ルディ・レイ・ムーアのブラックスプロイテーション映画を観ていた

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Rudy Ray Moore
ブラックなスプロイテーションのムービーを観ていた

ルディ・レイ・ムーア、1927年生まれ、2008年没。彼はアメリカのコメディアン・歌手・俳優・映画プロデューサーだった。スタンダップコメディーにおける彼のマシンガントークは後年「ラップの始祖」とまで呼ばれたという。同時に彼は「偉大なブラックスプレイテーション映画のひとつ」、『ドールマイト』を生み出した男でもある。

「ブラックスプレイテーション映画」とは「黒人による黒人に向けた黒人映画」のことだ。言葉は聞いたことはあるが実際の映画にはほとんど触れたことがない(子供の頃に『黒いジャガー』を見た記憶はあるが、内容は全く忘れている)。それはこの「ブラックスプレイテーション映画」が70年代前半という古い時代の非常にニッチなムーブメントだからだ。

そんなルディ・レイ・ムーアと、そしてブラックスプレイテーション映画になぜ興味を持ったかというと、Netflix映画『ルディ・レイ・ムーア』を観たことが切っ掛けとなる。

ルディ・レイ・ムーア (監督:クレイグ・ブリュワー 2019年アメリカ映画)

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1970年代、アメリカ。ルディ・レイ・ムーアは歌って踊れるコメディアンを自認しているものの、現在はレコード店の副店長を務めながらその合間に自身のレコードを売り込んだり、ライブハウスでバンドの司会の仕事をするなど、どうもパッとしない日々を送っている。そんなある日、彼は馴染みのホームレスの与太話を自身のステージのネタにすることを思いつく。

エディ・マーフィウェズリー・スナイプス主演の『ルディ・レイ・ムーア』はルディの伝記映画となる。コメディアンのルディは舞台で下品極まりないネタを連発し人気を誇っていたが、彼の夢は自らの主演する映画を製作することだった。地元の映画学校の学生をたらしこみ、遂に映画製作に乗り出すルディだったが、低予算かつ素人だらけの撮影はいつもドタバタの連続、仕上がった映画の完成度も相当に怪しい。しかし、ようやく公開に漕ぎつけた映画『ドールマイト』は黒人たちによって大人気を持って迎え入れられる。

オレはエディ・マーフィという俳優が結構好きで、それでこの映画を観たのだが、それなりに楽しんだものの、誰にでもお勧めできる傑作というほどのものではないとは思う。しかし、どう見てもチープ極まりない低予算映画をノリとやる気だけで作り上げてゆく出演者たちの熱い映画愛の物語は、どことなく愛すべきZ級映画監督エド・ウッドを彷彿させるものがあった。オレは「で、結局、実際にはどんな映画が出来上がったの?」と興味が湧いてしまった。調べてみると日本でも観ることのできるルディ・レイ・ムーア映画が4本存在し、それを早速レンタルしてみた(TSUTAYAレンタルってマイナー映画が結構あって物凄く重宝する)。

ドールマイト (監督:ダーヴィル・マーティン 1975年 アメリカ映画)

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敵のウィリー・グリーンの策略により無実ながらも投獄中のドールマイト。彼の不在の間、ウィリー・グリーンによって、彼が経営するクラブは奪われ、なじみの女達は娼婦に成り下がり、街にはドラッグがバラまかれ、ひどい状態に陥っていた。彼のパートナー、クイーン・ビーの献身的な援助のお陰で、ロサンゼルスの街に戻れたドールマイトは、FBIのサポートを得て、ウィリー・グリーンの無法を止めるべく、女達を引き連れ、立ち上がるのだった。

輝けるルディ・レイ・ムーア映画第1作。ネトフリ映画では相当貧相な製作現場が描かれていたが、実際の映画を観てみると、これが結構まともな出来で、その「まともさ」にかえってビックリしてしまった。もっとチープ極まりないものだと思っていたのだ。アクションシーンは結構酷くて笑っちゃうが、それ以外の話運びは思ったよりしっかりしていて飽きずに観ていられるのだ。これより酷いメジャー映画はもっと沢山ある。お話は要するに主人公ドールマイトがいかにタフでカッコよくてモテ男かを描くシンプルなものだが、このシンプルさが逆に分かりやすさに通じ功を奏したのだと思う。黒人独特のポジティヴな「俺様振り」って、観ていて結構スカッとするもんなんだよな。全編に渡って流れるファンクミュージックも良いよ。

ヒューマン・トルネード (監督:クリフ・ロックモア 1976年)

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アラバマで保安官の妻を寝取ったことで、追われることになったドールマイト。戻る先は、なじみの女達が待つカリフォルニアだ。しかし、そこでは白人マフィアのカバレッティが幅を利かせていた。女の何人かは誘拐され、盟友クイーン・ビーも脅迫されている。ドールマイトは、得意のカンフーで、失地奪回を目指すが、アラバマの保安官も彼を追ってやってきた。両面の敵を抱え、ドールマイトが暗躍する!

大好評だった『ドールマイト』の続編が登場だ。今作でもドールマイトはタフでパワフル、得意のインチキカラテで次々と敵をブチのめし、美女が現れればフェロモン全開で攻略し、その激しい性豪ぶりは部屋まで破壊する!?物語はあってないようなもの、要するに前作とまるで変わらない最強のモテ男ドールマイトなのだ。2作目ということでまとまりは良くなりまあまあ映画らしくなってはいるが、オレははち切れんばかりの破天荒さに満ちた1作目のほうが好きかな。こちらの作品もノリの良いファンクミュージックが物語を盛り上げまくっている。

ティー・ウィートストロー (監督:クリフ・ロックモア 1977年 アメリカ映画)

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幼い頃に空手を学んでいたピティー・ウィートストローの夢はコメディアンだった。その夢を実現し、クラブにスターとして招かれたが、客を奪われることを心配したそのライバルのクラブに妨害され、殺されてしまう。しかし、悪魔と取引し、不本意ながら悪魔のブサイクな娘と結婚することを条件に生き返る。悪魔に貰った魔法の杖をかざし、得意の空手で、彼は復讐に燃えるのだった。そして悪魔に魂を売った代償は……。

悪魔と契約し死から蘇った主人公が魔法の技を使って復讐に打って出るという物語。いわゆるダークファンタジーということになるがそこはルディさん、コミカルな味付けと無敵状態のアクションでチープながら楽しい物語となっている。例によってインチキ極まりないカラテ技も炸裂するが、そこに悪魔やら魔法やらといろんな要素がゴチャマゼになって殆どカオス。「面白そうなものを詰め込んでみました!」というルディさんの得意げな顔が見えてきそう。でもこのぐらいのユルさで丁度いいんじゃないのか。悪魔との契約から逃れることはできるのか、というクライマックスの展開もなかなか見せる。

ディスコ・ゴッドファーザー (監督:ロバート・ワゴナー 1978年 アメリカ映画)

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警官を引退したタッカー・ウイリアムスは、ディスコのオーナーDJ。いつもフロアをロックして、皆から"ディスコ・ゴッドファーザー"と呼ばれている。そんなある日、彼の甥バッキーが、ドラッグで倒れた。有望なバスケ選手だった彼が、陥ってしまったドラッグは、エンジェル・ダスト。街で猛威を振るっているこのクスリをバラまくドラッグ・ディーラーに対し、ゴッドファーザーは、撲滅の戦いを挑むのだった。

バリバリにダンスの上手いディスコの帝王が主人公なゴキゲンムービーなのかッ!?と思ったらさにあらず。テーマとなるのは黒人社会を蝕むドラッグ禍とその恐ろしさ。ホラー映画のようなダークでグロテスクなフラッシュバック・シーンが頻繁に挿入され、「ドラッグをやるとこんな怖い目に遭いますよ!」としきりに観客に訴える。確かにアゲアゲなディスコダンス・シーンもあるのだが、この賑やかさとドラッグ恐怖シーンが水と油になってしまっていて、娯楽映画として楽しむことは難しい。しかしここまで恐怖を煽らないと観客に訴えることはできないとルディさんは思ったのだろう。そんな当時の逼迫した状況が見え隠れする作品だ。

……さて怒涛の「ルディ・レイ・ムーア巡り」はここらでお終いにし、次にようやく本格的にブラックスプロイテーション映画を観始めたオレである。あれやこれやの名作を観たが、感想はまた次に!