北欧ミステリ『犯罪心理捜査官セバスチャン』を読んだ

犯罪心理捜査官セバスチャン (上・下) / M・ヨート (著), H・ローセンフェルト (著), ヘレンハルメ 美穂 (翻訳)

犯罪心理捜査官セバスチャン 上 (創元推理文庫) 犯罪心理捜査官セバスチャン 下 (創元推理文庫)

殺された少年は以前に通っていた学校でいじめられ、裕福な子どもが通うパルムレーフスカ高校に転校していた。母親、ガールフレンド、友人、校長、担任と、証言を得るうちに次第に浮かび上がり、変化していく少年の姿。一方、相手かまわず喧嘩をふっかける嫌われ者のセバスチャンが加わったことにより、殺人捜査特別班には穏やかならぬ雰囲気が漂っていた。被害者も証人たちも、そして捜査陣もみな、それぞれの秘密をかかえるなか、セバスチャン自身も実はある事情を隠して捜査に加わっていたのだ。

今回読んだ北欧ミステリはスウェーデンの脚本家であり作家コンビであるミカエル・ヨートとハンス・ローセンフェルトによる『犯罪心理捜査官セバスチャン』。

物語は一人の少年の惨殺死体が発見されるところから始まる。彼は心臓をえぐり取られ体中めった突きにされる、という非常に残虐な方法で殺されていた。4人の腕利き刑事とかつてのトッププロファイラー、セバスチャンが捜査に当たるが、このセバスチャン、口が悪く協調性に欠け、おまけにセックス依存症という問題児だった。

事件捜査が少年の通っていた私立学校を中心に展開していくという点がまず目新しい。この学校で被害者の同級生、担当教師、校長が取り調べを受けるが、誰もが一様に何かを隠している。そして被害者の少年もまた「裏の顔」を持っていたことが徐々に浮かび上がってくる。誰もが口をつぐみ、被害者の母親ですらはっきりした証言をせず、捜査は杳として進まない。明らかにされた事実もまた二転三転してゆき、なにもかもが一筋縄に行かない。優等生ばかりが通う名門私立学校で、いったい何が進行していたのか?こういったミステリで読ませてゆく部分がまずは出色である。

しかしこの作品、主人公のみならず登場する刑事たちの私生活についての書き込みが何しろ多すぎる。事件捜査と並行しながら主人公の内面や私生活を掘り下げてゆくのはこういったミステリではよくあることではあるが、さらに刑事4人分の私生活まで事細かく描かれてしまうものだから物語がまるで進行しない。それはいいから捜査の進行はどうなったのかさっさと読ませてよ、とじれったくなってしまうのだ。

しかもこの登場人物たちの「私生活」というのがどれもこれも生臭い。主人公セバスチャンがセックス依存症だというのは、妻と娘を事故で亡くした過去から生まれる孤独感や虚無感を埋め合わすため、というのはまあ理解できなくはないのだけれども、不幸な過去でウジウジしつつ、次は寝た女との関係でグダグダ言うものだから、だんだんとうんざりしてくる。こういったセックス好きの主人公の生臭さから始まり、主人公の同僚たちのセックス絡みの生臭い日常生活が描かれ、なんと事件の核心もまた生臭い内容だったりする。なんだかこの作者コンビ、生臭いものが大好きなようだ。

さらにこの主人公、「犯罪心理捜査官」なる物々しい肩書を持っているから、物語ではどれだけ心理学に基づいたキレのいい推理なり捜査を見せてくれるのか、と期待していたら、それも特にどうってことなく、凡庸な人間ではないにせよ、他の警官が気付いていいようなことを気付くだけの話であり、あんまりパッとしないのだ。あと表紙では細面の顔で描かれているけど本当は軽肥満ということになっているからね。

とはいえ、予断を許さない展開、予想のつかないクライマックスはよく描けており、ミステリとしてはとても出来がいいんだ。ラストがまたびっくりするぐらいいい。だから、主人公や刑事たちの生臭い私生活描写を半分以下に減らしてくれれば傑作に近い作品に仕上がっていたはずなんだ。その辺がちょっと惜しかった。