追求への盲信が宗教と化したテクノ銀河。神殿に仕える巫女パネファの私生児として生まれ、母から疎まれて育ったアルビノは、ゲームクリエイターになり、この荒んだ宇宙に生きる人々に希望を与えるという夢を育む。日々勉学に励む彼は、ある日、仮想世界でテクノの始祖、聖セヴェルド・デ・ロヨザの精神と出会う。それ以来、彼の夢はテクノプリーストとなり、ゲームを通じてテクノ銀河を救うことに変わった…。約束の地へ!科学技術の発展の結果、人間性が失われかけたある世界のエクソダス。ホドロフスキー&メビウス“アンカル・ワールド”の永遠の敵役“テクノ”秘話。
先ごろ『ホドロフスキーのDUNE』が公開され、『リアリティのダンス』の公開も待たれるアレハンドロ・ホドロフスキーが原作を担当したバンドデシネ、それがこの『テクノプリースト』だ。
『テクノプリースト』の物語はかつてホドロフスキーが原作担当した『アンカル』『メタ・バロンの一族』と同様に超未来を舞台にしたスペースオペラだ。その未来世界では科学技術が高度に発達しているものの、全宇宙に散らばる人類はその魂を即物的な快楽によって侵され、人類の最高ヒエラルキーであるテクノ教団が享楽的な"ゲーム"を配信することによって彼らを支配していた。その末法の世に現れた救世主が海賊により蹂躙された巫女が産んだ私生児、アルビノだった。アルビノはテクノプリーストになり、真なる精神性に満ちたゲームを作ることにより銀河を救済しようとしていた。しかしそんなアルビノの前にテクノ教団の仕掛ける様々な障壁が立ちはだかるのだ。
『テクノプリースト』は1998年から2006年まで全8巻で刊行された。グラフィックを「メビウスの精神的な息子」とも呼ばれるゾラン・ジャニエトフし、またその彩色をフレッド・ベルトランがCGを駆使することで、よりSF的なアプローチの作品として完成させている。
物語は以下の8つの章に分かれる。
第1章 テクノ予備校
第2章 ノーホープ感化院
第3章 プラネタ=ゲーム
第4章 処刑人惑星アルカトラズ
第5章 テクノ司教セクト
第6章 テクノ=ヴァティカンの秘密
第7章 完全なるゲーム
第8章 約束の地
『テクノプリースト』の物語はこれまでのホドロフスキー原作バンドデシネと同じく、全宇宙を揺るがすような破壊と暴力とに満ち満ちている。ホドロフスキーの描く宇宙はどこまでも野蛮で残酷だ。そこには血に飢えた蛮族と冷酷な宇宙生物らがはびこり、傲慢な権力者と腐りきったシステムが存在し、異形の神と異形の文明が悪意に満ちた宇宙に散らばるのだ。そしてそれら異様で醜悪な世界を、冷たく遠大な宇宙を、ゾラン・ジャニエトフとフレッド・ベルトランとによる卓越したグラフィックでもって創出しているのだ。
「ゲームにより支配された宇宙」というとどこかP・K・ディックの描くSF作品のような不条理めいた世界を想像するが、この物語がホドロフスキーの自伝的色彩の濃厚な作品であることを考えると、その暗喩されているものが理解しやすい。すなわちこの『テクノプリースト』、物語における"ゲーム"を、"映画"と読み変えると、たちどころに物語の描こうとするものが見えて来るのだ。人々の精神性を高めるためのゲームを作ろうという野心に燃えた青年が戦うのは、宇宙を支配するテクノ教団が製作する即物的で享楽的なゲームだ。これはそのまま革命的で深くスピリチュアルな映画を撮ろうとしたホドロフスキーと、彼を取り巻いていた映画産業の即物的で享楽的な映画製作態度との戦いということができるのだ。
そしてこの物語は同時に、主人公とその彼の家族との、苛烈で残酷な運命とを描いた作品でもある。物語では主人公のテクノ教団との戦いとはまた別に、生みの親である母親と、彼の腹違いの兄弟たちが辿るグロテスクな復讐譚が平行して描かれているのだ。ホドロフスキーの生い立ちやその家族については実は詳しいことを知らないのだが、多くの労苦がホドロフスキーの家族にあったのだろうことはこの物語を読むと想像に難くない(まあ全然関係ないのかもしれないが…)。
そういった部分で、ホドロフスキーの描く華麗でグロテスクな宇宙絵巻と、ホドロフスキーの歩んできた数奇な運命のその両方を味わうことができるという、二重の楽しみがあるのがこの物語ということができるだろう。そして物語は、あたかもホドロフスキー作品である『ホーリーマウンテン』の如く、精神的なものこそが尊ばれる『ホーリープラネット』を探す旅として語られてゆき、ホドロフスキーのスピリチュアルなイメージが炸裂するクライマックスへとひた走ってゆくのだ。
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