ジャスティス・リーグ 地獄篇/『バットマン/ダークナイト:マスター・レイス』

バットマンダークナイト:マスター・レイス (フランク・ミラーブライアン・アザレロ、アンディ・キューバート)

バットマン/ダークナイト:マスター・レイス (ShoPro Books)

1986年、『ダークナイト・リターンズ』は、アメリカンコミックに後戻りができないほどの衝撃を与えた。2001年、『ダークナイト・ストライクス・アゲイン』によって、バットマンは未来へと受け継がれるキャラクターになった。そして、生きる伝説フランク・ミラーブライアン・アザレロは、本作『バットマン/ダークナイト:マスターレイス』によって、バットマンを現代の神話として再構築した。現代アメコミの礎となる古典的大傑作が、ついに邦訳化!

 瀕死のバットマン。血塗れのスーパーマン。殺戮の炎を瞳に宿すワンダーウーマンフランク・ミラー原作によるグラフィック・ノヴェルバットマンダークナイト:マスター・レイス』は、あたかも『ジャスティス・リーグ 地獄篇』とでも呼びたくなるような、凄惨極まりないヒーローたちの戦いを描く作品である。

ところでこの作品はバットマン:ダークナイト・リターンズ』『バットマン:ダークナイト・ストライクス・アゲイン』の続編として描かれたものだ。この2作をまとめたものは『DARK KNIGHT バットマン:ダークナイトというタイトルで日本でも出版されている。『マスター・レイス』との物語的連続性は無いが、時系列での連続があるため、登場人物たちの背景を知らないと若干戸惑うと思えるので、『マスター・レイス』までのあらましを簡単に説明しておきたい。

  • まず、ブルース・ウェインは58歳の老齢を迎え、本人は死を偽装し、バットマンとして闇に潜伏している。しかしその年齢ゆえ戦いに限界を感じてきている。
  • 執事アルフレッドは脳卒中で亡くなっており、ゴードン警察本部長は引退、物語に登場しない。さらにジョーカーまでもが死んでいる。バットケイブは破壊された。
  • バットマンは警察と対立し、政府はバットマン討伐のためスーパーマンを送り込み、二人は激しい戦いを展開する。しかし最終的に二人は和解する。
  • 13歳の少女キャリー・ケリーはバットマンに拾われ、ロビンとして活躍する。彼女は後にバットガールとしてバットマンを助ける。
  • スーパーマンワンダーウーマンは結ばれており、ラーラという名の娘がいる。しかしラーラは人類を救う事に興味がない。
  • ザ・フラッシュ、グリーンランタンがバットマンと共闘する。さらにアトムという名の自らの大きさを自在に操るスーパーヒーローも参加する。

 このように、従来的な「バットマン」の世界観が消滅し、そのバットマンすら既に戦うことの困難を感じてきている、という部分からこの『マスターレイス』の物語は始まることになる。

そして『マスターレイス』においてバットマンが対峙しなければならない敵は生き残りクリプトン人による狂ったカルト集団である。彼らは地球人類を服従させるため世界各都市に攻撃を仕掛ける。スーパーマンと同等の能力を持つ者たちが集団となり怒れる神の如く暴虐の嵐を吹き荒らすのだ。

バットマン、スーパーマンとその仲間たちは必死の抵抗を試みるが、熾烈極まりない戦いの果てに、彼らは一人また一人と力尽き倒れてゆく。バットマンにこの絶望的な状況を打ち破る術はあるのか?というのが『マスターレイス』の物語である。

見所となるのはやはり老体に鞭打ちボロボロになりながらも戦いを止めないバットマンの悲壮さ、そのバットマンに手を差し伸べ自らも血塗れになりながら共闘を続けるスーパーマンの熱い友情、そしてアマゾネス軍団を率いてクリプトン人カルト集団殲滅に乗り出すワンダーウーマンの鬼神の如き戦いぶりだろう。さらにシリーズ初登場となるアクアマンの苦み走った男っぷりの良さには思わず歓声が漏れる事だろう。

それだけではない。非力でしかなかったバットガールが満身創痍になりながらバットマンを庇い、これまた熱い師弟愛を見せつける。ただ一人、スーパーガールであるラーラのみが彼らを裏切りクリプトン人側に付いて母であるワンダーウーマンと運命の対決を繰り広げることになるのだ。この二人の親子の溝に解決は見いだせるのか、という部分にも物語の醍醐味がある。物語はひたすらシリアスであり過酷であり、まさに「暗黒の騎士」の物語に相応しい作品なのだ。

スーパーヒーロー軍団対クリプトン人カルト集団の戦いはあたかも神々同士の戦いの様相を呈し、それはまるで黙示録の世界が地上に降りてきたかのようだ。ここで描かれるのはお互いの絶滅と生存を賭けたジェノサイドの応酬であり世界最終戦争である。単なるスーパーヒーロー作品の枠組みを大きく超えた凄惨かつ驚嘆に満ちたドラマがここにはある。同時に、これこそが今生み出されるべきスーパーヒーロー作品の姿だ、とも思えるのだ。もしも映画『ジャスティス・リーグ』シリーズの最終話が製作される日が来たとしたら、この『マスターレイス』こそを原作にして欲しい。

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DARK KNIGHT バットマン:ダークナイト(ケース付) (SHO-PRO BOOKS)

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