地上最速のヒーローを描く映画『ザ・フラッシュ』が最高だった!

ザ・フラッシュ (監督:アンディ・ムスキエティ 2023年アメリカ映画)

オレとDCスーパーヒーロー映画

マーベル・スーパーヒーロー映画とDCスーパーヒーロー映画のどちらが好みか?と問われればオレはDC映画!と即答するだろう。バットマン、スーパーマンワンダーウーマンを主軸とするDC作品はどれも(まあ、だいたい)オレのお気に入りだ。彼らが集結して戦う映画『ジャスティス・リーグ』(当然だがザック・スナイダー・カット)は「DCEU」と呼ばれたDCスーパーヒーロー映画の最高傑作であり、オレも最高に好きな作品である。その『ジャスティス・リーグ』では他にフラッシュ、アクアマン、あとええとサイボーグといったスーパーヒーローが共闘するが、そのフラッシュの単独作品として公開されたのがこの『ザ・フラッシュ』となる。

(ところでいきなり脱線するが、『マン・オブ・スティール』から始まるDCEU=DCエクステンデッド・ユニバースと呼ばれていた路線はザック・スナイダー退出・ジェームズ・ガン参加により今後DCUと呼ばれることになるのらしい。DCEUとかDCUとかそれ以外とか分類がややこしいのだが、とりあえずDCスーパーヒーロー映画としてのノーラン版「ダークナイト」シリーズやマット・リーヴスの『THE BATMANザ・バットマン-』、ハーレイ・クインをメインとする「スーサイド・スクワッド」系列、最近公開された『ブラック・アダム』など、どれもオレの好きな作品だし思い入れのある映画であることは間違いない)(同じようにマーベルのスパイダーマン映画もMCUではないとか、やっぱりややこしい)

フラッシュ降臨!

話を戻してスーパーヒーロー・フラッシュだ。フラッシュはバリー・アレンという青年がある事故により光速を超える超常スピードで移動する能力を持つこととなったメタヒューマンだ。彼は超常スピードに付随する様々な特殊能力を持つが、その一つが光を超えるスピードを利用した時間移動であった。映画『ザ・フラッシュ』は、この時間移動により改変された過去が現在の時間軸に大きな影響を及ぼし、恐るべき事件へと発展してしまうという物語である。

【物語】地上最速のヒーロー、フラッシュことバリー・アレンは、そのスピードで時間をも超越し、幼いころに亡くした母と無実の罪を着せられた父を救おうと、過去にさかのぼって歴史を改変してしまう。そして、バリーと母と父が家族3人で幸せに暮らす世界にたどり着くが、その世界にはスーパーマンワンダーウーマン、アクアマンは存在せず、バットマンは全くの別人になっていた。さらに、かつてスーパーマンが倒したはずのゾッド将軍が大軍を率いて襲来し、地球植民地化を始めたことから、フラッシュは別人のバットマンや女性ヒーローのスーパーガールとともに世界を元に戻し、人々を救おうとするが……。

ザ・フラッシュ : 作品情報 - 映画.com

過去の改変により出現した新たな時間軸、それによりどんどん枝分かれしてゆく未来を描くこの物語は、SFで言う所のパラレルワールド、最近ではMCUで展開するマルチバースを扱ったものだが、MCUマルチバースの「並行する無限の宇宙が存在する世界」そのものを描いたものというよりも、「改変されてしまった世界をどう元の鞘に収めるか」に焦点を当てた物語ということになるだろう。だから並行宇宙が山ほど出現して収拾のつかなくなってきたMCU作品と比べるなら物語のポイントがストレートで分かりやすく、さらに「改変された時間軸はある時点で元に戻せない」といった設定を持ち込むことによって、よりドラマチックな展開を迎えることになるのだ。

この物語の大枠はコミック版フラッシュの『フラッシュポイント』という作品が元となっているのだろう。このコミックも素晴らしい作品なので興味の湧いた方は手にとってもらうといい(ただし現在入手困難)。

圧倒的なスピード感!でも本人はちょっとドン臭い!

映画は冒頭から相当にかっ飛ばしていて(なにしろフラッシュだし)実に小気味いい!悪党を追うフラッシュが超絶スピードで駆けるシーンは当然と言えば当然だが凄まじいスピード感に溢れ、その特殊効果はサイケデリックかつドラッギーで、『2001年宇宙の旅』のスターゲイト・シーンを彷彿させるほどだ。フラッシュの活躍するシーンでは世界そのものがスローモーションで描かれることになり、これがまたトリップ的な映像となって脳内に変な汁が湧いてきそうになるぐらい快感を覚えさせる。この時点で『ザ・フラッシュ』がいかに素晴らしいヴィジュアルに満ちた作品なのかを圧倒的に認識させてくれるのだ。この素晴らしい冒頭にベン・アフレック演ずるところのバットマンが加勢しその剛力をとことん見せつけ、さらに盛り上げてくれるのだから堪らない。要するにこの映画、冒頭で既に勝っている。

とはいえ、いざヒーローとして活躍する時は超高速で移動するフラッシュだが、素のバリー・アレンの時は鈍臭くてグズグズしまくっているという対比が実に面白い。もっと面白いのはバリー・アレンのキャラで、『ジャスティス・リーグ』の時もコミックリリーフ的な役割だったが、なにしろぺらぺらよく喋る上に(素の時は口だけが高速!)思考があっちこっちに飛ぶ多動型でそこそこドジを踏み、こんなキャラが観ていて楽しくてしょうがない。時間改変後はあれこれあって近過去に辿り着いてしまい、ここで18歳のバリー・アレンと対面し「二人バリー・アレン」として物語が続くが、一人でもガチャガチャと煩いバリーが二人になるのだからもう掛け合い漫才としか言いようがなく、煩さ2倍、愉しさ3倍となるのだ。年齢が違う分性格も微妙に違うのだが、これを演じ分けたエズラ・ミラーの才覚はずば抜けたものがあった(現実のエズラ・ミラーはあれこれ問題を起こしていたが、既に本人も反省しているし、作品と俳優は分けて考えるべきだ)。

改変された世界の改変されたスーパーヒーロー!

そして改変された世界に『マン・オブ・スティール』における最凶のヴィラン、ゾッド将軍が登場し地球を破滅に導こうとするが、「二人バリー・アレン」がまず頼ったのはバットマン!だが改変された世界にいたの元の世界とは別のバットマンだった!?そしてこれがザック・スナイダー版のベン・アフレックバットマンではなく、ティム・バートン版のマイケル・キートンバットマンだったのだ!そしてこのマイケル・キートンバットマンが想像以上に素晴らしかった!ある意味バートン版の時よりカッコいいぐらいだったよ。実はオレ、バートン版の時のキートンってでくの坊に見えてあまり好きじゃなかったんだが、この『ザ・フラッシュ』におけるキートンは老成した魅力も加味されたのか実に味わい深いんだ。

ただ、バートン版のバットマンはコスチュームが硬くて首が動かなかったらしく、それででくの坊に見えちゃったみたいなんだよな。だからキートン役不足だったという訳では全く無くて、ここにきてやっと真価を発揮したという所だろうか。映画ではバートン版の世界から数十年経ち老人となったブルース・ウェインバットマンとして登場するが、「老体に鞭打つバットマン」というのはコミックでも存在するのでその一端が観られたのも嬉しい。そしてこの「老体に鞭打つバットマン」がまたいぶし銀の魅力なんだよ!

改変された世界ではスーパーマンもまた改変されていた!?詳しい経緯は省くがこの世界ではスーパーガールが存在しているのだ。このスーパーガールがそのキャラクターやコスチュームも含めて新鮮で、物語を十分に盛り上げている。演じるサッシャ・カジェがまたゴスい雰囲気の女優さんでこれまた魅力的なんだが、そもそも「ゴスいスーパーガール」って時点で勝利だよな!ただ上映時間の時間配分的にあまりキャラが掘り下げられていなくてそこがちょっと残念だったな。あともう10分スーパーガール用の時間が欲しかった!このスーパーガールでもう一本映画作って欲しいぐらいだったなあ。

他にもあのスーパーヒーローやこのスーパーヒーローはどうなってるの?というのは観てのお楽しみという事で。

根底にあるエモーショナルな物語性

今作に通底するのは母子の愛だ。バリー・アレンが幼い頃何者かによって殺された母親の命を、時間を巻き戻して救い出そうとしたことが物語の切っ掛けとなっているのだ。それは既に亡くしてしまった母ともう一度対面する事も意味している。ここでバリーが母親をいかに愛していたのかを描くのと同時に、その母がいかにバリーを愛していたのかも描かれることになる。兎角ヒーローストーリーというのは肉親の死を大きな切っ掛けとして描く。バットマンにおける殺された両親、スパイダーマンにおける伯父の死、スーパーマンにおいては肉親の死のみならず自らの住む惑星の死が切っ掛けとも言える。だからありがちと言ってしまえばそれまでなのだけれども、この『ザ・フラッシュ』ではその母の死を帳消しにしようとする部分により一層切ない展開が持ち込まれるのだ。

こういった部分にとてもエモーショナルな物語性を見て取ることができる。そしてこのエモーショナルさはアンディ・ムスキエティ監督が『ザ・フラッシュ』の前に撮ったホラー作品『IT』シリーズと同様の感触を感じるのだ。映画『IT』はそのホラー描写以前に、友情、兄弟愛、それらが伴う郷愁といった、実にエモーショナルな描写と物語性が加味されていたからこそ、あれほどまでに評価の高い作品として作り上げることができたのだと思う。それがホラーであろうとスーパーヒーロー作品であろうと滲み出てしまうこのエモーショナルさこそがムスキエティ監督の持ち味であり、『ザ・フラッシュ』を素晴らしい作品として完成させたその根底となるものなのだ。

それとクライマックスではここでは書けないとんでもないDCネタがてんこ盛りになっているから、ネタバレ嫌いな人はとっとと観に行くといいんだ!いやーアレはマジ腰抜かしたわ!