スコセッシ監督の206分もありやがる映画『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』を観た。

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン (監督:マーティン・スコセッシ 2023年アメリカ映画)

マーティン・スコセッシ監督による2023年公開の話題作である。1920年アメリカを舞台にした石油利権に端を発する先住民族大量殺人事件を描くノンフィクション小説『花殺し月の殺人 インディアン連続怪死事件とFBIの誕生』を原作とし、西部開拓時代のアメリカ白人の非道を抉り出したという部分で、いわゆる修正主義西部劇の側面を持つ作品だ。

スコセッシ監督作品はたいてい話題になるが今作では上映時間が206分もありやがるといった点でも話題となった。スコセッシ、嫌いじゃないけど上映時間3時間半弱、ちょっと劇場で観るのはキツそうだな、と思い配信が来た(AppleTV+)ので配信で観たのだが、家で観ても3時間半はやっぱりキツく、さらに最初の1時間ぐらいが退屈で、観続けるのに難儀した。だがそこを超えるとさすがスコセッシ・マジック、結構引き込まれながら観終わった。観終わるのに5日ぐらいかかったけど。

そもそもスコセッシ、Netflix映画『アイリッシュマン』でも210分と、この『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン(KOTFM)』と変わらぬ長尺の作品を作り上げ、これがまた評判が良かったので味をしめたのだろうと思われる。というかスコセッシは『ウルフ・オブ・ウォールストリート』も『ギャング・オブ・ニューヨーク』も『カジノ』もそれぞれ3時間前後あり、つまりは長丁場でじっくりしつこく攻めてゆくタイプの監督と言うことができる。案外この長丁場自体が監督のリズムなのかもしれない。

長さばかり取り上げているが内容のほうも興味深い。開拓時代のアメリカ白人がクソの中のクソであったという事はとっくに知られていて、先住民族や黒人奴隷への搾取・差別・虐殺はもとより、開拓民としてやってきた東洋人にも相当むごい仕打ちをしていたし、さらに映画『天国の門』でも描かれているような白人から白人への虐殺事件まであって、もう無茶苦茶というか普通に鬼畜だよなあ、というのがとっくにバレバレなんだよな。

だから逆に言えば先住民族暗殺事件と言われても当時のアメリカ白人の鬼畜振りを知っていると感覚がマヒしちゃってあまり驚きがない。ナチの悲惨なホロコースト映画にうんざりする感覚だ。それよりも石油採掘資本で潤った先住民の街、という光景が面白く、もしここで虐殺や排斥が行われず先住民たちの町が発展しアメリカ市民として力を持ち、アメリカに多くの豊かな先住民たちが遍く生活していたら歴史はどうなっていたのだろう、という部分で想像力を刺激されてしまった。誰かこの内容で並行世界SF小説を書いてくれないだろうか。

配役も面白くて、まずディカプリオ演じる主人公アーネストが愚鈍極まりないボンクラ野郎として登場するのが面白い。アーネストは伯父のウィリアム(ロバート・デ・ニーロ)にそそのかされ、金目当てで先住民の女モリーと結婚するが、ウィリアムが手引きした悪党たちによりモリーの一族は次々と殺されてゆく。ここでアーネストはクソボンクラ野郎であるゆえに、ウィリアムの悪だくみにホイホイ乗りながらも自分が悪事を働いていることをよく分かっていない。いや、なんとなく分かっているのだろうが、基本は他人の言いなりになりやすいボーッとしたバカなので、とりあえずなんにも考えてないし、モリーに毒を盛りながらもモリーを愛していると言い切ってしまうことに何の矛盾も感じていない。この「悪意の存在しない悪事の悪辣さ」というのは、「白人以外の人種はみんな豚みたいなもんだから殺していい」ことを自明の真理のごとく行使する当時のアメリカ白人の愚昧な心理そのものなのだろうし、その代表として登場したのが大バカポンチ野郎アーネストなんだろう。

そのアーネストを追い詰める捜査官トムを演じるのがジェシー・プレモンス、という部分がまたまた面白い。このジェシー・プレモンス、そのおそろしく地味なルックスから基本的には胡乱な役柄が多いように見受けられるのだが、この『KOTFM』では敏腕極まりない捜査官役を演じるのだ。男前俳優ディカプリオが大バカ野郎役で、地味顔俳優プレモンスが切れ者役を演じるという、ある種逆転的で皮肉めいた配役の中にスコセッシ監督のこの作品への意図が隠されているような気がしてならない。


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