Disney+の伝奇SFドラマ『七夕の国』がなかなかの良作だった

七夕の国 (Disney+ドラマ) (監督:瀧悠輔、佐野隆英、川井隼人 2024年日本制作)

寄生獣』『ヒストリエ』といった名作・問題作を世に送り出した岩明均が描いたもう一つの傑作コミック『七夕の国』がDisney+でドラマ化されたと聞いたらこれはもう観るしかないではないか。それにしてもDisney+、よくもまあ『七夕の国』なんていう隠れた名作を掘り出してきたものだなあとちょっと感心させられた。

『七夕の国』はその抒情的なタイトルとは裏腹の不気味で破滅的な伝奇SF作品である。戦国時代、丸神と呼ばれる里に攻め入った3000人の兵士が謎の力によって一瞬に壊滅させられる。そして現代。大学生・南丸洋二は不思議な超能力に目覚め、かつて丸神の里であった丸川町では奇妙な祭りが始まるのだ。物語はこうした伝奇SFの側面だけでなく、事件に関わってしまった若者たちの心情を描く青春譚でもあるのだ。

《STORY》パンッ—— ある日、弾けるような乾いた音と共に、 ビルや人が謎の“球体”にまるくエグられた。 日常を突然おそった怪事件。 真相の解明に、物に触れず小さな穴をあけるという役に立たない“超能力”をもつ大学生・南丸洋二(ナン丸)が巻き込まれる。 仲間と共に事件のカギとなる閉鎖的なある町を訪れたナン丸は、彼の超能力がこの町の“丸神家”という一族だけに受け継がれるものだと知る。 そしてそれは、怪事件を起こした“球体”を操る力だった…。

『七夕の国』公式サイト|ディズニープラス

山深い土地にひっそりと存在する丸川町。そこに伝わる不可思議な伝説と住民たちがひた隠しにする秘密の祭祀。「6月の七夕」とは何か、戦国時代その土地に生息していなかったカササギが軍旗の意匠となっているのはなぜなのか。町を取り巻く山々の丸舞台の如き形状は何なのか。町の人々はなぜ同時に悪夢を見るのか。町で失踪した大学教授は何を知ってしまったのか。そして、全てを消し去る「球体」の正体は何か。多くの謎を孕んで物語は進み、それらのピースが一つ一つはまりながら次第に真実が明らかになってゆく展開は非常にスリリングだ。そしてクライマックス、遂に宇宙規模の真実が明らかにされることになる。

不可思議な伝説の残る閉鎖的な町と秘密の祭祀、という伝奇的な要素。物体を消し去る超能力とそれが次第に破壊的な結果をもたらしてゆくというSF的な要素。この二つが見事に融合し、ミステリーを孕みながら進行をしてゆくといった部分が大きな魅力となった作品だ。過去に捕われた町の人々と、未来を夢見ながら生きる都会の大学生といった対比も面白い。しかし、都会の主人公・南丸は、その「過去」に次第に取り込まれてゆくことになる。同時に南丸は「過去に捕われた町」で生きる女性・東丸幸子に心惹かれ、「未来を夢見て生きる事」を共有しようとするのだ。ここには伝奇SFという枠組みから離れた、現代的な青春ストーリーが存在する。

なによりも素晴らしかったのは、南丸洋二役:細田佳央太を始めとする俳優陣の抜群の演技と存在感だ。特に若者たちは誰もがありふれたファーストファッション姿で実に等身大に思えたし、演じ方はさりげない自然体であり、日本にはこんなにいい俳優が沢山いたんだとしみじみと思えてしまった。なにしろ細田佳央太が本当に素晴らしくて、主人公本人としか思えないほどだった。もちろんこれは俳優陣だけでなく、監督らの演出力の賜物であるのは間違いないだろう。これに対しても日本の映像作品でもこんな演出ができることに感心した。

一話ごとに物語は信じられないほどに熾烈さを増してゆく。何者かの放った「球体」による殺人、破壊は規模を増し、遂に「球体」が市街地一つを消し去った場面は大友克洋の『AKIRA』を彷彿させたほどだ。殺戮描写も情け容赦なく、「球体」による肉体破壊は無慈悲でグロテスクだ。こういった思い切りのよい描写も作品のテーマをより明確に提示することになるのだ。ただしクリーチャー化した人物の造形は原作には準じているのだが、作り物臭くてここだけはいただけなかった。とはいえ、後半若干演出に乱れを感じる以外は非常に高いクオリティで製作された作品であり、ひょっとして今年製作されたSFドラマでは最高の部類なのではないかとすら思わされた。