『アクアマン:失われた王国』は様々な古典SFファンタジー作品のパスティーシュに溢れた映画だった

アクアマン:失われた王国 (監督:ジェームズ・ワン 2023年アメリカ映画)

DCEU映画『アクアマン:失われた王国』登場!

海底王国アトランティスの王として5億の海の生物を従え、86ノットで泳ぎ、人間の150倍の力を持つスーパーヒーロー・アクアマン。『アクアマン:失われた王国』はそんな彼を主人公とした2018年公開の映画『アクアマン』の続編作品となります。主演はジェイソン・モモア含め前作とだいたい一緒、監督も前作から引き続きジェームズ・ワンが手掛けています。IMAX3Dで鑑賞しました。

《物語》世界を危機から救ったアクアマンは海底王国アトランティスの王となるが、代わり映えのしない政務に退屈していた。そんなある日、宿敵ブラックマンタが氷床の下で呪われた武器ブラック・トライデントを見つけ出し、世界を崩壊させんと毒牙を剥き始める。ブラックマンタの脅威を止めるにはある男の力を借りなければならない。それは、かつて人類を滅ぼそうとして牢獄に繋がれたアクアマンの弟、オームその人であった。

熱血脳筋ヤンキーヒーロー映画!?

熱血脳筋映画でした。主人公アクアマンは典型的な無敵のパワータイプヒーローであり、いわば海のスーパーマンです。空を駆けるスーパマンと違いアクアマンは海底を駆け、そのシチュエーションの違いによりはっきりとした差別化がされています。その性格は単純明快、ガラッパチで威勢がよく裏表がありません。ギネスビールとチーズバーガーが好物というのもポイントが高いです。ただし脳筋なので面倒臭い事が嫌いで政務なんぞやってられねえと欠伸を噛み殺し、あんまり深く考えない性格なのでインチキ承知で弟脱獄作戦を決行します。

いろんな意味で無敵のアクアマンですが弱点があります。それは家族です。家族を守る事、特に対立した弟の処遇、それらがアクアマンを戦いに駆り出します。ファミリーが第一義とかジェームズ・ワンも監督した『ワイルド・スピード』みたいですが、そういった意味では『アクアマン』は海のヤンキーヒーロー映画と言えるかもしれません(アメリカ映画にヤンキーってどうよ)。

途中地球温暖化やコロナパンデミックを思わす危機が描かれますが、物語の味付けに現代性を盛り込みたかっただけで深く考えてはいけません。多分アクアマン自身が深く考えていません。多分ジェームズ・ワン監督もあんまり考えていないと思います。そもそも熱血脳筋ヤンキーヒーロー映画に時事問題なんか求めてもしょうがないんです。こうして世界の危機を救うことを命題としながら結果的に家族の問題に収束するのは『スター・ウォーズ』の昔からよくある映画モチーフです。要するに別にそれで構わないんです。

様々なSFファンタジー作品のパスティーシュに溢れた映画

MCUヒーロー・ソーとロキの関係性やブラックパンサーにおけるワガンダと世界の関わりを想起させるシーンもありましたが、実はこれに限らず様々な映画のパスティーシュと思しきシーンが多々あり、むしろこれらは監督ジェームズ・ワンの遊びと捉えたほうがいいでしょう。特に今作では本多猪四郎監督による1963年の特撮映画『海底軍艦』、同じく本多監督による1969年の特撮映画『緯度0大作戦』からの影響を如実に感じました。また、「太古に封印された邪悪な存在が復活のアイテムを入手すべく暗い心を持った者を使役する」というプロットは『指輪物語ロード・オブ・ザ・リング)』からでしょう。

これらを含め今作から強く感じたのは映画・小説を含む古典的なSFファンタジー作品への強烈な回帰心ですね。映画に登場する様々な異世界ジュール・ベルヌH・G・ウェルズ、R・E・ハワードらの描いた古典SFファンタジー小説を彷彿させます。「巨大生物の島」や「タコ型ロボット」などはモロにウェルズSF小説へのオマージュですね。

映画に登場する海底世界、地底世界、失われた砂漠の都市、氷に覆われた大地、そして太古に海底に没したアトランティス大陸、それらはかつて謎に満ちた未踏の領域であり現代でも謎の多い場所です。そういった、古典SFファンタジー作品の題材となり得た「不思議と不可思議に満ちた場所」にもう一度注視し、この現代に改めて「謎多きファンタスティックな領域」として描いた部分にこの作品のもう一つの魅力を感じました。

そう、本作の最大の見どころであり魅力となるのは、視覚効果を駆使しまくったこれら世界の驚異に満ちた映像なんです。物語性云々に拘泥されがちな作品ですが、奇妙奇天烈な生物が泳ぎ回り超未来的な科学技術を持つ煌びやかな海底帝国が現出しそこに輝くアーマーを着た戦士たちが立ち現れる、この美しく異様でこれまで見たこともないような映像、これをとことん堪能するのが作品を観る大きな楽しさです。海底というと暗く冷たい印象を持ってしまいがちですが、その海底を明滅するネオンサインのように極彩色の躍る世界として描いたこと、このアプローチの在り方からは1作目から通じてジェームズ・ガン監督の優れた手腕を感じました。

憂愁の美を飾るDCEU最期の作品

配役ではジェイソン・モモアは安定の魅力でしたが、アクアマンの母アトランナ役ニコール・キッドマンがやっぱり一味違う演技でしたね。前作でも「この人はやっぱり違う」と思わされましたが、ほんのちょっとのシーンでも目立っていたもんなあ。それとアクアマンの弟役パトリック・ウィルソン、前作では単に憎々しいだけでしたが、今作では性格の変化もあってかイイ感じでした。ブラックマンタ役のヤーヤ・アブドゥル=マティーンⅡ世も憤怒を秘めた表情がとてもよかった。しかし、ドルフ・ラングレンも出演していたそうなんですが全然分からなかったぞ!?

それにしても今作でDCEUは最期となり、次からはジェームズ・ガンの率いる新生DCユニバースへと様変わりするそうで、どこか憂愁の美を感じましたね。スーパーヒーロー映画の最後によくある「アクアマンは帰ってくる」といったキャプションが無かったのはやはり寂しく感じました。

しかし前作でも思ったんですが、悪役であるブラックマンタって、日本の遮光式土器みたいですよね?

 

おまけに今作のボスキャラとなるコーダックスって、黒田義之監督による1968年公開の妖怪特撮映画、『妖怪大戦争』に出てくる悪役妖怪ダイモンとそっくりなんだよなあ!