■ちいさこべえ(1) / 原作:山本周五郎 画:望月ミネタロウ
望月ミネタロウはとても好きな漫画家なのだが、3月に出ていたこの『ちいさこべえ(1)』のことはすっかり失念していた(望月先生スイマセン)。書店で見かけて慌てて購入、より純度を増したその作品構成を堪能することができた。
それにしても今回の作品は文学小説家・山本周五郎の中篇が原作だ。原作のタイトルは『ちいさこべ』となっているのだが、読んだことはない。そもそも山本周五郎自体、若い頃からいつか読もう読もうと思いつつ未だに読めていない。だから今作は(原作とはいえ)山本周五郎初体験ということにもなる。
物語の主人公は大工の若棟梁・茂次。彼は物語冒頭で大火事により両親を亡くす。自らの工務店を建て直すため奔走する茂次は、店の手伝いに幼馴染だった若い娘・りつを雇う。そしてこのりつが、先の大火事でやはり焼けてしまった福祉施設の孤児たち5人を、茂次の家で養いたいと言い出すところから物語が始まる。
茂次とりつ、二人の性格設定がいい。意地っ張りの茂次、強情なりつ。自分を曲げないという部分で二人は似たもの同士だが、だからこそ二人はなかなか相容れない(まあ大体茂次が折れるのだが)。将来的にはロマンス要素もあるのだろうけれども、この巻ではそういった甘さはない。この二人のきちっと立ち上がった性格描写が読んでいてとても心地よいのだ。
そして二人を取り巻く人々もどれも個性的だ。なによりも養うことになった5人の子供たちは皆一筋縄ではいかないバラエティを持った性格をしており、なにより全然可愛げがないというのがいい。
こういった人々が織り成すこのドラマのテーマは、義理と人情なのだという。一見古臭いが、望月ミネタロウが山本周五郎のフィルターを通して描く義理と人情というものが、どのような形で描かれてゆくのかがポイントになるのだろう。山本周五郎の原作は時代小説なのらしいが、それをこの現代に移し替えて描いてゆくのも望月の腕の見せ所だろう。
なによりこの物語は、大工の工務店という舞台もあり、古き善き日本映画を観ているような和風な感触が堪らなくいい。これまでアメリカ文化と日本文化が折衷されたような作品を多く生み出し、前作『東京怪童』ではアメリカのインディーズ映画を日本を舞台に再現したような物語を展開していた望月だが、ここで望月は日本に立ち返って物語を描こうとする。それもまた望月の狙いなのだろうが、それが今後どう発展してゆくのかがとても楽しみだ。
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