イギリスの作家M・W・クレイヴンによるミステリー小説「ワシントン・ポー」シリーズ
スティーグ・ラーソンの『ミレニアム』三部作を読み終え、「何か他にも良質なミステリ小説はないか?」と探していたところ、私のアンテナに引っかかったのが、イギリスの作家M・W・クレイヴンによる「ワシントン・ポー」シリーズだ。
主人公のワシントン・ポーは、国家犯罪対策庁(NCA)の刑事である。年齢ははっきりしないが、割といい歳のベテランらしく、頑固、偏屈、協調性皆無、人嫌い・組織嫌いという一匹狼的な性格のため、すぐに孤立して敵を作りやすい。しかし、その半面、頭脳明晰で、猪突猛進型の熱血的な正義漢であり、愛犬家という一面も持っている。こういった孤高の刑事キャラはミステリ小説には割といるが、ポーの場合、「タヌキ親父」という側面も兼ね備えているのが特徴だ。こっそりルールを破りながらも、ちゃっかり捜査を進め、とぼけていることが多々あるのである。
そして、忘れてはいけないのが、ポーの相棒、天才的な分析官ティリー・ブラッドショーだ。彼女はイギリスで一、二を争うIQの持ち主とされており、ITを駆使した分析力でポーを助け、事件の真相へと迫る重要な役割を果たす。ところが彼女は、コミュニケーション能力に難があり、社会常識に欠け、子供並みの対人スキルしかない天才オタク女子でもあるのだ。
こんな凸凹コンビの二人だが、ポーの直感的な捜査方法と、ティリーの論理的で天才的な分析能力が互いを補完し、事件解決に不可欠な協力関係を築いている。このポーとティリーのキャラクターと関係性は、『ミレニアム』シリーズにおけるミカエルとリスベットを連想させるものがあるが、『ミレニアム』と違い、二人の間にロマンス的な要素はなく、固い友情で結ばれた相棒関係、というのが最もふさわしい表現だろう。
また、このシリーズは、どんなに陰惨な事件が進行していても、どこかとぼけたようなユーモアが存在している。それはポーの性格に起因する部分が大きいが、その絶妙なユーモアが、このシリーズを愛すべきものとしている大きな要因だ。
そしてもう一つの魅力は、常に舞台となるイギリス・カンブリア州の荒々しくも美しい自然の光景だ。広々とした牧草地に羊が草をはみ、湖水や山々が広がる風景、そして刻一刻と変わってゆく荒々しい天候は、物語にエモーショナルな深みを与えている。ポー自身も、この荒々しい自然の中に佇む一軒家で、愛犬とともに暮らしているのだ。
さてそのワシントン・ポー・シリーズ、現在6作まで邦訳されているのだが、1作目『ストーンサークルの殺人』を読んだらあまりの面白さにハマってしまい、
そのあと一気呵成に6作全部読んでしまった!
というわけで今日はその中から第1作『ストーンサークルの殺人』と第2作『ブラックサマーの殺人』を紹介する。
ストーンサークルの殺人 / M・W・クレイヴン (著), 東野 さやか (翻訳)
イギリス、カンブリア州のストーンサークルで次々と焼死体が発見された。マスコミに「イモレーション・マン」と名付けられた犯人は死体を猟奇的に損壊しており、三番目の被害者にはなぜか、不祥事を起こして停職中のNCA(国家犯罪対策庁)の警察官「ワシントン・ポー」の名前と「5」の字が刻み付けられていた。身に覚えのないポーは上司の判断で停職を解かれ、捜査に合流することに。そして新たな死体が発見され……英国推理作家協会賞最優秀長篇賞ゴールドダガー受賞作。
ワシントン・ポー・シリーズの記念すべき第1作は、「イギリス、カンブリア州のストーンサークルで次々と焼死体が発見される」という猟奇的な事件が発端となる。事件も事件だが、カンブリア州は捜査の手が回らないほどストーンサークルが多い、という事実にもちょっとびっくりさせられる。そして登場する我らがポーは、既に難儀な問題を抱えていて停職中という、ややこしい状況にあるのがまた悩ましい。さらに天才オタク捜査官ティリーの登場で、物語はドタバタと楽しく展開するのだ(猟奇事件だけど)。連続殺人事件はさらなる恐ろしい過去の事件と繋がり、暗黒の深淵を垣間見せるといった点でも凄味のある作品だ。その渦中でタヌキ親父警官ポーは蒸気機関車のように邁進し事件解決を目指すのだ。
ブラックサマーの殺人 / M・W・クレイヴン (著), 東野 さやか (翻訳)
かつて刑事ポーによって一人の男が刑務所送りにされた――カリスマシェフとして名声を誇ったジャレド・キートン。 彼は娘のエリザベスを殺した罪に問われたのだ。だが六年後のいま、その娘が生きて姿を現した! キートンは無実なのか? あらゆる証拠が冤罪を示し、窮地に立たされたポーを助けるべく、分析官のブラッドショーが立ち上がる。
シリーズ第2作『ブラックサマーの殺人』の面白いところは、既に主人公ポーが解決させ、犯人も刑務所送りになったある殺人事件が、実は免罪事件だったのではないか?という疑いがかけられる、という展開にある。実はなんと、殺人事件の被害者が生きて現れたからなのだ!事件を解決するのでなく、冤罪ではないことを立証する、そして解決したはずの事件をもう一度入念に洗い直すという、ミステリ小説としても異例のユニークさを持った展開が何しろ新鮮なのだ。おまけにポーは冤罪の責任と殺人の疑いで起訴寸前となり、その捜査にタイムリミットが発生する部分でさらなるサスペンスが生まれる。おりしもカンブリア州は異例の悪天候となり、土砂降りの雨の降りしきる”ブラックサマー”のただ中で、ポーは真相を究明できるのか!?というエキサイティングな一編だ。冤罪犯人が三ッ星料理人という部分もまた面白い。
