『森脇真末味セレクション 死神』と『総特集 森脇真末味』を読んだ

森脇真末味セレクション 死神  総特集 森脇真末味 ― Cool Boys,Tough Girls ―

”少女漫画家”森脇真末味

高校生だった頃、オレの周りの漫画好きな友人の間では「少女漫画」を読むのが一つの必須項目だった。少年漫画だけでなく少女漫画も読むというのは、重要な「オタク教養」だったのだ。正直、大島弓子萩尾望都山岸涼子竹宮恵子といった大御所の諸作品は、「少年・少女」という括りに囚われない、素晴らしい漫画作品でありエンターティンメント作品であり、同時に高い文学性を備えた超絶的な名作がひしめいていた。

先に挙げた少女漫画家たちよりも若い世代となるが、森脇真末味も重要な少女漫画家の一人だった。特に彼女の初期の代表作である『緑茶夢(グリーンティードリーム)』、そして『おんなのこ物語』は、ロックミュージックの好きだったオレやオレの友人たちにとって、最高の「ロック漫画」だった。美形や美少年こそ登場するが、全体的に武骨で、現代的で、文学的な人間ドラマがそこにあった。

その後森脇は、数々の優れた掌編と、最高傑作となるであろう連作長編『Blue Moon』を発表するが、2000年を前後して発表作は徐々に少なくなり、最近では特に新作の発表なども聞かなくなっていた。

そんな折、森脇の新しい単行本の発売があると知り、いちファンとして色めきだったのは言うまでもない。一つは後期の短篇を集めた『森脇真末味セレクション 死神』、そして森脇への3万字インタビューを始めとした特集本『総特集 森脇真末味』だ。

森脇真末味セレクション 死神

漫画作品5編と小説1編を収録した作品集である。1994年から2006年と、比較的キャリア後期の作品で構成されている。漫画作品は既刊単行本に収録されているが、オレにとっては未読(あるいは記憶から抜けていた)作品が多く、新鮮な気持ちで読み進めることができた。では収録作品を紹介。

「死神」は、母子家庭からさらに母親が失踪した少年を主人公とするミステリーだ。義父がキーパーソンとして登場し、森脇作品に顕著なテーマである「孤独な少年の疑似家族」を描いている。

「錆色ロボット」は、格差が拡大した未来社会とロボットを題材としたSF作品だが、根底にあるのはやるせない愛の物語だ。

「天使の顔写真」は、愛する父を失った過去を持ち、現在は打算的な生活を送る青年が「天使」と出会うファンタジーだ。森脇作品では孤児となった少年の孤独が頻繁に扱われるが、それは「孤独」こそが作者の根幹をなすテーマだからだろう。

「みりんでGO!」は単行本のオマケ漫画として描かれた軽いタッチのコメディだが、ここでも「打算的に生きることの悲哀」が描かれており、これは「孤独」と並ぶ森脇作品のもう一つの重要なテーマだと感じる。

「ユージーン」は、才能豊かな酷薄な男ユージーンと、彼に仕える生真面目なエージェントとの愛憎劇だ。衝突する性格が織りなす波乱のドラマは『おんなのこ物語』にも通じ、いかにも森脇氏らしいモチーフと言える。

唯一の小説作品「レンタルボーイ」は、「小説JUNE」に掲載された作者初のBL小説(単行本未収録)である。ジャンルの好みはさておき、ここでもまた「孤独な少年」と「酷薄な相手との愛憎」という森脇作品の主要テーマが繰り返されている点は興味深い。

総特集 森脇真末味

同人誌時代からプロ漫画家としての現在に至るまで、森脇氏の約半世紀にわたるキャリアを総括した総特集本である。なかでも、3万字に及ぶ語り下ろしの新規インタビューが最大の目玉と言える。

インタビューでは、漫画家を志した経緯、デビュー、出版業界での出会い、個々の作品にまつわる思い出にとどまらず、その生い立ちにまで遡って語られており、森脇という創作者の人物像に肉薄できる貴重な内容となっている。

創作者の人生や性格が作品に直接反映されるわけではないが、この詳細な語り口は作品を深く理解するための一助となる。また、「このような作品を生み出したのはどのような人物か」というファン心理を満たすものでもある。

特に驚きをもって受け止められるのは、森脇氏が眼病を繰り返し患い手術を重ねていたという事実だ。この視力悪化が、キャリア後期における作品量の低下に繋がった一因であるらしい。

総じて、森脇氏は、おっとりとした楽天家でありながら、現実的な自己評価を下す冷静さも兼ね備えている人物だという印象を受ける。人間関係にも恵まれ、仕事においては自己の意志を貫く強さを持っている。これらの人間性が、個別のストーリーではなく、作品全体を貫く思想や視点として深く関わっているのではないかと感じられた。