■カスタカ / アレハンドロ・ホドロフスキー(作)
銀河の果てフィリドール系の辺境にある惑星マルモラ。後に宇宙最強の殺し屋メタ・バロンの一族を輩出することになる惑星である。人々が慎ましやかながら幸福に暮らすこの地から、ある日、貴重な反重力物質が産出されることが判明し、帝国中の貪欲な輩が殺到することになる。その有事に際し、統治者ベラール・ド・カスタカ男爵は、家族たちに知られざる一族の歴史を語って聞かせる。それは名誉を守るためであれば、自らを犠牲にすることすらいとわない戦士一族の波乱の物語だった。ホドロフスキー&ヒメネス『メタ・バロンの一族』に連なる戦士の血脈。ホドロフスキーの武士道愛が余すところなく吐露された壮大な宇宙叙事詩!
アレハンドロ・ホドロフスキー原作、大宇宙を舞台に殺戮と暴虐に満ちた家族愛を描くBD作品がこの『カスタカ』である。この『カスタカ』は同じホドロフスキー原作のBD『メタ・バロンの一族』の前日譚として描かれた物語でもある。さらに言うと『メタ・バロンの一族』はメビウス+ホドロフスキーによるフランス・コミック界伝説のSF大作『アンカル』に登場する宇宙の殺し屋メタ・バロンの家系を辿るスピン・オフ作品であり、いわば全ては「アンカル・ワールド」のなかの物語ということもできる。
『カスタカ』は大理石の惑星マルモラ(『メタ・バロンの一族』の発端に登場する惑星)を支配するカスタカ男爵が彼の一族に秘められた過去を振り返る形で語られてゆく。そもそもの出来事は銀河辺境の惑星アウール・ラ・ナンから始まった。この惑星を分割割拠するアマクラ族とカスタカ族は中世の如き暮らしをしていたが、互いには憎み合いその抗争は激化していた。遂にアマクラ族の戦士ディヴァダルはカスタカ族の町を強襲、カスタカ族の姫オリエラを強奪の上凌辱し子を孕ませる。ダヤルと名付けられたその子は呪われた運命を背負いながら成長するが、ある日宇宙最大の勢力であるテクノ教団の宇宙艦隊が惑星アウール・ラ・ナンの希少資源を狙い襲い掛かってきたのだ。
『カスタカ』の物語はこれまでのホドロフスキー原作BDと同様にどこまでも血に塗れ夥しい死が登場しあらゆるものが破壊され宇宙の塵へと還ってゆく。その宇宙を支配するのは野蛮と非道のみである。そしてその非道の宇宙において、我々の知るモラルなど一切存在せず、不条理とも言える掟の中で生きる者たちの姿を描くのがこの物語の要と言えるかもしれない。しかしその不条理な掟はどこか日本中世の封建社会をさらに歪めて描いたものにも見える。この『カスタカ』にしても『メタ・バロンの一族』にしても西欧社会からすると一見不可思議な存在である"サムライ"を極度に戯画化した形として登場させているのだ。
それは"日本的な"というよりも、どこまでも"非西欧"的であるということだ。この物語における非道も不条理な掟も、西欧キリスト教社会の論理の側からは全く相容れないものだとしても、これもまたオルタナティヴなひとつの論理の中に成り立っているのは確かなのだ。西欧との対立項にある全く違った論理の中で生きる人々、これが『カスタカ』と『メタ・バロンの一族』の登場人物であり、その差異の異様さがこの物語を際立たせるものとなる。そしてそれは同時に、西欧社会的な視点を超克した物語の面白さでもあるのだ。
『メタ・バロンの一族』の前日譚であるこの『カスタカ』、どちらから先に読んでもいいし、どちらだけを読んでも構わない。しかしホドロフスキー宇宙をとことん堪能したいなら、やはり同じ宇宙残虐史『テクノプリースト』も含め全巻読破は必至だろう。
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