マーダー・イン・ザ・ワールドエンド(Disney+/Appleドラマ)(監督:ザル・バトマングリッジ/ブリット・マーリング 2023年アメリカ製作)
ブリット・マーリングといえば映画『アナザー・プラネット』、ドラマ『The OA』で高い評価を得た脚本家・映画プロデューサー・映画監督・女優である。オレも彼女の作品が非常にお気に入りで、特に『アナザー・プラネット』の衝撃度は強かった。その後も彼女の全作品を追いかけ、日本未公開作を輸入盤DVD購入して観ていたほどだ。ブリット・マーリングは様々な作品で製作・脚本・主演をこなしており、彼女こそ映画界の隠れた才人だと言えるだろう。
そのブリット・マーリングが新たに手掛けたドラマ『マーダー・イン・ザ・ワールドエンド』はZ世代のアマチュア探偵で科学技術に精通したハッカー、ダービー・ハートを主人公にしたミステリーシリーズだ。主演はエマ・コリン、クライヴ・オーウェン、ハリス・ディキンソン。物語は億万長者の所有する雪に閉ざされた極北のハイテク別荘で巻き起こる連続殺人事件を、この別荘に招待されていた主人公が解明するというもの。
いわばハイテク+密室殺人ミステリーなのだが、主人公の過去と現在とを往復するストーリーや独特の舞台設定、未来的な小道具やそれを使った殺人方法、世界的な権威を持った者ばかりが集められた登場人物など、ユニークかつ十分に謎めいており、同時にブリット・マーリングらしい一筋縄ではいかないストーリー展開が楽しめるドラマとなっている。
特に主人公ダービーがその過去において、ボーイフレンドと共に連続殺人犯を追い詰めていった、というサイドストーリーが一貫して描かれており、メインとなる密室殺人ミステリーと併せ、二つの物語を同時に観せられることになる、という部分が面白い。この二つの物語において、主人公はルックスも性格もまるで別人のようであり、それはすなわち、この二つの物語の間に横たわる時間経過が主人公の内実をどう変えてしまったのかを描くものであるのだ。むしろこのドラマは、主人公のこの変節にこそテーマがあったのではないかと思わせるほどだ。
全体的な感想としては、独特な設定を完全に使いこなせていない部分や、もっと膨らませて欲しかったエピソードがあり、結末もそれほど意外ではなかったといった部分で、ミステリーとしての満足度は低いかもしれない。とはいえ、主人公自身に強力な魅力があり、その人生の掘り下げ方や寄り添い方が繊細かつエモーショナルで、さらに物語全体に漂う非現実感・非日常感がとても強く、やはりブリット・マーリングならではのカルトな匂いのする作品だと感じた。そういった部分で、総体として非常にわくわくさせられ、十分楽しめた作品であった。