『ナイル殺人事件』はゴージャスさにうっとりしすぎて殺人などどうでもよくなる映画だった

ナイル殺人事件 (監督:ケネス・ブラナー 2022年アメリカ映画)

オレは小説にしても映画にしても「推理ドラマ」というのが苦手で、なぜかというとそれは「推理」を強要されているような気がしてくるからなんですよ。そもそも「推理」って苦手なんです。ちょっとオツムが弱いから……だなんて口が裂けても言えませんが!?だから「推理ドラマ」を観たり読んだりしていても、絶対推理なんかしてやるもんか、と訳の分からない意固地さを発揮したりするんですよ。メンド臭い人間ですよねえ。

そんな難儀な性格なもんですから、ミステリーの女王アガサ・クリスティの作品は、今まで小説にしても映画化作品にしても接したことがありません。大昔モノクロ作品の『そして誰もいなくなった』を観たぐらいかなあ。しかしそんなオレが今回『ナイル殺人事件』を観ようと思ったのは、ひとえにお美しいガル・ギャドット様のお姿を拝見したかったから、これに尽きます。いやー『ワンダーウーマン』のガル・ギャドット様、素敵だったわあ。

【物語】エジプトのナイル川をめぐる豪華客船の中で、美しき大富豪の娘リネットが何者かに殺害される事件が発生。容疑者は彼女の結婚を祝うために集まった乗客全員だった。名探偵エルキュール・ポアロは“灰色の脳細胞”を働かせて事件の真相に迫っていくが、この事件がこれまで数々の難事件を解決してきたポアロの人生をも大きく変えることになる。

ナイル殺人事件 : 作品情報 - 映画.com

実際観たのは劇場ではなくサブスクでTV画面で観たのですが、これがもう、「劇場で観ておけばよかった!」と後悔してしまうほどでした。なにしろ映像がとってもゴージャスで、このゴージャスさを微に入り細を穿ち映画館のスクリーンでじっくりじっとりと観たかった、ということだったんですよ。なにしろ衣装とセット、ロケーションとなるエジプトの光景がうっとりするほど素敵なんです。

冒頭のパーティー会場やメインの舞台となる豪華客船にはお金持ちたちがこぞって集い、その贅を尽くした衣装や小物のどれもが美しくて魅入ってしまうんですよ。時代設定は第1次世界大戦後あたりなのでしょうが、この頃のファッションに現代的な解釈を加えたいでたちが古風であると同時に新鮮なんですね。主人公ポワロの変な形にセットした髭の形さえゴージャスに見えてしまいます。エジプトとナイル川流域の映像はほとんどCGのような気がしますが、それでも大いに観光気分を味わえます。

物語はどうだったのかというと、これも十分満足できました。古典作品を原作にした推理ドラマらしく、密室!消えた凶器!全員が容疑者!最後は全員1室に集めて犯人特定!と、いわゆる紋切型の展開ではありますが、この古風さが楽しかったりするし、安心して観られる要素ではありますよね。また、殺人事件に関するポワロの質問に対する登場人物たちの、それまであからさまにされなかった人生模様が浮かび上がってくる様は、これはこれで一つの人間ドラマを形成しているのだなと感じさせました。推理作品の事は詳しくないのですが、こういった「事件によって浮かび上がってくる人間模様」がそもそも推理作品の面白さなのだな、とちょっと思わされました。

なにしろ何の予備知識もないまま観たので、「殺されるのはこの人だったの!?」とか「ポワロを演じていたのは監督のケネス・ブラナーだったの!?」とか、無知なりの楽しみ方もできた作品でした。そういやこの作品、同じアガサ・クリスティ原作による2017年公開の映画作品『オリエント急行殺人事件』の続編的な作品でもあったんですね。『オリエント~』も観てみなくちゃなあ。なんでも3作目も予定されているらしく、今度は是非映画館で鑑賞したいです。