■シャッター・アイランド (監督:マーティン・スコセッシ 2010年アメリカ映画)
■序章〜この映画を観る前に
人の脳は…自分の都合のいいように物事を解釈します。例えばこの2つの写真。
この2つの写真の人物は同一人物です。いやあ、人間の錯覚って怖いですねえ。だからこの映画を観る人は騙されないようにありとあらゆることに注意して画面を観ていてね!…とまあ映画の前に日本の配給サイドが勝手につけた意味ありげで実際何の意味も無い糞つまらねえ映像が流されてからやっと『シャッター・アイランド』本編が始まるんだよ!
■閉ざされた島〜ねじ式 I
ぼくの名は連邦保安官デカプリオ。まさかこんなところに派遣されるとは思わなかった。ぼくはたまたま海に泳ぎに来て、セーシンに難儀を抱える犯罪者ばかりが収容された絶海の孤島シャッター・アイランドに行かされてしまったのだ。人っ子一人出られるはずの無いこの島で、ある女性患者が失踪したというのだ。船から下りたぼくを警備員が出迎えた。波飛沫がぼくの顔に掛かった。ひゃッ、ちめたい。
デカプ「あなたに義侠心というものがあるならぼくを院長に紹介してください」
警備員「院長ですか」
デカプ「そうです院長です」
警備員「なるほどきみの言わんとする意味がだいたい見当が付きました」
デカプ「はあ」
警備員「きみはこう言いたいのでしょう、《医者はどこだ!》」
デカプ「悪質な冗談はやめてください!ぼくは失踪者を探しに来たんですよ!?」
ああ、ぼくの顔はだんだん蒼ざめていくではないですか…。
■失踪人〜ねじ式 II
しかし病院の連中は何かを隠しているらしく、医者も患者たちも口裏を合わせて知らぬ存ぜぬの一点張りで、捜査は一向に進まない。しかし諦めずに聞き込みをするだけだ。
デカプ「おばあさん、かくさないで下さい。この病院にはたしかに手がかりがあるはずです」
おばあさん「どんな手がかりを探しているのかね」
デカプ「行方不明の女の手がかりです。できたら目撃談が絶対必要なのです」
おばあさん「すると自分の子供を三人殺した女の手がかりだね」
デカプ「もしかしたらあなたは知ってて隠しているんですね!ねッじつはそうなんでしょう!」
おばあさん「これには深ーいわけがるのです…シクッシクシクシク」
デカプ「どんなわけです。教えてください」
おばあさん「それはできない相談です…」
デカプ「ではごきげんよう」
おばあさん「達者でなァ」
しかし、失踪者はその後すぐ現れた。やれやれ、ようやく失踪者を見つけることができた。でも考えてみればそれほどシャッター・アイランドをおそれることもなかったんだ。この島なんて真夜中に背中のほうからだんだんと…巨人になっていく恐怖と比べたらどうってことないんだ…。
■悪夢〜やなぎ屋主人
おりしもハリケーンが島を襲い、ぼくはこの島から出ることができなくなった。さらにはぼくが第2次世界大戦に出征した時見てしまったドイツ強制収容所でのユダヤ人虐殺死体や、火事で焼け死んだ妻などが悪夢に現れ、ぼくを怪奇と幻想の世界へと引き摺り込むのだ。いや、もっとずっと以前からそうだったのだ。なにか不吉な重い流れのようなものがぼくの心を駄目な方へ駄目な方へとおし流すようで…。いたたまれなくなっていたのだ。いっそ駄目になってしまえたら…どれほど気がらくかしれないと思っていた。その夜ぼくはいつまでも寝付けないでいた。床の中でじっとしていると「ぼくはいまここにこうしているんだなあ」と変に自分が意識されてならなかったからだ。そしてどことなくみすぼらしく侘しげな部屋にいる自分がなぜかふさわしいように思え…自分は「本当はここにこうしていたのかもしれない」というようなそんな気分になっていた…。
■錯乱〜ゲンセンカン主人
何かがおかしい。何かが間違っている。ハリケーンが去った後、ぼくは凶悪犯の独房棟へ忍び込んだ。この凶悪犯房棟は死んだように静かだな。くずれかかった土壁や腐った格子は昔のままだし…。窓ガラスにぼんやり映っている人影も昔からあのままの形でしみついているような感じさえする。患者だって寿命の短い老人ばかりだ…。だけど不思議だなァ、ぼくはずっと以前からこの病棟を知っていたような、そんな親しみを覚えてならないな…。独房に入っている患者に話をしてみることにした。
デカプ「なぜこんなところにはいってしまったのですか」
患者「きっと前世の因縁でしょう」
デカプ「前世?前世ってなんのことです」
患者「鏡です」
デカプ「あなたはそう信じているのですか」
患者「だって前世がなかったら私たちは生きていけませんがな」
デカプ「なぜ生きていけないのです」
患者「だって前世がなかったら…私たちはまるで」
デカプ「まるで…まるでなんだというのです」
患者「ゆ…幽霊ではありませんか」
■終章〜夜が掴む
夢なのか。現実なのか。何が正しくて、何が間違っているのか。ぼくは偶然ここへ来たのか。それとも呼び寄せられたのか。ここでいったい何が起こったのか。判らない、もう何も判らない。
とうとう一人になってしまった。
じわっ。
開け放された扉から夜が沁み出てくる。
ああ夜だ…。
じわっ。
夜が掴みかかってくる…。
うわーーーーっ
■狂気と妄執に囚われ自滅してゆく男の物語
謎と狂気の渦巻く島、シャッター・アイランド。その全貌を知りたい者は、この映画を観に行くといい。監督スコセッシの手腕は年老いたというより老獪なものになったのだと思うし、物語はオチ云々をどうこう言うよりもその手馴れた職人気質の完成度を楽しめればいいのだ。なにより『タクシー・ドライバー』から一貫して観ることのできる《狂気と妄執に囚われ自滅してゆく男》というスコセッシ映画の大テーマは今回も健在だ。映画はあたかもデヴィッド・リンチを思わせるような美しくもまたおぞましい幻想味を湛え、オレなどは映画全体の重苦しくゴシックな雰囲気からジャン=ジャック・アノー監督の映画『薔薇の名前』を思い出したぐらいだ。スコセッシにこういった映像趣味があったというのは嬉しい発見だったし、逆に、これまでのスコセッシ映画からそういった片鱗をうかがうことができなかった自分の不勉強を補うために、またスコセッシ映画を見直してみたくなる作品でもあった。
なお、今回の文章はつげ義春のコミックからあれこれ台詞を拝借した。是非あわせてつげ漫画も読まれてほしい。スコセッシとは全然関係ないけどな!
■シャッター・アイランド 予告編
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