『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』はロックンロールとロックスターの物語だ!

ウォンカとチョコレート工場のはじまり (監督:ポール・キング 2023年アメリカ映画)

チャーリーとチョコレート工場』の前日譚

映画『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』は「世界一のチョコレートを作りたい!」と願うチョコレート職人ウィリー・ウォンカが、様々な妨害に遭いながら人々に幸福のチョコレートを送り届けようとする様子を描いたファンタジー・ミュージカル作品です。もともとはロアルド・ダールの『チョコレート工場の秘密』を原作に、ティム・バートン監督がジョニー・デップを主演に迎えて製作したダークファンジー映画『チャーリーとチョコレート工場』の前日譚として製作された映画なんですね。

監督・主演は前作と異なります。今作では監督を『パディントン』『パディントン2』のポール・キング、主演を『デューン 砂の惑星』『君の名前で僕を呼んで』のティモシー・シャラメが務めています。作品内容も、ティム・バートン監督らしいダークファンタジーだった前作『チャーリーとチョコレート工場』と打って変わり、カラフルでとても楽しいミュージカルファンタジーとなっているんですね。この違いがどう功を奏しているのかが見所になります。

《物語》「魔法のチョコレート」を作りだす腕を持つチョコ職人のウィリー・ウォンカはチョコレート店を開こうととある港町に降り立つ。しかし町を牛耳る陰険なチョコレート組合から爪弾きに遭い、さらに業突く張りの旅館経営者に監禁されてしまうのだ。おまけにウンパルンパという小人紳士につけまわされ、事態はなおさらややこしいことに。そこでウォンカは旅館に監禁された仲間たちと一計を講じるのだが!?

夢を禁じられた町で夢を見ようとすること

非常に楽しく、美しく、そして美味しそうな映画でした!ウォンカの作り出すチョコはただ美味しいだけのチョコではありません。チョコそれ自体の美しさもさることながら、チョコを食べると、空を飛べたり、愉快で楽しい気持ちになったり、愛する人に告白したくなっちゃうという効果まである「魔法のチョコ」なんですね。「魔法のチョコ」ですから原材料もカカオだけではなく、キリンのお乳やら雪男のなんちゃらやらやらを始めとした世界中の希少なものでできているんです。こういったファンタジー設定、そしてチョコを食べた人たちが浮かれ騒ぎ宙を舞う光景の楽しさ、そこに差し挟まれる歌と踊りのミュージカル、そういった世界の美しいセット、こういったものが映画をとても豊かで素晴らしいものにしています。

しかし物語はただ楽しいだけのものではありません。まず、舞台となる町ではなんと「夢を見る」ことが禁止されているんです。これはこの町には「夢が無い」ということ、そして「悲惨な現実だけを見て生きろ」と言っているようなものなのです。物語にはシェイクスピア作品に登場するシャイロックのごとき冷血な守銭奴汚職が当たり前の警官、そして薄汚い資本家たちが登場し、ウォンカの夢は常に阻まれ続けます。その町は豊かな人々がそぞろ歩く明るい目抜き通りがある一方、貧困に満ちた暗く遣り切れない裏通りが存在する格差社会でもあるんです。

しかし貧しくともユーモアを忘れない市井の人たちがウォンカを助け、ウォンカの夢を実現するために協力するんです。こういった部分からはイギリスの文豪チャールズ・ディケンズの作品を思わすものがあります。そしてウォンカは「夢を禁じられた町」で人々に夢をもたらすために、様々な困難を乗り越えながら「魔法のチョコ」を人々の手に送り届けようと尽力するんです。

「魔法のチョコ」とロックンロール

それにしても「魔法のチョコ」とは何なのでしょう?いろんな見方があるでしょうが、オレはこれ、ロックンロールのことだな、と思ったんですよ。そしてウォンカはそれを生み出すロックスターなんです。ロックスターは素晴らしいロックンロールで人々の心を掴み、その心を湧き立てます。「魔法のチョコ」がマジカルアイテムであるように、音楽はいつだってマジックだからです。しかし保守的でお堅い社会はそれをけしからん!と言って弾圧しようとします。その軋轢の中で、それでもロックし続けようとする主人公の気概、そのロックを愛し支えるファン、それが今作なのではないかと思ったんですね。

とはいえもちろんこれは一つの見方でしかありません。ロックではなくとも、アートでも小説でも映画でもいいんです。素敵な花束を届けること、美味しい料理を作ること、素晴らしい製品を製作しまたサービスを提供し続けることでもいいんです。「魔法のチョコ」のように人々の毎日を楽しく豊かにし、明日を生きる活力にするもの、夢へと繋がるものを手掛けること、それが個々の人々、そしてこの社会の「魔法のチョコ」なのだと思います。映画『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』は、そういった思いのこもった作品なのだと感じました。

映画に登場する多くの俳優がまた楽しかった。神父役にローワン・アトキンソンが登場した時はプッと笑っちゃいました。悪役の実力者マット(ぽっちゃり顔)を演じたプロドノーズはBBCの狂ったコメディ番組『リトル・ブリテン』で異彩を放っていた俳優です。旅館に監禁されていた会計士を演じるジム・カーターは名作ドラマ『ダウントン・アビー』で執事長を演じていた俳優ですね。みんな大好きな俳優です。ウォンカの母親役は『シェイプ・オブ・ウォーター』の主演のサリー・ホーキンスウンパルンパ役はヒュー・グラントです。実はこれらの俳優全てが英国俳優で、これにより物語に実にイイ具合の英国風味を持ち込んでいる部分も素敵でした。

そしてチョコレートを食べまくった!

さて蛇足になりますが、この映画、観ているとチョコレートを食べたくてしょうがなくなるんですよ!映画にチョコレートが出てくるたびに口の中でじわんと唾液が出てきて堪らなかった!だからもう映画を観終わった後、コンビニに直行して山ほどチョコレートを買い漁り、貪るようにして食べ尽くしてしまいました(意地汚い)!

( ↓ 食前)

( ↓ 食後)

ちなみにIMAXで視聴しました。