密輸 1970 (監督リュ・スンワン 2023年韓国映画)

1970年代の韓国の漁港を舞台に、不漁のため貧困に喘ぐ海女たちが、一発逆転を狙って密輸に手を出してしまう!?という韓国映画、それがこの『密輸 1970』だ。しかし彼女らの前には残忍な密輸王、町のチンピラ、狡猾な税関係長が立ちはだかり、やがて熾烈な四つ巴の抗争へと発展する。海女の皆さんはこの困難を乗り越えられるのか!?主演は『国家が破産する日』のキム・ヘス、『箪笥』のヨム・ジョンア。『モガディシュ 脱出までの14日間』のリュ・スンワンが監督を務め、作品は2023年・第44回青龍映画賞で最優秀作品賞など4冠に輝いた。
【STORY】1970年代半ば。韓国の漁村クンチョンでは海が化学工場の廃棄物で汚染され、海女たちは失業の危機に瀕していた。リーダーのジンスクは仲間たちの生活を守るため、海底から密輸品を引きあげる仕事を請け負うことに。しかし作業中に税関の摘発に遭ってジンスクは逮捕され、親友チュンジャだけが現場から逃亡する。2年後、ソウルからクンチョンに戻ってきたチュンジャは、出所したジンスクに新たな密輸の儲け話を持ちかける。密輸王クォン、チンピラのドリ、税関のジャンチュンらさまざまな者たちの思惑が入り乱れるなか、海女たちは人生の再起をかけた大勝負に身を投じる。
海女がどうやって密輸に手を染めるのか?というと、外国航路の船から密輸品を海底に投棄し、それを海女が引き上げて雇い主のチンピラに引き渡す、という方法だ。映画では膨大な水中撮影がなされ、洋上を航行する密輸漁船、海底で作業をする海女の姿だけではなく、時に命を懸けた危険な海中アクション、はたまた人喰い鮫との決死の戦いが描かれることになる。これらのマリン・アクションが否応なく物語の面白さを引き立てゆくのだ。
もう一つの見所は、海女、密輸王、町のチンピラ、税関係長が四つ巴となり、ある時は結託し、ある時は裏切り、ある時は敵対するという、虚々実々の駆け引きが延々と描かれてゆく部分だ。物語ではこの4者の徹底的な化かし合いが描かれ、誰が敵で誰が味方なのか、もつれにもつれた状況が続き、先行きの見えない展開には決して目が離せない。即ちコンゲームとしての面白さがこの作品にあるのだ。
さらにもう一つの見所となるは、1970年代韓国の、レトロでチープでとことん胡散臭いファッションと歌謡曲が、映画を通じて目と耳を愉しませてくれる部分だろう。大金を手にした海女たちのサイケでレトロなファッションにしても、ファンキーでチープな韓国歌謡の選曲にしても、どことなく60年代ブラックスプロイテーションムービーを思わせるこってりと濃いスメルを発していて、独特の作品世界を形作っているのだ。
コンゲーム、タフな女たち、レトロテイスト、チープな選曲といった作品の作りはどこかタランティーノ作品を思わせるものがあり、例えば金塊の詰まったアタッシュケースを開くと中から光が発する場面などは、『パルプ・フィクション』に通じる描写だろう。とはいえオレはなんでもかんでも「タランティーノを思わせる」と馬鹿の一つ覚えみたいに言う人間なので、この辺りの記述はちょっと割り引いて読んだ方がいいかな!?
そしてこの作品の最も重要なポイントは、本来悪人でもなんでもなかった海女たちが、貧困により已むに已まれず犯罪に手を染めてしまったという部分だろう。海洋汚染による不漁が貧困をもたらし、さらに女性という社会的弱者であるばかりに彼女らは虐げられることになる。そんな女たちの、怒りと悲しみと人生一発逆転を賭けた物語がこの作品なのだ。登場する女たちは皆、自らを追い詰めた社会に反旗を翻し、したたかにそして強靭に裏社会と渡り合ってゆくのだ。女たちのこのタフな生き様と決死の思いがこの作品の根幹となるものなのだ。
良質なシナリオと優れた海中撮影、ファッションと音楽との怪しげな世界観で楽しませてくれる作品だが、錯綜する物語は時としてテンポを悪くし、人間ドラマとアクションの繋ぎは多少ドタバタした感があるのは否めない。怪しげな世界観は逆に作品全体の緊張感を削ぎ、ダラダラとして見えてしまう部分も無きにしも非ずだった。とはいえ、海女が主人公のクライムストーリーというこの一点だけでも新鮮極まりない題材であり、その彼女らが奮闘する姿についつい歓声を送りたくなるこの物語、決して悪くはない作品であった。