■バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生 (監督:ザック・スナイダー 2016年アメリカ映画)
■オレの大好きなザックの新作が公開されたよ!
オレはザック・スナイダー監督作品が好きである。「ザック・スナイダー監督作品」なんて水くさい言い方なんかせずに「ザックが好き」と言いたいぐらいだ。『300(スリーハンドレッド)』あたりで「なんか凄いヤツが出てきたな」と思わされたが、決定打はなんと言っても『エンジェルウォーズ』だ。「自由なヤツだな…」と思ったのである。「作ってて楽しくて楽しくてしょうがなかったんだろうな…」と思ったのである。同時に、「こいつアホだろ…」とも思ったのである。男はアホでナンボ。アホが一番。ザックの映画で苦手なのは『ドーン・オブ・ザ・デッド』だけである。「えーあれ傑作でしょー?」と思われる方もいるだろうがそうではない。あれ、怖すぎたんだよッ!
そんなザックの新作が公開される。タイトルは『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』。ザックが前回撮ったスーパーマン映画『マン・オブ・スティール』の続編である。『MoS』はいい映画だった。ザックだから当然だ。そしてその続編にはかのバットマンが登場するという。ほう。ヒーロー対ヒーローか。要するに『マジンガーZ対デビルマン』みたいなもんだな(古くてスイマセン)。バットマンといえば最近ではクリストファー・ノーラン版がいろいろ物議を醸したが、あのバットマン像をザックがどういじるのか。だがやはり『MoS』の"壊し屋"スーパーマンが今回はどんな無茶やってくれるのかに興味があった。
■【きまぐれな神】としてのスーパーマン
さて映画だが粗筋は端折る。要するにバットマンとスーパーマンがいろいろあって戦っちゃうわけである。そこにレックス・ルーサーという悪役が絡んで、さらにワンダーウーマンも飛び入り参加しちゃうよ!というお話である。
観てていてまず思ったのは、『MoS』がスーパーマンの立場に寄り添う形で物語られていたものを(主役だから当然だが)、今作ではそこから一歩引いて「スーパーマンってなによ?」という視点から物語られていたことだ。そもそもスーパーマンとはなにか?というとワケアリなクリプトン星からやってきた難民宇宙人である。難民宇宙人だがスッゲー力を持っている。その難民宇宙人がアメリカにやってきて、アメリカと、ついでに地球のために戦うのである。これはなにかというと移民の国アメリカということだ。移民の国アメリカはそれが宇宙人であろうと移民として受け入れ、そしてひとたびアメリカ国民となったのであればその国民はアメリカの為に尽くす、ということだ。それがアメリカなんだ、という物語だ。これがスーパーマン物語の根っこなんだと思う。
しかし『BvS』のスーパーマンは違っている。ここでのスーパーマンは、「アメリカ国民」ではなく【神】なのである。それは【万能の神】なのである。だが【万能の神】であるはずのスーパーマンなのに、アメリカの、ひいては世界の全てを平和と善良に導くことはできない。これはそもそもスーパーマンというキャラクターの持つ矛盾なのだが、要するに「いくら万能つってもたった一人なんだから物理的にムリ」ということなのだ。それでは【万能の神】じゃないじゃないか、ということになってしまうが、そうではなくて、実はスーパーマンは【万能の神】であると同時に【気まぐれな神】であるということなのだ。古来の神は人に慈愛をもたらしはするが、同時に災害ももたらしもする。そういった「創造と破壊の両面を持った神」として、『BvS』のスーパーマンは描かれる。まずここが面白い。
それが物語でどう描かれるかと言うと、前作における悪との戦いにおいて、街の高層ビル群に破壊に次ぐ破壊をもたらしたことに端を発する。いやー前作のビルディング破壊描写、凄かったですねー。オレもう観ていてヤンヤヤンヤだったわ。「壊せ壊せみんな壊してしまえ!」と画面に声援送りたいぐらいだったわ。だが「ちょっと壊し過ぎなんじゃないの?」という批判も確かにあり、それを受けて今作では「いっぱい壊しちゃってすんません」という話になっている、ということなんである。
で、壊されたビルディングのせいで大変な目に遭った方々が「責任とれ」となるんだが、例えばウルトラマンが怪獣との戦いでぶっ壊したビルの補償をしろ、という話は聞かないし、これは天災王国日本と訴訟大国アメリカの違いなんだと思う。スーパーマンは【神】で、それは【きまぐれな神】だから、天災みたいなことも巻き起こっちゃう。この、「あんた【神】なんだからどうにかしろ」という声と「【きまぐれな神】のやることだから畏れ敬うしかない」という声の狭間にいて沈黙を守っているのが今回のスーパーマンなのだ。【神】だからこそスーパーマンは「沈黙を守っている」。なぜなら神意は人間にとって容易に知れるものではないからである。公聴会の件もあったが、やはりそこでも【神】スーパーマンの声は聞けない。
■【神】に戦いを挑んだ【人間】、バットマン
ではそれに対するバットマンは何か?ということである。バットマンは科学技術を駆使したいろんなすんごいパワーを持ってはいるが、基本的には【人間】である。それと同時にバットマンは幼い頃のトラウマという心の闇を抱えている。そして彼が「正義の為に」と行う行為は、実は彼のそんな歪んだルサンチマンを昇華するために行われている行為でもあるのだ。即ちバットマンは科学技術を駆使した強力な装備に包まれながらも、【人間】の脆い肉体と遷りやすい精神を持った存在である。それは【限界を持った存在】であり、つまりそれは【常に死の運命と直面する存在】であるということだ。
【人間】である彼は、【常に死の運命と直面する存在】であるからこそ、【きまぐれな神】による不条理を赦すことが出来ない。見過ごすことが出来ない。スーパーマンが【神】という名の「自然の力への畏怖の具現化」だとすれば、バットマンは科学技術を駆使して【人間】という「脆い肉体と遷りやすい精神を持った存在」、さらに不条理な「自然の力」を克服しようとする【近代的精神】である。「神への挑戦」という言葉が使われることがあるが、それは「自然の理」を超越しようとするときに使われる。即ちバットマンとスーパーマンとの戦いは、【近代的精神】が【神】を超克しようとする戦いなのである。『BvS』、それは、【神】に戦いを挑んだ【人間】の物語だったのである。
こういった【神と人間の戦い】は古代メソポタミア文学『ギルガメシュ叙事詩』を始め世界の多くの神話伝説の中に残されており、『BvS』はそのハリウッド版創作神話ということができるのだ。その戦いの行方がどうなるのかは映画を観て確かめてもらうしかないのだが(平たく言うとネタバレ厳禁)、少なくともあのラストは「【神】と【人間】との戦いの果てには何が待つのか」を暗示していて興味深い。
さて映画それ自体はと言うと、「理屈よりも自由な感覚を重視しそれを映像で表現する」ザックらしい物語となっており、これは賛否両論を巻き起こしているらしいが、オレ自身はザックの映画の作り方の手癖足癖それ自体を愛している人間なので、何一つ気になることなく十分に楽しみながら映画の長さすら憶えず堪能することができた。やったねザック!あんたサイコーだよ!この文章でグダグダ書いたアナロジーの全てはザックが全く意識していないことばかりだと思うが、逆に、こういった連想を喚起するという部分においてザックの映画作りの自由さが秀でているのだということはできないだろうか。オレはこの作品を愛するし、これからのザック作品も愛するだろう。なぜならそれは、ザックだからである。
http://www.youtube.com/watch?v=k9OpUA6MkL8:movie:W620
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